企業は年1回決算を行い、税金を納付します。ただ、決算書は税金を納める為だけに作られるものではありません。決算書は企業の成績表のようなものであり、企業の財務内容が一目でわかります。不正会計とは文字通り改ざんや特殊な経理処理をして決算をすることです。なかでも粉飾決算は、決算書の数字を細工することで故意に実際の内容よりも会社の内容を良く見せる違法行為です。会社とは株主のものであり、さまざまな利害関係者との係りで成り立っています。最近は大手企業でも不正会計の報道がでています。不正会計とはどのような方法でおこなわれるのか。そしてどうすれば不正会計を見抜けるのか。今回はビジネスマンにとって不正会計を見抜くポイントを紹介しますので、是非参考にしてみてください
1 粉飾決算とは
粉飾決算とは、会社を少しでも良く見せようとして、嘘の内容で決算をすることを言います。ところで会社は誰のものでしょうか。社長でも従業員でも無く、会社は株主のものです。会社は株主から出資してもらったお金と、銀行などから融資をしてもらったお金を使って営業をします。いわば他人のお金を使っているので、経営者はしっかり利益を出して税金を支払わなければなりません。会社は自分で利益を出すか他人からお金を集めないと営業できません。ではどうやって他人からお金を集めるのか。
代表的なものは融資や出資です。融資とは銀行などでお金を借りることです。出資とは会社に投資してもらい、株主になってもらうことです。何れにせよ会社の先行きが不安な場合、お金が集まりません。景気が悪い時、一部の経営者は会社をよく見せたい誘惑にかられます。つまり実際は不景気でも順調なように、利益が出ているように見せるよう細工をします。このような行為は会社の投資判断を誤らせる原因となり、悪質なものは犯罪となります。
2 決算とは何か
国内の企業は年に1度、決算を行いその年で得た利益の中から納税をしなければならない決まりがあります。しかし決算は納税の為だけに行うものではありません。その企業が1年間でどのような事業を行ってきたか、利益がでているのか、赤字なのか、どれくらいの借入があるのか、財務内容は良好なのか、帳簿を全てまとめ決算書のフォーマットに落とし込んで誰の目からも明らかにするものが決算です。会社規模の大小によって決算書の様式が異なることはありません。どのような会社でも同じような決算書でもって会計報告をしています。つまり決算のやり方はどのような会社であっても同一のルールに則り作成されているのです。同一のルールで作られているのですから決算書を見るものは誰もが同じ目線で会社の決算内容、会社の良し悪しを判断する事ができるのです。
3 決算書の中身
法人の決算書は大別して貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動報告書に大別されます。
3-1 貸借対照表とは
決算日時点の法人の財産・負債・純資産の残高が記載されています。勘定科目の残高が並んでいるので会社を輪切りにしたようなイメージです。貸借対照表は別名バランスシートといい、借方と貸方で釣り合っています。万一、会社を良く見せようとして左側の資産の割合を増やすと、バランスシートですから右側の負債または純資産も同じ様に増やさなければなりません。言い換えると、一つ細工をすると必ず他にも影響してくるのが貸借対照表です。
3-2 損益計算書とは
企業は物やサービスを売って収入を得ます、そして収入から原材料や人件費などの経費を支払って利益を計算します。出た利益はその年で使い切るのではなく、翌期に繰越利益として受けつがれます。この売上と利益を計算するのが損益計算書です。損益つまり収支の合計ですので、小遣い帳のようなイメージに近いです。会社は利益が黒字であれば問題ないのですが、赤字であれば要注意です。損益計算書で赤字となる主な原因は、売上が下がる、材料が高い、経費が高いなどです。仮に売上を実際よりも多く見せたり、経費を安く見せた場合は利益の額が増えます。売上架空計上や、経費の水増しが発生しやすいのが損益計算書です。
4 貸借対照表上の粉飾決算
それでは、資産や負債・純資産の残高から成り立つ貸借対照表でどのような粉飾決算がなされるのでしょうか。貸借対照表においては主に左側の「資産の部」を多く見せることで利益を計上するような粉飾決算を見かけます
4-1 過大在庫(売上原価のカラクリ)
在庫を多く見せることで決算書の利益を増やすことができます。物を仕入れして販売する会社の場合、在庫とは売れ残り商品のことを言います。多少の売れ残りなら問題ないのですが、長期間あるいは何年も売れず、実際には全く価値のない在庫などはあるかもしれません。このような場合、帳簿から減損・省かないと会社の実態がわかりません。次に述べる損益計算書に「売上原価」という支出項目があります。計算式は次のようになっています。
売上原価=(機首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高)
この中で期末棚卸高を増やすと売上原価が少なくなることがわかります。過大な在庫計上を行うと利益が増えてしまうのです。全く価値のないもの、あるいは会社に存在しない在庫まで計上してしまうと会社の実態が見えなくなり、投資の判断が出来なくなってしまいます。
4-2 未収金
未収金とは会社が自社のお金を貸付して、近い将来にそのお金が返済されるまで計上される科目です。もし、貸しているお金が返済される見込みがなくなると会社の損失になります。そのような状態でも未収金として資産計上されていると、実際よりも内容が良いものと誤った判断になります。最近、大企業でも海外に投資した会社の事業が安定せず、資金の回収が計画通りに行かず、不良債権となる事例が出ています。そのような事態に陥っても長期間未収金として計上したまま、問題を先送りしていました。未収金の内容は投資家が調査することが困難なケースが多いです。会社側が相手の状態をしっかり把握し、回収が困難な場合は所定の処理を行う必要があります。
4-3 融通手形
手形とは、材料を仕入れたり、物を買った時、今お金がないときに将来必ず支払うという証拠として振り出すものです。手形をもらった側はその手形を銀行に持っていくと手形を担保に融資してくれます。これを割引と言います。お金でなく手形を受け取った時、相手が手形を決済するまで現金が入ってきません。そこで先に銀行で融資をしてもらうのです。手形の怖いところは、お金がなくても振り出せてしまうことです。通常の手形は商売取引の中で使われます。しかし、時々商売と関係ないような会社同士で手形の降り出し合いが発生している場合があります。つまり、銀行で割引してもらうため商売の取引とは全く関係ないところで手形を渡しているのです。これを融通手形と言います。融通手形は架空の取引で融資を生み出す行為であり、非常にリスクがあります。
5 損益計算書上の粉飾決算
1年間の収支合計である損益計算書ではどのような粉飾がなされるのでしょうか。一番ポピュラーなケースは売上を過大に計上することです。架空の売上を捏造し売上を水増しします。売上が上がると利益も増えるので赤字であっても黒字であるかのように見せることができます。販売会社であれば実際に売上をしていないのに架空の売上伝票を作成し売上を水増しします。
建設業などは工事契約書の工事請負金額を実際よりも増やし完成工事高を引き上げるケースがあります。建設業は工事が完成して初めて完成工事高として売上になります。建設業の工事は一般に長期間になるため、工事の進捗に合わせて売上を計上していくやり方と、工事が完成して初めて売上に計上する2通りがあります。工事が進捗していない、あるいは完成していないのに完成工事に計上すると実際より多額の完成工事高になります。
6 その他の粉飾決算
ここまでの粉飾決算は、利益を水増しし、会社の中身をよく見せる視点で述べました。ところが世の中には全く逆の会社の内容を悪く見せるための利益操作がなされる場合があります。特に中小企業は大企業と違い、経営者と株主の区別が明確ではなく、ほとんどが同一人です。よって株主の追求もなく、どちらかというと多額の利益を出し、株主に配当するというよりも出来れば利益を抑えながら節税に励み、自社株評価が高くなりすぎないようにしています。
よく目にする具体的な手法で売上の過少申告があります。売上の過少申告とは、実際の売上から何割かを間引くことです。販売会社で売上代金を振込などにしている場合は誤魔化せないのですが、敢えて現金で回収し、帳簿に足がつかないようにします。建設業などは実際に請け負う工事金額よりも低い金額で工事請負契約を締結します。しかしその工事金額では材料や経費を支払えません。実際は裏で減額した分を現金で受け取ります。ただしこれば工事代金が減るので消費税が実際より下がり、工事の額にもよりますが契約印紙代もかなり開きがでるため、実際はこのような行為は禁止されています。それでもこのように利益を少なくすることで税金や配当、さらに個人事業主などは自身の社会保険料も抑えられる場合が多く、多くの利益操作がなされていることが実情です。
7 粉飾決算の問題点
さまざまな種類の粉飾決算をみてきましたが、粉飾決算は次のように各方面に多くの悪影響を及ぼします。
7-1 投資家の判断を誤らせる
最大の悪影響は投資家の判断を歪めることです。前述の通り、会社は株主のものです。ここでいう株主とは投資家です。投資家は証券会社等を通じ、会社の決算情報を見て投資の可否を判断します。また銀行も同じように決算書を使って財務分析を行い、融資審査を行います。粉飾決算の決算書は嘘の決算書です。そのような決算書では資金援助を実施した投資家や銀行が思わぬ損失を被る恐れがあります
7-2 会社の破綻を招く
粉飾決算で、実際よりも会社をよく見せていても、遅かれ早かれ会社は長続きしません。会社とは生き物です。会計年度は1年ですが、決算書に書かれている繰越利益は翌年に繰り越されます。後になればなるほど元に戻せなくなります。経営者も次第に感覚が麻痺して、健全な組織運営が不可能になります。会社が今、どのようになっているのか、黒字なのか赤字なのか公正な帳面で常時確認し、戦略を立てなければ下降線を辿る一方です。内容を悪く見せる場合でも、会社利益を抑える=脱税とほぼ意味が一致します。確かに売上や利益を抑えると税金など一部コストが抑えられるかもしれません。
しかし脱税の疑いがあれば税務署などの調査が入ります。そうすると罰金などで多くの出費になる可能性があります。悪質な脱税は差し押さえの恐れもあります。税務署は税金滞納者の通帳を差し押さえる権限をもっています。会社の通帳や不動産を差し押さえられると事業に支障が発生しますし、取引銀行の知るところとなり、銀行取引にも迷惑がかかります。経営者が知っておきたい税務調査のポイントについては後述します。
7-3 取引先を裏切ることになる
国内には掛取引といって、取引の都度ではなく一定期間毎に取りまとめて請求するという商慣行があります。実際は融資ではありませんが、決済まで相手先がお金を立て替えてくれるので、融資と同じ効果があるので「企業間信用」と言ったりします。当然お互いが金銭的に信頼できる間柄だからできることです。大手と取引している会社などは決算書を提出されている場合もあります。信用取引が継続できるかを決算書で判断されているのです。万一粉飾決算であえれば、取引先を始め、利害関係者全員に迷惑がかかることになります。
8 刑事罰について
粉飾決算は違法ですが、粉飾決算そのものよりも、粉飾決算を原因として損失が発生したもの、あるいは悪質なものと判断されたものは刑事罰となります。
以上、粉飾決算について見てきました。粉飾決算には「実際よりも利益を多く記載し、会社の内容をよく見せようとするもの」、また「実際よりも利益を抑え税金や配当などを抑えようとするもの」の2種類があります。どちらも投資家判断を誤らせ、自社の取引先を含む理解関係者を巻き込み、破綻につながる非常に危険な行為です。悪質なものは刑事罰になる恐ろしいものです。
9 不正会計を見抜くポイント
会社とは設立の時から毎年仕入をして、売上を上げて、経費を支払い、を黒字または赤字を出しながら続いてきています。黒字か赤字かは年1回到来する決算日で計算されます。決算は前期の終わりからスタートしますので、必ず連続性があります。
9-1 決算の傾向
そして余程大きな業績変動がなければ概ね前期と同じような決算になるはずです。国内には数えきれないほど多くの企業があり、特殊な会社と平均的な会社とは決算の中身もそれぞれ異なります。しかしいくら特殊であっても同じ会社であれば傾向が変ることはありません。
9-2 不正会計の種類
業績が思わしくないと不正会計に及ぶ企業が出てきます。最近では誰もが知る大手企業でも不正会計が発生しています。会社規模に関係なく、不正会計は概ね2種類があります。一つは「利益の水増し」もうひとつは「不良資産の計上」です。
9-3 決算の連続性
決算書は1年分を見ても本質はわかりません。1年分の決算書でいくら多くの利益があがっていても、決算を数年間連続して分析すると大幅な連続減益かもしれません。仮にそうであれば会社の経営が不安になります。不安が出てくると株価が下がりますし、株主から経営者の責任を問われます。取引銀行から融資を引き揚げられる恐れもでてきます。
前述の「利益の水増し」「不良資産の計上」といった不正会計を見ぬく最大のポイントはこの「決算の連続性」です。数年間見比べて売上・仕入・経費。利益に大きな変動がないかを確認します。不自然な変動があり、経営者に内容をヒアリングしても妥当性のある説明がない場合、高い確率で不正会計がなされています。
10 決算書を横に並べる
金融機関に融資の申し込みをすると、必ず2~3年分の決算書を提出しなければなりません。提出を受けた金融機関は一度に並べて比較します。そして「業績の推移」と「決算連続性の確認ポイント」に注意しながら不正会計でないかチェックします。
10-1 連続性のチェックポイント
決算書を数年分ならべ、他の年と比べて突出した科目や、極端に変動している科目を見つけていきます。会社の決算は終わりがなく、連続性があります。1年間で得た利益を次の年に営業資産に投資してまた利益を上げて・・・その繰り返しです。つまり前年の終わりの残高がきちんと翌期の初めの残高と必ず一致します。万一連続していなければ偽造の可能性があります。この連続性は2年以上の決算書がなければ発見できません。連続性の主なチェックポイントは2つあります。
10-2 次期繰越利益
決算書は1年間で得られた利益が記載されています。翌年の利益は「次期繰越利益」として、前の年の利益に年々加算されているはずです。前期昨年の決算書の次期繰越利益が間違いなく次期の決算書に繰り越されているか確認してください。もし合計があわなければ利益の額を故意に書き換えている可能性があります。
10-3 期末棚卸高
期末棚卸高とは決算日までに販売されず、翌期以降に持ち越される商品等のことです。物を仕入して販売している会社は、決算月に完売できることは少なく、通常売れ残りが発生します。会計では売上原価といって、この期末在庫分の仕入費用を経費として見てくれません。売上原価の計算式は次の通りです。
売上原価=(期首棚卸高+当期仕入高)―期末棚卸高
つまり在庫が多ければ多いほど利益が計上されます。決算書を見比べて、前期の期末棚卸高が期首棚卸高として引き継がれているが確認して下さい。利益を多く見せようとして、故意に在庫水増し処理をしている場合は数字が食い違っています
10-4 極端な業績変動
企業は地道な営業活動により利益を上げています。赤字企業が一発逆転でV字回復を成し遂げることは滅多にありません。決算書を並べることで、売上や利益が極端に増加していないか見比べます。決算連続性のポイントは近年の決算傾向に大幅な変動がなく自然に流れているかをチェックすることです。
11 利益の水増し
不正会計の目的の一つが利益を多く見せ、会社の内容を良くみせることです。利益が多ければ堅実な会社ということになりますし、万一赤字であると危険な会社と判断されます。
11-1 売上の架空計上
決算書で利益を増やすには大きく2つの方法があります。
- 売上をあげる
- 支出を減らす
事業で利益が得られず、決算書だけで架空の利益を作り上げる不正会計を「利益の水増し」と言ったりします。決算書は数字の世界です。単純に数字を書き換えしたとしても判りにくいと思われるかもしれません。しかし利益の水増しを行うと、帳面上の辻褄は合うかもしれませんが、次のように不自然な点がでてきます。これらの項目をチェックし不正会計を見抜いていきます。
11-2 売掛金残高
売掛金とは商品を販売して、売上代金(現金)が入金になるまで計上する「代金をもらう権利」のことです。会社決算は複式簿記で作成されます。売上があると、仕分では次のように売掛金を計上します。
借方:売掛金/貸方:売上
もし架空の売上を計上したなら、仕分けの相手である売掛金も架空で計上せざるを得ません。そうしないと貸借があわず決算書が作れないからです。つまり「嘘の売掛金」を計上します。架空の売上を計上すればするほど架空の売掛金も増えていきます。決算書の連続性で売上・売掛金ともに不自然に増加していれば、売掛金明細を入手して下さい。架空の売上であれば同一先の売掛金がいつまでも残っています。あるいは何年も相手先を書き換えて残っている場合があります。
ところで、普通の会社であれば売掛金言うのは普通に存在します。ただ、業種によって売掛金の大小がありますので、売掛金の多い少ないは金額で言われることはあまり無く、立替期間で判断されます。た立替期間とは、売掛金が回収できるまでの期間であり、「売掛金残高÷平均月商」で算出されます。業種にもよりますが、この数値が長くとも4ヶ月以内以上になるなら不良化の可能性があります。内容をしっかり精査したほうがいいでしょう。
12 経費の隠蔽
利益を上げるもう一つの方法は経費を減らすことでした。以下の様に本来発生しなければならない経費を計上せず、不正に利益を増やしているケースがあります。
12-1 計上すべき経費を計上しない
固定資産を取得すると、取得価格を耐用年数で割った減価償却費でもって、毎年減価償却を実施しなければいけません。減価償却は実際の現金出金は伴わないものの、会計上経費として扱われます。ところが、利益の少ない会社が設備投資をすると償却負担に耐えられず赤字になってしまいます。どうしても利益を出したい場合、敢えて定められた減価償却をしない決算書を作成することになります。
12-2 減価償却未実施
金融機関などは本来費用計上すべきものがきちんと計上されているか、もし計上されていなければ正当な決算書と見做さず、強制的に減価償却をしたものに補正して審査を行います。この償却不足を見抜くには税務別表や償却台帳があれば一目瞭然です。これらの資料には本来の償却額と実際に実施した償却額が記載されていますので、意図的に利益が水増しされたものでないか判明します。
12-3 引当金未計上
企業は商品を仕入れ、販売して利益を得ます。通常、物を販売した場合、即金で決済するより月1回にまとめて支払う慣例で取引されます。これを掛取引といいます。また企業間でお金を貸す場合もあります。取引先同士、信用で成り立っていると言われる所以です。大企業等は万一‘、売掛金や貸付金が返済されない場合に備えて貸倒引当金を計上します。これは貸付けている金額に一定割合を掛けて引当金費用として計上するのですが、この引当金を適切に計上していないと本来計上すべき費用が未計上になっていると判断されます。
13 資産の架空計上(不良資産)
利益操作と並び、不正会計の定番と言えるものが不良資産の計上です。決算書では貸借対照表という財務内容を一覧表にしたものがあります。貸借対照表の算式は次の通りです。
資産=(負債+純資産)
13-1 資産が存在しているか
一言で言うと、財務内容が良好な会社とは「負債がなく、純資産が多い会社」と言う事になります。会社が苦しくなると資金繰りに行き詰って借金つまり負債が増えていきます。負債が増えすぎると債務超過になり理論上いつ倒産してもおかしくありません。資金繰りが厳しく借入せざるを得ない、しかし決算書の内容を悪くしたくない・・・、そのような状態で陥りやすい不正会計が不良資産の計上です
13-2 現預金
貸借対照表に現預金という勘定科目があります。ここでは通帳の預金残高と、もうひとつ会社の金庫などに保管される現金が記載されます。通帳残高は、通帳のコピーあるいは金融機関で発行される残高証明を使って計算されます。いわば証拠資料に基づいて作られるわけです。一方、現金は証明と言うものがないので、出納帳あるいは実際の現金を数えて集計されます。普通の会社なら、手元の現金は最小限にして当座預金や普通預金に貯金してあります。もし通帳の預金とくらべて現金が突出して多い場合、架空の現金である恐れがあります。本当にそんな事があるのかと思われるかもしれませんが、例えば社長個人に対する貸付金などを現金として計上していたり、不良資産隠蔽の振替項目として計上しているケースが実際にあります。現金には残高証明などがないので不正の温床になりやすいのです。多額の現金残高があれば、出来れば会社に出向いて現金を見せてもらうことが望ましいです。
13-3 在庫の架空計上
在庫とは商品の売れ残りです。前述の通り、今期中の仕入分は売上から差し引かれるのですが、売れ残った在庫分は翌期分の仕入と見做されるので売上原価から省かれます。つまり会計上では売残在庫(期末棚卸高)が多いほど利益が増えることになります。ここを悪用して在庫を水増し利益を嵩上げするケースがあります。在庫の評価は会計基準で決められている場合もありますが、取得価格で評価したり、見込み額で評価したり経営者の判断に基づくものもあります。年々在庫が増えていったりしている場合、本当にその在庫が存在しているのが、何年も売れ残り、販売できる見込みが無くなっていないか調査する必要があります。
13-4 貸倒の隠蔽
売掛金や貸付金が万一返済されず貸倒になった場合、あるいは返済できる見込みが立たない場合は不良資産です。資産とは呼べません。これらは貸倒損失として適切に費用計上しなければなりません。しかし損失計上すると赤字になる企業は、問題を先送りして不良債権を長期間資産計上している場合があります。決算書の売掛金明細あるいは貸付金明細を参照下さい。毎年同じ残高で変化がなければ、ほぼ間違いなく不良化しています。また貸付金が毎年増えているものは、より注意が必要です。本来貸付金とは本業以外でお金を貸す場合に使われる勘定科目で通常使われるものではありません。もし残高があれば不正利用や使途不明金を隠蔽し、資産を膨張させていないか内容精査が必要です。
14 逆の不正会計
不正会計は利益を増やすことだけではありません。税金や配当を少なくしたいために、敢えて所得を隠す目的で不正会計に及ぶ場合もあります。
14-1 逆の不正会計とは
税金や配当は、利益に対して計算されます。利益を少なくするには、先ほどと逆のやり方になります。
- ①売上を少なくする
- ②支出を増やす
14-2 売上を低くする
世間でも売上を低くしている会社は結構あります。売上があっても帳面に載せないでおくのです。ところが金融機関などは、通帳の入金の動きをみれば過少申告かどうかある程度判明します。そのような場合は振込金額よりも大幅に低い売上となり、決算書の売上と、通帳に振込みされた入金額が一致しないわけです。会社によっては通帳にのらないよう、わざと現金で集金する会社もあります。
最近の大手でも不正会計が話題になっていますが、回収の見込みがない投資資産をいつまでも計上していたり、会社の大小にかかわらず不正会計は存在します。まずは決算書を時系列に並べて、前期の期末残高と当期の期首残高に連続性があるかを確認し、そしてその他の科目で不自然な動きがないかを見ます。そのうえで売掛金などの資産に不良化しているものが無いかをチェックすることで不正会計を見抜くことができます。
15 税務調査とは
税務調査とは、国税局や税務署による納税状況の実地調査を指します。税務調査は会社にとって避けられないもので、追加の税金を支払うことになります。今回は税務調査の概要とその税務調査にあたってのポイントを解説しますもし、適正な納税ではないという調査結果となった場合には、不適正とされた部分の税額を改めて計算し、差額分の納付と修正申告書の提出を行うことになります。
差額の納付時には、本来支払うべき時期まで遡って一定の金利が課される延滞税や、過少申告していたことのペナルティーである10%の過少申告加算税も加算されます。さらに意図した悪質な会計処理、つまり脱税が行われていたと判断されると、35%の重加算税が課されます。適正な会計処理による納税額よりも倍近くの税額となりますし、社会的な信用問題もありますので、会計上の不明点は税理士によく相談するようにしましょう。
調査するポイントは概ね決まっています。間違えやすいポイント、あるいは会社側が意図して会計操作を行うポイントを調査官が把握していると言っても良いでしょう。具体的なポイントについては後の章にて説明します。税務調査は任意の調査制度であるため、原則として事前に調査を行う旨の電話連絡が入ります。電話連絡では、調査の目的やその実施方法、用意しておく書類、日程などが告げられます。
この電話によって告げられる日程には必ずしも応じる必要はありません。任意の調査ですので、こちらの都合を優先するか、あるいは一旦電話を切って税理士に相談の上進めていくのが良いでしょう。税理士の調査への立ち会いは最優先事項として調整しましょう。
また、任意制度となっている税務調査ですが、主な取引を現金にて行う飲食店などの場合や、重大な疑義のある会社には突然調査官が来訪して、調査を始めようとする場合があります。その場合は先ず税理士に一報を入れて、事を進めていくようにしましょう。
調査期間は会社の規模によりますが、中小会社の場合は通常1,2日で済みます。大会社の場合は数ヶ月に及ぶ実地調査が行われ、更に調査結果の確定までには数ヶ月を要する場合があります。
16 税務調査を受ける会社の特徴
税務調査に入られやすい会社には幾つかの特徴がありますが、一つには期間を上げることができます。前回の調査が5年前に遡る会社は、そろそろ税務調査が入る頃と考えた方がよいでしょう。また、設立後3年が経過した年度も節目と言われています。その期間中に順調に売上を伸ばしている会社は特に狙われていると思った方が良いでしょう。
その他の特徴は売上高や利益です。期ごとに大きな変動がある場合、また、多額の利益が生じている場合には税務調査が近づいていると考えてください。また、恣意的に数字を操作している会社も注意しましょう。調査官は多くの会社を見ていますので、自分の会社は気づかれない、上手くやっていると思っていても、ベテランの調査官ほど巧みに綻びを見出すものです。
そして、以前の税務調査で大幅な修正を求められた場合、あるいは重加算税を過去に徴収された場合は、引き続き税務署が注視していると思ってください。そのような会社は次の税務調査までの間隔が短くなり、遂には毎年のように税務調査を受けることになってしまいます。
17 書類関係を整理する
税務調査では通常、過去3年度分の会計処理を調査されます。しかし、不正を疑われた場合には5年、あるいは7年前まで遡られることがあります。また、税法により帳簿書類の保存期間も7年間分と定められています。
「保存方法は原則として紙にて」と定められていますので、書類は印刷をして種類ごとにファイリングするようにしましょう。ファイリングをすることで、税務調査時の調査官からの書類提出依頼に速やかに応じることができ、税務調査の進行と、調査官の心証向上に好影響を与えます。また、日頃の会計処理も捗るというものです。
時間稼ぎを戦術と称して書類をなかなか提出しない、という方針を聞くことがありますが、調査官が本当に必要とする書類は実地調査期間外においても求められます。そして、調査官の心証を害して追加の実地調査を受ける事態になりかねませんので、書類は原則として速やかな提出を心懸けましょう。
また、食事代などの領収証には、人数と出席者名、出席者との関係性や会合の目的を裏書きするようにしましょう。出張に関しては、出張旅費報告書を作成するようにして、出張先と先方担当者、出張内容を残すようにします。領収証の裏書きや出張旅費報告書は、事業と費用との整合性や、経費とすることの妥当性を証する重要な記録です。使途不明な場合には「否認」(事業の会計処理として認められないこと)される元となります。
18 売上の計上時期を管理する
税務調査において最も重点的に調査をされて、かつ指摘される分野が「売上」です。なぜなら、売上が増えるということは利益が増えるということであり、利益は税額算出根拠額であるからです。
税務調査とは正しい納税額か否かを調査することですが、納税額が増えることもあれば減ることもあり得そうですが、現実には調査によってトータルの納税額が増えることはあっても減ることはまずありません。「利益を減らしたい納税者側」と「利益を増やしたい調査官側」という構図となるのです。
さて、税務調査による売上調査ポイントは2点あります。1点目は、売上の計上(認識)時期を正しく処理しているかと、2点目は売上に漏れがないか、です。まず売上計上時期についてですが、会計上では、売上は「売上の事実が生じた月日」に計上することとなっています。すなわち、商品を掛けで売った場合は、入金があった日を売上計上日とするのではなく、商品を販売した事実が生じた日が売上計上日となるのです。
例えば、請求書の発行日付が次年度となっていても、事実上販売したことがその日よりも遡って当年度であることが分かるような書類、例えばメールによるやり取りが見つかれば、調査官は古い年月の方(当年度)を売上計上月日であると指摘します。
常日頃から、書類の整理や関係部署との密な連絡を行い、正しい売上計上時期となっているか確認することを心懸けましょう。そして、売上で調査対象となるもう一つが、売上の計上漏れです。これは、前述の計上時期のずれなどではなく、売上が最初から最後まで帳簿に載らない、つまり、会社外の預金口座への入金や現金にて受け取って、帳簿上の売上を減らす、という状況です。
この処理には、売上を減らすことによって税金を減らしたいという会社の意思が介入していることになります。ここの処理を行う会社が少なくないことから、調査官としても鼻を利かせて調査を行います。
帳簿に載らないために調べようがないように思えますが、税務調査にて調べられるのは会社の帳簿や預金口座だけではありません。調査官が怪しいと踏んだ場合には、役員の個人の預金口座も調査対象となります。金融機関も税務調査においては一般的に調査側に協力をしますので、預金情報を調査官に開示します。この処理を暴かれた場合は売上隠しとして、悪質な税逃れとして「重加算税」の対象となる可能性が高くなります。
中には、見つからなかった売上漏れをして「回避できた」とする場合や、また、別のグレーの会計上の操作を押し通したとして「認めさせた」あるいは「認められた」と吹聴して回る向きも時には聞こえてきますが、「たまたまそうなった」、あるいは「今回は結果的にそうなった」と考えておいた方がよいでしょう。
調査官は幾つもの会社を調査していますので、経営者の意図や会計操作を熟知しています。そして、別の会社では認められたなどと言っても、調査ごとに事情も調査官も違いますし、以前の結果や別の会社の事象が自分の会社でも適用されるとは限りません。グレーの会計操作を行えば税務調査に頻繁に入られる可能性が高くなりますし、隠蔽工作を見抜こうと本腰を入れて取り掛かられることにもなりかねません。
あくまでも会計制度に則って粛々と会計処理を行い、節税対策は税理士と相談の上税理士主導の方法にて行うのが、税務調査の対策にも繋がります。
19 期末の在庫確認を行う
期末の在庫品は税務調査にてほぼ確実に調査される項目です。在庫品を会計用語で言うと「棚卸資産」となり、棚卸資産には商品や製品だけではなく、仕掛品、貯蔵品があります。そして後述する外注費も、棚卸資産のカテゴリーで管理する方が良い場合があります。
商品を扱う会社だけではなく、仕掛品や貯蔵品はほぼ全ての会社が扱う科目ですので、どの会社、業種でもしっかりとした管理を行い、期末時点の数量を確認しておかないと、調査により指摘をされることになります。商品や製品を扱う卸売業や製造業などの会社では、前年度期末時点の在庫品の仕入額(棚卸高)に、当年度中の仕入額合計を加算し、そして当年度期末時点の棚卸高を減算することで原価を算出します。
当年度期末棚卸高は、原価計算中のマイナス額となるため、少額であればあるほど原価を大きくすることになります。すなわち、当期末棚卸高の減少は、原価を増やし、利益を減らし、税金の減らすことに行き着きます。棚卸品は会社内で操作しやすく、会社側としてはブラックボックス化されているという思いから、少なく見積もる会社が少なくありません。
しかし、調査官が怪しいと睨んだ場合は、関連資料や商品の発注から入庫出庫の流れまでを徹底して調べます。調査官は幾つもの会社で同様の調査を行ってノウハウを持っていますので、完全に隠すのは難しく、どこかでボロが出るものです。商品の流れは日頃から整理及び管理をし、しっかりとまとめて、不信感を持たれないようにしましょう。調査により故意の利益操作であると判断された場合には、重加算税の対象となります。
また、会計上において在庫とは形を伴うモノに限るものではありません。何かの作業や労働力を外注した場合には、必ずその対価である売上も同時期に立てる必要があります。
費用だけ当期に計上して、売上計上を翌期に回した場合には、不適切な会計処理とみなされます。当期の利益が減少することになるからです。逆の場合、つまり売上を先に計上して費用を翌期に回すパターンは力を入れて調査をしないか、あるいは気付いてもあえて指摘しない場合がありますので、売上と費用の関係には気を付けるようにしましょう。
20 交際費の取り扱いには要注意
中小企業では800万円までの交際費を経費とすることできます。あるいは、金額の上限を設けず、その半額を経費として計上することのどちらか一方を選ぶことになります。前者を選択したことで、800万円まではとにかく交際費として会社の経費とすることができる、と考えるのは非常に危険です。交際費であっても事業と何らかの関係性を持つことが、会社の会計において処理できることの第一条件となるからです。
調査官は、交際費が他の経費に比べて多い場合や、売上高や利益に対して不釣り合いに多い場合には、まず確実に調査対象とします。仮に、調査において交際費の中に個人的な支出を見つけた場合(調査官がそうだと判断した場合)には、その支出は「役員賞与」となります。
役員賞与とされた場合には、通常の賞与と同様に源泉所得税の対象となります。また、賞与のため消費税の課税対象外となり、当初消費税として計上していた分が全て賞与に組み入れられます。これは、本来納めるべきであった消費税を納めていなかったとして、消費税を再計算し、差額の消費税を支払わなければいけなくなることを意味します。更には、会社の経費とする理由が見当たらないとして「使途不明金」という扱いとされる場合があります。
使途不明金として認定された場合には、重加算税の対象となります。重加算税は、例えその年度が赤字であった場合でも納税義務が生じるものですので、交際費の取り扱いに関しては充分注意するようにしてください。
21 水増しや架空経費を立てない
税務調査の対象候補には、売上が増加しているのに利益は横ばい、という会社も含まれます。経営者が、税務調査が入らないように売上に比例して経費も増やすことで利益を増やさないようにしていたとしても、税務調査側では逆にそのような動きの会社を注視しているのです。
このように利益を上がらないようにしている会社がよく講じる手段が、架空の経費を立てる、あるいは経費を水増しする、というものです。
中でも外注費やコンサルタント料は、経営者にとっては手を加えやすく、税務調査側では注意深く調査する費用となります。また、関連会社を使って、本来の適正額よりも水増しした額のやり取りを行い、両社ともの役員である経営者には損が生じないような動きを調査官は疑って調べてきます。
調査官が怪しいと踏んだ経費には、業務内容や、請求書、領収証、振込履歴(預金口座の入出金履歴)の有無、そして同様の作業を他社に回している場合と比べての金額の相場観などを徹底して調査を行います。架空の経費や水増しは節税ではなく脱税とみなされ、重加算税の対象となります。利益が上がっているときは社会貢献と考えて適正な税金を払うように切り替えることが、後で余計なペナルティーを払わないで済むことにもなります。
22 人件費の取り扱いに気をつける
人件費は給料とするか外注費とするかで会計処理に違いが生じます。
給料とした場合には、源泉所得税の対象となって年末調整の対象にもなりますので、会社の中には事務負担のことも考えて外注費扱いとするケースも多いようです。給料と外注費には消費税も絡んできます。給料とした場合は消費税非対象ですが、外注費とした場合には消費税の対象となります。給料よりも外注費としたほうが、会社にとってはより多くの消費税を支払うことになるため、結果として消費税申告の際に納める消費税を少なくすることができるのです。
税務調査では、上記のように外注費とすることによって消費税額を操作しているのではないかという視点で見てきます。外注費となるための条件は、請求書があること、業務単位の発注であること(時給制でないこと)、通勤費や備品を支給していないことです。これらの条件にあてはまる場合には給料とみなされます。
実際には更に細かく区分があり、また、税理士などの士業や講演料などは源泉所得税の対象となりますので、不明な場合は税理士に確認をするようにしましょう。日頃より適正な会計処理と税理士への報告と確認を心懸けていれば、税務調査は恐れるものではありません。また、調査官には、適正な会計処理と納税意識を持ってもらうことを信念としている人が多いのです。
同じ人間ですから、お互いの仕事や立場に理解を示し、協力的な姿勢で臨んで、指摘された点は今後是正すべき点として受け入れることで、円満に税務調査を終えることができるでしょう。