ChatGPTが世界的に注目され、ビジネスの様々な分野で生成AIが活用されるようになってきました。個人情報・企業情報の扱いや著作権の保護などの問題もありますが、生成AIを活用することで不安の少ない創業、短期間での事業拡大や新事業の創出などが実現しやすくなります。
そこで今回の記事では、生成AIの活用により起業・会社設立して事業を成長させる重要点について解説します。生成AIの内容・特徴、できること・できないことなどのほか、生成AIのビジネスでの活用や影響などを紹介しますので、会社設立に役立てたい方は参考にしてみてください。
1 生成AIの主な内容や特徴
生成AI(または生成系AI)とは、ジェネレーティブAIとも言われており、多様なコンテンツを生成できるAI(人工知能)を指します。
AIは、コンピュータがデータを分析し、推論、判断、最適化提案、課題の定義や解決、学習(情報等から有望な知識を見つけること)などを行う、人間の知的能力を模倣する技術のことです。
AIの利用方法としては、チェス・将棋等の対戦、Google翻訳、SiriやAlexaなどのバーチャルアシスタント、などが有名ですが、それら以外にも自動車の自動運転、お掃除ロボット、生産ラインの不良品検知、クレジットカード等の不正利用検知、などが挙げられるでしょう。
こうした従来のAIの利用方法は主に決められた行為の自動化を目的としたケースが多かったですが、生成AIはデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテツを生成することを主な目的するものなのです。
従来のAIも、データの整理・分類を学習し、その結果に基づいて予測を行い、結果を出力するものであり、生成AIもその基本的な性質は同じと言えます。
しかし、従来のAIは、決められた行為の自動化が目的で、アウトプットされるものは、数値データやテキストデータなど、構造化されたタイプのものが多く、新しい形で創造することは対象となっていなかったのです。
一方、生成AIの場合は、情報の特定や予測を目的するのではなく、創造することを主要目的として、データのパターンや関係を学習します。学習に使用するアルゴリズムは、両者ともニューラルネットワーク(人間の脳の神経回路の仕組を数学的に表現する手法)ですが、生成AIは、構造化されていないデータセット(特定の目的に集められ一定の形式に整理されたデータの集合)をもとに学習し、新しいコンテンツを生成するという特徴があります。
もう少し分かりやすく説明すると、従来のAIは事前に大量のデータを与えて特徴や傾向を学習させておき、入力したデータに対して正解か不正解かを判別する、予測することが主な利用方法で、用途は文字認識や画像認識、需要予測などです。
一方、生成AIは新たなアウトプットを生成・創造することを目的とするAIで、学習したデータをもとに人間のように考えて計画し、自ら創造できます。この点が従来のAIと大きく異なる点なのです。
1-1 ChatGPTとは
ChatGPT(Chat Generative Pre-trained Transformer=文章生成モデル)とは、まるで普通の人間と対話しているかのような、自然な会話が可能な対話型AIチャットサービスを指します。
ChatGPTは生成AIのアプリケーションの一つであり、入力された質問に対して高度な回答を行うことができ、個人や企業を問わず、様々な場面で利用することが可能で、活躍分野の拡大可能性が期待されているのです。
このAIチャットサービスは、2022年11月に公開され、無料での利用が可能であったこと以上に、生成した文章の優秀さや人間味のある回答がSNSなどで大きな話題となり、革新的なサービスとして注目を集めリリース後わずか2カ月でユーザー数は1億人を超えました。
2023年3月には、より性能が向上した「GPT-4」がリリースされ、有料プランのChatGPT Plus(20ドル/月)も導入されています。従来型のモデル(GPT-3、GPT3.5)以上に出力精度が向上したため、ChatGPT (API)を活用することで企業・個人は多様なサービスの開発や、コミュニティでの議論、などが行いやすくなりました。
ChatGPTが従来のチャットボットと大きく異なる点は、「自然で流暢な文章の生成が可能である」や「インターネット上の膨大なテキストデータからの学習が可能で、回答領域が幅広い」などです。
従来のチャットボットは、質問に対して事前に設定された答えを回答するサービスであり、想定されていない質問への回答は困難です。しかし、高度な自然言語処理技術を使用したChatGPTは、文意や文脈を理解し情報を探索して、柔軟に回答を生成できます。
加えてChatGPTは、WEBページ、ニュース、書籍、ブログ、ツイートなどのインターネット上の膨大なテキストデータから学習するため、回答できる範囲が広い点も特徴です。
たとえば、一般的な知識や時事、科学技術、エンターテインメント、スポーツ、ビジネス、医療、教育、歴史、文化、などに関する質問に回答できます。
しかし、機械学習に基づく技術を使用しているため、情報の正確性や詳細性には限界があり、結果が保証されるものではありません。また、現在では倫理的な問題やプライバシーの問題がある場合には、回答が控えられるケースもあります。
1-2 ChatGPT以外のAIサービス
ChatGPTは多様なタスクを処理(生成)できる万能型ジェネレーティブAIアプリですが、他の事業者からも以下のようなAIサービスが提供され始めました。
特徴 | サービス名 | |
---|---|---|
総合型 | PT-3.5、GPT-4がベースのタイプで、対話型で文章を自動的に生成する | ChatGPT、Bard 等 |
翻訳特化型 | ディープラーニング技術を用いてある言語から別の言語への翻訳を行う機械翻訳手法の「ニューラル機械翻訳技術」が利用されている。文の意味や文法関係を網羅的なベクトル(単語の意味や性質に関する類似性や特徴の座標)表現で捉えることが可能 | T-tact AN-ZIN®、ModernMT など |
要約特化型 | 要約に伴う多様なタスクを自動で行う機能を保有。学術論文など大量の情報を必要とする人に適する | Catchy、QuickSummary など |
マーケティングライティング | 認知度の向上や集客のための広告文書の自動作成。人目を引く文章、注目を集める文章を素早く簡単に作成できる | Jasper、Rytr(ライトル) など |
コーディング支援 | ゼロからコーディングを行うというものではなく、開発者のコーディング作業を補完するのが主な機能。指示されたタスクに対して、自動的に適切なコードを生成する | TabNine、Hugging Face など |
1-3 生成AIの基本的な利用方法と活用
ここで生成AIの基本的な利用の仕方と活用方法(できること等)を簡単に見ていきましょう。
1)生成AIの基本的な利用の仕方
通常、生成AIサービスを使用するには、各AIツールに対応した形式でデータを入力します。たとえば、テキスト生成系AIの場合は「テキスト入力」、画像生成系AIは「画像入力」、文字起こし生成系AIは「音声入力」が必要です。
ChatGPTなどテキスト生成系AIでは、Web上のテキストボックスにAIへの要望や質問など(prompt=AIへの指示)を入力すれば、AIが入力された内容を解析し、適切な答えを返信してくれます。
画像生成系AIの場合は、テキスト生成系AIのようなpromptをもとに画像を生成するものや、入力された学習元になる画像をAIが学習し、それらの画像の特徴を有した新しい画像を生成するものがあります。
文字起こし生成系AIは、音声データをAIに入力し、テキストとして出力するタイプが多いです。
無料版のChatGPTを利用する場合、OpenAI社のWebサイトで、アカウントを新規に登録するか、GoogleもしくはMicrosoftかAppleのアカウントで登録すれば、直ぐに利用できます。
アカウント登録後の実際の利用方法は、Web上のテキストボックスに、質問したいことや実施してもらいたいことなどを記述して送信するだけです。
2)生成AIで実施してもらうタスク
生成AIで行ってもらうタスクの例を紹介しましょう。
●テキスト生成AI
例えば、「○○についてのお礼メールの内容を書いてもらう」、「小説の続きを書いてもらう」、「レポートの要約を作ってもらう」といった内容になります。
⇒「○○という件名のお礼のメール内容を書いてください。」と入力すればOKです。
●画像(動画)生成AI
「自分の顔写真をアニメ風に加工してもらう」、「○○についてのイラストを描いてもらう」などができます。オープンソースAIの場合、Web上に構築された環境で動作させる、またはローカル環境で独自に動作させる方式が多いです。
動画生成AIでは、入力した動画を全く新しい動画に作り替える、テキストで生成したい動画のイメージを入力して、短編動画を作成することもできます。
●音声合成AI
自分の声で歌ってもらう、英語の発音をチェックしてもらう、などが可能です。利用方法は、入力ボックスに音声にしたい内容のテキストを入力して、「Voiceメニュー」から好きな声を選択するなどすれば、生成してくれます。
⇒「こんにちは、私は〇〇です。アウトドアや旅行に興味があり、「□□」というブログを運営しています。よろしくお願いいたします。」というテキストを入力して、好きな声などを選択すると、音声を生成してもらえます。
●自動翻訳AI
たとえば、英語の文書を日本語に翻訳してもらう、日本語の文書を英語に翻訳してもらうなどができます。
⇒「以下の文章(日本語)を英語に翻訳してください。」と入力すればOKです。
●自動要約(解説)AI
たとえば、長いニュース記事を要約してもらう、論文の概要を作ってもらう、ことなどができます。また、特定の内容について解説してもらうことも可能です。
⇒「以下の文章を300字以内で要約してください。」や「△△について1000字以内で解説してください。」といった内容で入力します。
●プログラム自動生成AI
生成AIの中には、プログラム生成・プログラム解説生成・プログラム問題生成などのプログラミング能力を有するタイプが登場してきました。
たとえば、プログラム生成とは、自然言語で記述された文章をもとにプログラムのコードを生成することですが、これを生成AIが実行してくれるのです。
⇒「Pythonでまるばつゲームを作ってください」と要件を提示すれば、対応可能な生成AIはPythonで動作するゲームのプログラムを生成してくれます。
3)生成AIのやれること、やれないこと
生成AIの業務に関連した「できること」「できないこと」を見ていきましょう。
(1)できること
●定型業務の効率化や自動化
生成AIは、文章の要約や編集・校正、企画書やプレゼンテーションの作成、議事録の作成、FAQの作成、決まった質問へのメールによる返答、などの定型業務を人間以上の速度で行ったり、自動化したりすることが可能です。
たとえば、文字起こし生成系AIなら、社内会議の録音データをテキスト化して議事録にできます。ほかにもコールセンターでの顧客等との会話を録音したデータを文字起こししてシステムに登録の上活用するといったことも可能です。
一定の時間をかけて文章を作成したり、録音データを繰り返し聞いて文字にしたりする、といった作業から社員が解放され、業務効率の向上に繋がります。
●十分な学習データを必要としない予測
生成AIは、従来のAIが必要としていた膨大な学習データを前提とせずに、既存のデータを応用しながら予測を立て、要求された内容に対する答えを導き出せます。
従来のAIは、目的に応じた大量の学習データを読み込ませ、その情報から特徴を抽出して傾向を導き出すというのが特徴です。そのため従来AIは、人間の未経験の領域や珍しい事象に対して、十分なデータを集めて対応するようになっていません。
一方、生成AIは、新規の膨大な学習データを必要とせずに、既存のデータを応用して予測を立て、結果を導くことが可能であるため、様々な問題解決や開発業務などに利用することが可能です。
●クリエイティブな作業の支援・補助
生成AIは、クリエイティブな作業の支援・補助が可能で、デザインや設計案の作成の支援・補助ができます。
たとえば、小説を執筆する際の主人公のキャラクターに関するアイデアを生成AIに求めたり、また、ある商品の開発における形状・カラーや機能などに関するデザインのアイデアを要求したりすることが可能です。
人間が商品等のデザインなどに従事する場合、気づかないうちに過去の自身の経験則等の影響を受け、それが先入観となって独創性や新規性の妨げになることも多いですが、生成AIを活用することでその影響を排除して、クリエイティブな作業を促進させてくれます。
●コンテンツの制作コストの削減
生成AIを利用すれば、今まで社内で多くの時間を要して作成していたコンテンツを短時間で作る、外注していたものを社内で作成することができるため、制作コストや制作時間を大幅に削減することが可能です。
会社で様々なコンテンツを制作しているケースは少なくありません。たとえば、商品のパンフレットやPR用動画などの制作ですが、これらはその目的に合った出来栄え、顧客を惹きつける構成・内容などが求められるため、外部の専門家に依頼することも多いです。
一方、社内で制作する場合、かなりの制作時間を要するケースは少なくありません。こうした制作について生成AIを利用すれば、外注に任せなくても多くの時間や費用をかけなくても制作できるようになるのです。
また、外注していたものを社内で制作すれば、より顧客に近い社員の意見を反映させたり、修正したりすることも可能となるため、より高品質なコンテンツを作成できるようになります。
なお、今では生成AIでイラストが描けるためVtuberイラストの作画も可能で、音声生成AI、テキスト生成AIなどを組み合わせればVtuberも社内で作れます。
●個人や企業へのカスタマイズ対応
生成AIを活用することで、個人や企業の体験等に基づいた商品・サービスに関する最適化、すなわちカスタマイズ対応が可能になってきました。
これまでのWEB広告では、個人に最適化された広告を表示する技術が採用されるケースも多いですが、その広告の構成内容のパーソナライズ化までは困難でした。しかし、生成AIの利用でWEBサイトや商品の説明文などを個人にカスタマイズした内容・構成で表示することが可能になってきたのです。
生成系AIが、各顧客等にカスタマイズしたコンテンツ(広告や商品提案等のコンテンツ)を素早く作成すれば、企業は集客の向上や購買の増大が期待できるようになります。
企業側のライター、マーケター、クリエイターなどは、生成AIの活用によりコピーを生成する、オーガニック検索(検索エンジンの結果ページに自然に表示される、広告ではない検索結果)を最適化する、デジタル広告コンテンツのパーソナライズ化する、ことなどが実施できます。
(2)できないこと
生成AIは、ディープラーニングによる機械学習を何度も行った結果をベースにオリジナルのコンテンツを生成するAIであり、人間のような思考に基づいたコンテンツを生成しません。従って、人間の思考や感情に寄り添ったコンテンツ作りや以下のような対応は今のところ困難です。
●AI自身は考えない、創造できない
AIは大量のデータから学習して、パターンを認識するための特徴量を抽出し、学習モデルを作って、質問や要望に対する情報を認識して回答します。
人間も同じような情報処理をすることも多いですが、そうした多くの機会学習の結果とは関係のない発想をしたり、アイデアを思いついたりすることも多いです。しかし、生成AIではそのような発想は現在のところ実現されていません。つまり、真に独創的、クリエイティブな発想が生成AIには困難です。
●感情をもてない、理解できない
人間の言動は自身や他者の感情に左右されることも多いですが、生成AIには感情がないためそうした影響を受けることはありません。つまり、質問者や質問に関係する人々の感情を理解してそれを反映した答えを生成することはないのです。
人間の場合、対人サービスなどにおいては質問者や相談者から提示される表面な情報だけでなく、彼らの話し方、態度、しぐさなどから、より正確な情報や要望などを聞き出して、それをもとに回答を提示することがよく見られます。
しかし、今のところ生成AIは表面的な情報の処理が中心であり、こうした人間が行う「感情を読み取っていこうとする対応」ほとんど実施されていません(画像データや音声データを機械学習して、人物の感情を推測・表現することは可能)。
●五感への対応はこれから
ディープラーニングでの画像や音声の認識を繰り返し行い、センサーなどのツールを利用することで、視覚や聴覚に関する情報処理への対応が生成AIにおいて可能となってきましたが、その他についての対応はこれからといった状態です。
2 生成AIの市場状況とビジネスへの影響
生成AI市場の現状や生成AIのビジネスへの影響などを紹介しましょう。
2-1 生成AI市場とその有望分野
まず、生成AI市場の規模と有望分野を確認していきます。
1)生成AI市場の状況と規模
米国の総合情報サービス会社であるBloomberg社の2023年6月2日の記事によると、「生成AI市場は10年間に42%のペースで拡大する可能性」があり、「アマゾン、マイクロソフト、グーグル、エヌビディアが大きな勝者に」なると報じています。
具体的には、オープンAIの「ChatGPT」やグーグルの「Bard(バード)」など、消費者向け人工知能(AI)ツールのリリースによって10年ほどのブームが続き、生成AI市場は売上高ベースで昨年の400億ドルから2032年までに1兆3000億ドル(約180兆円)規模へ大きく成長する、と見込んでいるのです。
生成AI市場は10年間に42%のペースで拡大する見通しで、まずAIシステムの訓練に必要なインフラの需要、次いでAIモデルや広告などのサービスを利用する後続デバイスの需要がけん引する可能性がある、と指摘されています。
また、「生成AI分野は今後10年間に爆発的な成長が予想され、それがテクノロジー業界の仕組みを根本的に変えていくことが期待される」と分析しており、AI技術がITや広告向け支出、サイバーセキュリティーの重要な部分を占めることになる、と予想しているのです。
加えて「アマゾン・ドット・コムのクラウド部門、グーグルの親会社アルファベット、エヌビディア、オープンAIに多額の資金を出資しているマイクロソフトが、特にAIブームの大勝者になる可能性が高い」と指摘しています。
以上のように生成AI市場は、かつての半導体メモリー市場で見られた加速度的な進歩が期待されており、大型投資が活発化している状況です。Microsoftは2023年1月に100億ドルをOpenAI社に投資し(株式の取得)、Googleは3億ドルでAnthropic社の株式を取得しました。
調査会社ピッチブックによると、生成AIを手掛けるスタートアップ企業への投資額が2020年の15億ドルから、22年初頭以降には59億ドルにまで拡大したと報じています。実際、生成AI分野での起業意欲は高く、アクセラレーター等のイベント(プレゼン発表会等)の参加者のうち4割ほどがAI関連となるケースが少なくないのです。
2)生成AIのビジネスへの活用
生成AIのビジネスでの活用は様々ですが、企業によってその取組は大きく3つのステージに分かれます。
第一段階:
この段階は企業としての取組を正式に行っていない「様子見的な段階」です。この段階の企業は、実際の事業や業務の遂行において生成AIを正式に活用しておらず、その運用については各部門や各社員に任せている、といった状態になります。
なお、不適切な運用により業務に障害が生じないように利用する際の注意点や禁止事項などを規定する企業は少なくないです。
第二段階:
この段階は、他社よりも早く生成AIを事業や業務で活用できるように取り組む企業などが該当します。具体的には、業務効率の向上や生産性の改善に生成AIを活用して、コストの削減や収益の向上に取り組んでいる状態です。
たとえば、顧客からの質問・相談などの対応を行うカスタマーサービスの業務を生成AIにより自動化した「カスタマーサービスAI」などが代表的な活用例になります。ほかにも自社データベースの検索システムに生成AIを活用してリサーチ業務や研究開発などの業務の効率化や高度化に利用しているケースも多いです。
第三段階:
この段階は業務改善のレベルからさらに一歩進めた利用方法で、製品の機能拡張や品質向上などにより他社との差別化を図り競争優位性を確保する等の取組が該当します。
また、革新的な製品・サービスの開発など、生成AIを戦略的に活用する企業なども該当します。
たとえば、アドバイザー業務についてAIアシスタントを利用する場合、従来では自社業務に関する自社のデータをAIに読み込ませて対応させるケースが一般的でした。
しかし、現在では社内データのほか分析リポートや市場データなども取り込みより顧客が求める内容を返答するなど、満足度の高い顧客体験の提供を目指すための活用が見られるようになってきたのです。
生成AIを自社の事業・業務に導入・運用する場合、自社の事業特性やデジタル活用等に関する組織能力・文化などを考慮して、どのように取り組むか、どのレベルから取組んでいくかの検討が求められます。
導入する対象の内容、特徴、できること・できないこと、などを十分に理解して進めることが重要です。
3)有望な分野
生成AIの活用が期待される分野をご紹介します。
(1)製品設計や研究開発の分野
日経新聞社が報じる米国・CBインサイツ社のリポートによると、生成AIは「インフラプロジェクトの設計時間を最大90%短縮し、工業デザインでは原材料の使用量を95%以上削減できる」とし、産業界の既存の各社は以下のように生成AIの活用に動いていると指摘しました。
- ・韓国の現代自動車は新しい形態の車の部品を効率的に作成するために、CADソフトウエア大手、米オートデスク社のジェネレーティブデザイン・ソフトウエア(条件入力によりデザイン案を自動生成するソフト)を使用
- ・米IBMはコンピューターチップの材料を探して試すために、生成AIを活用
(2)クリエイティブ分野
生成AIはリアリティの高い画像、映像、音声を作り出すことが可能であるため、アート制作での活用が益々期待されています。特にデジタルアートの分野が有望です(著作権等の問題あり)。
2018年にクリスティーズ主催のオークションに「AIが描いた絵画」という触れ込みの絵画「エドモンド・ベラミーの肖像」が出品され、43万2500ドル(約4800万円)で落札された、と世界的に話題となりました。
なお、この作品はロビー・バラットが、その作品が出品される1年以上前にネットで公開したニューラルネットワークの作品を利用したものであったため、物議をかもしたのです。
そのロビー・バラットの作品は、生成AIを活用して伝統的な技法と最先端技術を融合させたユニークなアート作品でした。生成AIのモデルにデータを学習させると、非常にユニークかつ独創的な画像や動画を産出することも可能になります。
ほかにはAI生成音楽も有望です。最近では生成AIを利用したカスタム音楽を作るプラットフォームの提供などが見られるようになってきました。ユーザーが希望するジャンルやテンポ・曲調等を指定すればと、AIが条件にマッチした完全オリジナルの楽曲を生成し提供してくれます。
(3)ヘルスケア分野
ヘルスケアにおいても生成AIへの期待は大きいです。大量のデータ分析が可能な生成AIは、既存の分析システムよりも的を絞った効果的な治療法や薬剤の開発を可能にすると期待されています。
たとえば、100万以上の化学物質を分析し、各種の病気に有効な薬の候補を特定できる生成AIモデルなどが開発されており、これまでの創薬プロセスを革新的に加速させ、「不治の病」の治療法などの開発に繋がることが期待されているのです。
(4)金融分野
金融業界では、不正検出と防止の精度向上に生成AIが活用できます。具体的には、生成AIモデルにより大量のデータ分析を行い、不正行為を示す可能性のあるパターンや異常を特定する、といったことが可能になるのです。
たとえば、金融機関の中にはソーシャルメディアやニュース記事などの多様な情報を分析し、不正の可能性を特定できる生成AIモデルを開発している事例が見られます。こうしたシステムが、不正による金銭的損失を抑制するほか、金融システムのセキュリティ全体を向上させる効果が期待できます。
(5)物流分野
物流企業では、生成AIを活用して「配送ルートの最適化」を図り、コストの削減や温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいるケースが見られます。
生成AIを活用して、交通パターンや配送先周辺などのデータ分析を行い、配送車両を運行させる最も効率的なルートの設定が可能となるのです。その結果、燃料消費量の削減、配達時間の短縮、サプライチェーン全体の効率化が容易になります。
(6)販売管理・在庫管理分野
物流を効率的に実施していくためにも販売及び在庫の管理を適切に行う必要がありますが、これらでも生成AIの活用が有効です。
従来の在庫管理では、人間の知識や経験のほか、情報システムを活用して在庫を管理し必要な数量を発注する方法が取られてきました。しかし、これらの方法では全国にある多数の店舗や倉庫の在庫を的確に管理するのは困難であるため、AIを活用した在庫管理が導入されるようになったのです。
たとえば、リアルタイムの在庫データをもとに、今後の販売計画のほか、過去の売上データ、顧客属性、需要変化などのデータも加えて需要を予測することも可能で、過不足の少ない在庫管理が実現できるようになります。
また、倉庫等での在庫管理や出荷の業務などでは、AGV(無人搬送車)や自動ピッキングツールといったマテハン機器にAIが搭載され、正確な入庫・出庫が実施されるほか、毎日の業務データを保管・分析するシステムとして利用されているのです。
販売管理は、商品を販売するまでの一連の業務を管理することで、具体的には見積業務、受注業務から出荷業務、売上業務、請求・入金業務、在庫管理、購買業務、発注業務から入荷業務、仕入業務、支払業務などになります。
従って、先ほどの在庫管理も広義には販売管理の一部で、需要予測も範疇に入ると言えるでしょう。販売管理の範囲は広いため、AIの活用は需要予測や見積り業務などの個別業務に対応する形で利用されるケースは多いです。もちろん広範囲の業務を総合的に対応する統合パッケージソフトにAIを活用しているケースもあります。
基幹系と情報系のシステムをデータ統合して、「販売システムで見積書を作って、ワークフローで申請及び承認する」「ワークフローで承認された領収書を、会計データとして処理・保管する」といった利用が可能になるのです。
(7)教育分野
学生のリポート作成における生成AIの活用が問題視され、話題になっていますが、教育における生成AIの活用は期待されています。
生成AIを教育に活用するメリットとしては、「各生徒のレベルにあった教育内容(参照情報や問題等)やアドバイスを提供できる」「答案の採点と結果の分析の自動化」「リアルタイムの助言」「生徒の成績を多面的に分析しその結果を教育に反映できる」などが挙げられるでしょう。
また、生成AIは、教育目的に応じたリアルなシミュレーションを提供することが可能です。今ではバーチャルリアリティ(VR)技術と組み合わせた教育が提供できます。文章や写真だけでは理解が難しい内容や抽象的な事象等もVRを活用したインタラクティブな体験を通じて学べば理解が進むでしょう。
こうした学習方法は学校教育だけではなく、企業の業務におけるスキルの習得などにも使用されており、今後もさらなる利用の拡大が見込まれます。
2-2 生成AIに代替される既存ビジネス
生成AIが業務に活用されることで自動化等が進み、AIシステムに仕事が奪われる分野が増加する可能性が高いです。
1)AIによって自動化される業務
ゴールドマン・サックス社の調査をまとめた資料(経済産業省)によると、「今後米国の業務の1/4はAIにより自動化され可能性がある」とし、以下の点が指摘されています。
- ・オフィス、事務支援業務や法務など特定のルールや過去の事例に従って行う業務は特に自動化の余地が大きい
- ・営業、マネジメントなど相手の感情理解や意思決定が必要な業務でも、一部の業務(文書作成 等)はAIによる自動化の余地がある
- ・アート・デザインのような分野においても、生成AI等の技術の台頭により業務の自動化の余地は全業種平均(25%)より大きい
- ・その他、物理的な対応を多く求められる業務(清掃/機械修理/建設 等)等は自動化の余地が限定的
創業する際には上記の点を考慮することも必要です。
2)AIに代替される業務(作業)内容
上記の資料から生成AIに代替される業務(作業)の一部を紹介しましょう。
●マーケティング
広告代理店の例として、「マーケティング・コンテンツの制作」「ソーシャルメディアコンテンツの作成」「投稿のスケジューリングとアップロード」等が代替される業務として挙げられています。
●コーポレート業務(経営企画、マーケティング、ブランディング、経理、財務、法務、人事など)
たとえば、財務会計でのオペレーション業務では、財務会計の入力、仕分け、確認、などの業務です。人事関連の管理業務では、従業員の給与・税金処理、などが挙げられます。
●IT関連業務
システム開発会社の場合、システム開発の開発作業では、設計のドラフト、コーディングとデバッグ、などの業務です。また、システム関連の問い合わせ対応では、「よくある質問」のトラブルシューティングなどが挙げられます。
●営業
コールセンターの場合、顧客管理業務では、顧客への提案書・見積書の作成のほか、顧客とのやり取りの記録・管理、などで代替の可能性があるでしょう。
生成AIによって上記のような業務が代替された場合、管理職や担当者等は戦略の策定、経営課題の解決などの業務に時間を割くことができます。たとえば、マーケターの場合は、生成AIによる自動化で以下のような業務の変化が生じるでしょう。
現在の業務:
- ・マーケティング・コンテンツやアイデアを作る
- ・ソーシャルメディアアカウントの管理、投稿のスケジューリングとアップロードを行う
- ・広告代理店とやり取りするための資料(広告などの仕様や設計図、情報)を作成する
代替後の業務:
- ・AIで作成した上記資料、ブランドガイドラインや全体的に優れた迅速なマーケティング・コンテンツの初稿を監修する
- ・顧客、サプライヤー、ブランド・アンバサダーとのより深い関係を構築する
- ・ブランド戦略の立案、ポジショニングの実施、対象オーディエンスの設定を行う
- ・パーソナライズされたマーケティングを推進する
- ・キャンペーンに生成AIを搭載したツールを導入・運用する
3)AIに代替されると思う職業
株式会社クロス・マーケティングが2023年5月に、全国20~69歳の男女有職者7,532名を対象に「生成AIに関する調査(2023年)」を行った結果、「AIに代替されると思う割合の高い職業」を以下のように示しました。
「とってかわられると思う職業」の上位は、「財務・会計・経理」「一般小売店の定員」が2割台で、その次は「データサイエンティスト」「運転手」「システム・サイト保守運用」が続きます。
一方、「とってかわられないと思う職業」の上位は、「農業・漁師」がトップ(23%)で、次いで「医者・看護師・歯科衛生士」(21%)で、「介護士」「カウンセラー」「法曹」「教師」等のエッセンシャルワーカーとなっています。
3 生成AIのビジネスでの活用例
先の日経新聞社が報じる米国・CBインサイツ社のリポートから産業界における生成AIの活用例を紹介しましょう。なお、ここで示す内容は、主にベンダー(システム会社)が開発した生成AIモデルを活用した事例です。
3-1 ものづくりの設計
●製造業・製品の設計
生成AIは航空機関連から消費財など製造業全般において、部品などの設計・開発を加速させるために利用されています。たとえば、各技術者は生成AIを活用して、寸法や材料、重さなどの条件を入力すれば、短時間で設計を進めたり、試したりすることが可能となるのです。
ベンダーのオートデスク社は、長年に渡り、この分野のイノベーション(技術革新)を牽引してきた企業で、欧州エアバスはオートデスク社のジェネレーティブデザイン・ソフトウエアを使い、主力の小型機「A320」のパーティションの開発に成功しました。
その新しいデザインのパーティションは従来よりも45%軽く、1回の飛行で必要な燃料や排出する温暖化ガスの量を削減し、原材料の使用量を95%も減少することに成功しています。
●建物の設計
生成AIモデルは、一品一葉の受注生産となる建物の設計にも有効です。建物の立地、気候条件、予算など顧客企業の条件を入力すれば、建物の設計や間取りなどの建設計画(モデル・プラン)を自動生成できます。
従来、こうした建設プランの作業では通常、社内や外部コンサルタント等の綿密な調査や検討が必要ですが、生成AIモデルの利用により計算等が自動化され、プラン作成にかかる時間と費用が大幅に節約されるのです。
たとえば、オーストラリアのアーキスター(Archistar)社のソフトウエアプラットフォームを活用すれば、不動産開発企業は複数の建物を一斉に設計して比較したり、環境分析や資金的に実現できるモデルを作成したりすることができます。
また、インフラの設計においても同様の効果が期待できます。米国のトランセンド(Transcend)社は自社ソフト「デザイン・ジェネレーター」を開発しており、その利用で技術者はごみ処理施設や発電所の設計時間を90%短縮することが可能となったのです。
生成AIの活用によりシステムのシミュレーションや機器の選定、建物のモデルを設計できるため、技術者はプロジェクトの最終判断を迅速に行い、予算案の検討にかかる時間を短縮できます。
製造業や建設業などで創業する者も生成AIモデルを活用すれば、設計・開発にかかる時間を大幅に短縮し、コストも削減できるため、競争優位性を確保することが容易になるでしょう。また、創業者にとっては設計にかかる人員を少なくできる点は特に有効です。
3-2 材料の探索
生成AIモデルの活用により、導電性や磁力など特定の性質を最適化した全く新しい材料を作成することも可能です。たとえば、新たな材料を分子レベルで探索することが生成AIの利用によって実現されています。
具体例としては、IBM社が製造業やエネルギー業界などにおいて、生成AIを活用した、材料探索の作業を加速している例が挙げられるでしょう。材料探索の分野では、これまで適切な特性を持つ新たな材料の発見に約10年という期間と1000万~1億ドルの費用がかかっていましたが、生成AIの活用によりそれが大きく短縮・削減されるようになったのです。
例えば、IBM社はAIを活用し、高コストで産出の安全性に問題があるコバルトやニッケルなどの重金属に代わる、安全で高性能な電池向け電解質の材料を探索しています。
3-3 自動運転車用の合成データ
自動運転車用の合成データとは、自動車の自動運転を実現するために必要なデーであり、その作成に生成AIが利用されているのです。そのAIは、シミュレーションの訓練やテストに必要な合成データを生成し、開発の促進に役立っています。
合成データは「リアルワールドデータ(実際の走行データ、走行試験データ等)」よりも入手しやすく、自動運転車の市場投入までの期間を短縮し、性能の向上に役立ち、広範で多様な訓練シナリオの導入に有益なデータです。
米国のパラレルドメイン(Parallel Domain)社は顧客企業が天候や車、人など様々な要因に対する自社モデルの反応をテストするための合成データプラットフォームを提供しており、そのクライアントには米グーグル、トヨタ自動車、ウーブン・プラネット・ホールディングス、などがいます。
米国のエヌビディア社やテスラ社などの業界大手も自動運転車の訓練を効率化するために生成AIを活用しているのです。
また、医療分野では、リアルワールドデータ(臨床試験データ、電子カルテデータ等)を収集したり、薬物治療に関するデータを標準化・構造化したりするのに生成AIが利用されています。
3-4 調達
生成AIは調達業務でも活用されており、調達部門のプロジェクト計画の立案や過去のプロジェクトに基づいた詳細な調達計画の作成などにも有効です。
調達業務では、通常、担当者は適切なサプライヤーを探し出すなどの、多くの時間を要するプロセスに従事します。このプロセスがそうした調達業務の成功の基礎となり、優れた調達チームを有する企業の利益率は、平均を15%上回るケースも多いです。
生成AIの活用により、担当者はより詳しい調査や調達計画を作成できるため、買い過ぎを減らし、支出を抑えることが可能となり、企業の利益向上に貢献できます。
具体例としては、米国のグローバリティ社は生成AI(オープンAI社の言語モデル「GPT」)を活用して、プロジェクトの計画を記したメモから詳細な仕様書に仕上げられるモデルを提供しています。
また、グローバリティ社のAIボット「Glo」は利用者への質問から得た情報でプロジェクトの詳細を把握し、調達書類を自動的に作成できるようにしました。同社はGloの活用によって調査の効率が向上し、調査時間の短縮に成功しており、加えて同社の複数の顧客では費用が15%削減できたとの結果を得ています。
4 生成AIを活用した起業・会社設立から事業拡大への取り組み方
ここでは創業者等が、生成AIを活用して起業・会社設立して事業を拡大していく際のポイントを説明しましょう。
4-1 生成AIの活用段階に応じた導入
生成AIをビジネスで活用するためには、自社の活用状況を踏まえて、導入の仕方を決め進めることが重要です。
1)様子見の段階の場合
生成AIをまだ本格的に導入をしていない段階の場合は、生成AIモデルによりビジネスで何が実現できるか、業務にどう役立てられるか、といった認識のもとに進めることが求められます。
「生成AIの導入方法がわからない」、「生成AIの活用イメージがない」や「生成AIモデルの導入・運用の社内規定がない」などの理由で生成AIが導入されていないケースは多いです。
こうした状況から生成AIを実際に活用していくには、その特徴を理解するとともにビジネスでの活用事例を多く確認するなどの取組が必要になります。
たとえば、起業ではビジネスモデルの構想から始めることになりますが、その際にChatGPTやBardなどを利用して進めるのも有効です。そうすることで事業化の作業を効率的に進められるとともに生成AIの利用の仕方や可能性も把握しやすくなります。
これから飲食業で起業したい場合に「コロナ禍で成長を維持できる飲食店の特徴を教えてください。」と生成AIモデルに質問すれば、以下のような回答が得られます。
- ・デリバリーやテイクアウトなどの新しいサービスを提供すること
- ・オンライン予約システムの導入
- ・キャッシュレス決済の導入
- ・テイクアウトメニューの充実
- ・マーケティング戦略の見直し
また、回答された内容についてさらに質問していけば、有効な仕組を構想することができ、ビジネスコンセプトからモデルへと作り上げることも容易になるでしょう。
2)業務改善等の活用段階の場合
既にビジネスモデルが決定しており、そのビジネスシステムの業務の効率化や自動化などを進めて行きたい場合は、その事業に合った生成AIモデルを探し導入・運用していきます。
つまり、この段階では、生成AIモデルを現在の事業やこれから始める事業の業務をよりよくするために活用していくわけです。
生成AIモデルは、「文章の作成や要約」「コード生成」「画像生成」「音声・音楽生成」「動画生成」などの利用から、定型業務の効率化、クリエイティブな業務の補助、コンテンツの作成、などの業務への活用が可能であり、売上向上やコスト削減などの課題解決に役立ちます。
従って、生成AIモデルを自社の業務に利用してコスト削減や競争力の強化などの経営課題の解決に役立てるという目的で、最適なモデルを調査し導入の検討を進めるという取組が求められます。
自社のIT責任者やIT部門などが中心となって検討を進めるとともに自社で対応が困難な場合には専門のベンダー等にサポートしてもらうといった対応も必要です。
3)戦略的な活用段階の場合
この段階は、ビジネスモデルの策定やコアとなる業務(たとえば、製品開発、プロモーション、顧客管理 等)に生成AIモデルを活用するといった状態を指します。つまり、経営戦略や事業戦略の重要な部分について生成AIモデルを活用して構想したり、仕組を作ったりするといった取組です。
具体的には、新商品企画のアイデア創出、ターゲットの分析・需要の予測から適切な販売計画や在庫計画の策定、新たな製品の開発、有効なプロモーション方法の構想、カスタマイズした顧客対応の実現などに利用します。
戦略の策定や実行にどのような生成AIモデルを利用したらよいか、についての知見を蓄え、費用対効果や実現性などを踏まえて導入していくことが必要です。
4-2 生成AIモデルの導入のアプローチ
生成AIモデルを事業の発展に貢献できるように導入するためのアプローチの仕方を簡単に説明します。
1)初心者レベルのアプローチ
生成AIモデルを自社の事業・業務に利用したことのない「様子見段階」にあるような企業では、まず、ChatGPTのような無料で簡単に使用できる生成AIモデルから始めるとよいでしょう。
その際、生成AIモデルの利用についての社内規定がない場合は、基本的な利用方法や禁止事項などをある程度定めておき、対象外の内容については事前に承認を受けるなどの社内ルールを設定するのが望ましいです。
使用するテキスト作成ツールや画像生成ツールなどを具体的に指定しておくことや、会社として積極的に導入を進めて行く場合などは社員へ利用を促す取組も必要になるでしょう。
なお、起業や会社設立する際には、起業上の重要ポイントや会社設立の必要な手続事項の内容などについてChatGPT等を利用して情報を収集したり、漏れをチェックしたりすることに役立ちます。
2)収益に繋げるアプローチ
このアプローチは先の業務改善に利用する段階等で実施する方法で、具体的には生成Aモデルを、自社のシステムや他の技術と統合して業務プロセスを自動化したり、効率化したりして収益の向上に繋げます。たとえば、生成AIモデルを活用した、自動化される業務システムやコンタクトセンターの実現などです。
信頼できるデータベースにより事実の正確性も確保しつつ、既存の基幹システムやチャットボット等の会話型AIシステムによって一連の業務の流れをコントロールし、それに生成AIを活用すれば人間のような自然なアウトプットを引き出し、ユーザーとの双方向なやり取りが実現できます(生成AIによるリアルタイムの回答支援等)。
なお、様々な業務の種類・内容が生成AIモデルの活用対象となり得ますが、活用に適したユースケース(システムを介してユーザーがやりとりすること)を選ぶことが重要です。
そのユースケースを選定する上では、そのアウトプットされるものを作成または処理するプロセスやタスクに着目することが重要になります。たとえば、人材採用のタスクとしての「求人広告」、住宅販売での「フロアプラン」、エンジン部品設計での「3Dモデル」などが対象になるのです。
そうしたプロセスやタスクの内容から、使用頻度の高いユースケースとして、どのような内容が考えられるか、生成AIの活用によるコスト削減効果はどの程度か、人間のスキルやクリエイティブ性の影響は低いか、などを考慮して生成AIモデルの活用の内容や対象を構想していきます。
たとえば、求人広告活動の場合、自社の人材採用ページの作成、最新情報のアップデート、募集する求人要件の整理、求人広告の文章(求人原稿)の作成、応募者等からの質問対応、などの業務がありますが、これらを生成AIモデルによって生成し運用することが可能です。
これらのタスクは人間のクリエイティブ性やスキルの程度に大きな影響を受けないですが、人間が行うと少なくない時間がかかるため、生成AIモデルの活用は有効となります。そして、結果的に企業の収益や働き方改善の向上に繋がるのです。
4-3 生成AIモデルを導入する際の重要点
企業が生成AIモデルを導入していく際には、以下のような事項が重要になります。
1)ビジネス目的に合わせた生成AIモデルの選定
以下のような点を考慮して適切なモデルを選びましょう。
- (1)ビジネス目的に合わせて生成AIモデルを選べば、最適な成果を得ることができる、という点を社内、特にその業務関係者で認識させることが必要です。
- (2)生成AIモデルの性能や精度、利用可能なデータ量や種類、利用可能なコンピューティングリソースなどを考慮して、最適なモデルの選定に努めます。
- (3)生成AIモデルの開発や運用に必要な人材や技術力も重要となるため、その点を認識してその整備に努めなくてはなりません。
2)データの品質と量の確保
以下のような方法によりデータの品質と量の確保に努めましょう。
- (1)データの品質を確保するためには、データの正確性や完全性、一貫性、信頼性などを確認し取得できることが重要です。また、データの欠損や誤りを修正するための方法も用意しておく必要もあります。
- (2)データの量を確保するためには、データ収集方法やデータストレージ方法を適切に実施できるための検討も欠かせません。また、データの利用可能性やアクセス制御なども考慮しましょう。
3)運用に必要な人材の確保
必要人材の確保には以下のような方法があります。
- (1)生成AIモデルの運用に必要な人材としては、データサイエンティスト、機械学習エンジニア、ソフトウェアエンジニア、ビジネスアナリスト、などを採用人材の候補として検討しましょう。
- (2)実際の人材確保の方法は、社内人材の育成や外部からの採用などが一般的です。なお、社内の人材育成については、専門的な知識やスキルを身につけさせるための教育プログラムやトレーニングプログラムを企業が提供していくことも必要になります。
4)生成AIモデルの運用に必要なインフラの整備
以下のような整備が必要です。
- (1)運用に必要なインフラは、高速計算機やGPU、クラウドサービス、ストレージ、などになります。
- (2)また、運用にあたっては、データセンターの整備やネットワークの構築、セキュリティ対策なども重要です。
- (3)ほかには、運用管理や監視、トラブルシューティング、なども必要で、これらを行うためには、運用チームや監視システムを整備していかねばなりません。
こうしたインフラを自社で整備するのは、多額の資金と専門人材などが必要となるため、生成AIモデルを提供してくれるサービスや生成AIモデルの導入支援サービスなどを活用するのも有効です。
5)生成AIモデルの運用に必要なセキュリティ対策
以下のような内容が考えられます。
- (1)生成AIモデルの運用にあたっては、データの保護やアクセス制御、認証・認可、暗号化などのセキュリティ対策の必要性を認識しておきましょう。
- (2)また、運用にあたっては、敵対的攻撃に対する防御策も必要です。たとえば、敵対的な入力データを検知するための監視システムの導入などが求められます。
- (3)さらに運用チームや監視システムの整備も重要です。これらの整備により、問題等の早期発見・早期対応が可能となります。
6)生成AIモデルのリスクの理解
以下のようなリスクが生じ得るため注意が必要です。
(1)シャドーITによるインシデント
シャドーITとは、企業の許可や管理がないまま、社員が使用するデバイスや外部サービスのことで、シャドーITによるインシデントとは、社員が自分のデバイスやアプリケーションを使って、企業の情報が不正に取得されたり、情報漏えいが生じたりすることです。
企業の適正な社内ルールのないまま、社員が生成AIモデルを利用するとこうしたリスクが生じることもあります。
(2)設定ミスによる情報漏えい
これは、設定ミスにより生成AIモデルが保持する機密情報が外部に漏えいすることを指し、それを回避するためには正確な設定が行える仕組が必要です。
(3)サービス利用時の無意識な情報漏えい
生成AIモデルを利用する際に、利用者が意図せずに機密情報を外部に漏えいさせてしまうことがあります。このリスクを回避するためには、生成AIモデルの利用方法を正確に理解し、機密情報を保護するための対策を事前に講じておかねばなりません。
5 まとめ
AIがビジネスで利用されるようになって久しいですが、生成AIの活用によってその利用の範囲が拡大し、より高度な業務のプロセスやタスクが処理できるようになってきました。
生成AIモデルは、単に業務にかかる時間やコストの削減に留まらず、戦略的課題の解決や革新的な事業の創出・実現をもたらす手段として活用され始めています。
起業・会社設立する際やその後の事業拡大の折に生成AIモデルは有効なツールとなるため、これを機会に利用や導入を検討してみてください。