決算書は会社の成績表です。経営者の方はもちろんのこと、サラリーマンの方であっても勤め先がどのような業績なのか、あるいは今後どのように展望していきそうか把握しておかないと不安ではないでしょうか。
決算書はとっつきにくく、理解するのが難しいというイメージがありますが、決算書を読むことは決して難しいことではありません。
経理や会計に携わったことのない方にとっては、初めて聞く言葉も多いと思いますが、決算書の内容を分析するためにはすべてを理解する必要はありません。ポイントを絞って注目すれば短時間で読めるようになります。
今回の内容を最後まで読んでいただければ、きっと決算書の読み方をマスターできるはずです。
1 決算書の基本
決算書は各会社の1年間の業績をまとめた成績表です。小学生や中学生で1喜1憂した通知表と同じような性格を持っています。
しかし、決算書においては通知表とは異なり、5段階評価などの評価はされていません。そのため、その年度の評価を行うためには決算書の数値を基に各自分析する必要があるのです。この分析はその会社への関わり方によって大きく異なります。
1-1 決算書の役割
例えば、取引先にとってはその会社の売上高はどう推移しているのか、すなわちその会社の展望により自社の業績にどう影響するのかという点を重要視するでしょう。また、融資元の金融機関にとってはその会社からの債権が回収できるかどうか、すなわち倒産の心配がないかという点に注意しているでしょう。さらに株主にとっては、株価がどう変動し、配当額はいくらになるのかという点を心配するかもしれません。
このように、利用する立場によって着目する点は異なりますが、決算書はそれぞれの方が様々な分析する上で必要な数値がすべて記載されている書類といえるでしょう。
1-2 他社の決算書
各会社の決算書はどのようにして入手すればいいのでしょうか。決算書はそれぞれの会社の情報が集約されたものですので、簡単に手に入れることは難しいのでは?と考えてしまうのではないでしょうか。
実は決してそんなことはなく、各証券取引所に上場している企業の決算書は簡単に手に入ります。上場会社は株主などの投資家へ情報開示しなければならないことになっていますので、自社のホームページにて開示していることがほとんどです。この場合にはIR(Investor Relations)情報などと表記されているので要注意です。
また、それぞれの会社のホームページを閲覧しなくても決算書を見ることができるのがEDINET(エディネット)と呼ばれるシステムです。こちらは金融商品取引法に基づいて決算書などの開示書類を集約して電子開示するシステムであり、誰でも無料で閲覧可能になっています。平成13年から導入されており、金融庁の情報公開システムですので安心して利用することができます。
ただし、非上場会社は上記のような情報開示の義務はありません。1部の会社では非上場であっても透明性の観点からホームページに自社の決算内容を開示していることも見受けられますが、実際に公開している会社は全体の1割にも満たないでしょう。
では、非上場の会社の決算書はどのように入手するのか。これは、各会社に請求するしかないでしょう。しかし、もちろんその会社の株主であれば決算書を確認できる権利はあるものの、第3者から決算書の開示を請求されても簡単に応じる会社は少ないでしょう。
つまり、非上場会社が決算書を開示するのは株主か融資を受けている金融機関などの利害関係者に限られてくるということになります。
1-3 3期比較
決算書を利用した財務分析には様々な手法がありますが、1般的には次の2つに分類されるでしょう。
- 同業や同規模の他社との比較
- 自社の過去と現在の比較
このうち、「同業や同規模の他社との比較」については、比較したい他社の決算書を入手し、並べて比較することになるでしょう。他社と比較して自社がどのような位置づけなのか確認することは非常に大切な要素の1つです。
1方、「自社の過去と現在の比較」では、自社が過去から現在においてどのように変化しているのかを確認することになります。この際には、最低「3期間」の比較をしていただければと思います。前期のみの比較であれば、前期又は当期の臨時的な収入や支出に気づけないかもしれません。逆に5期、10期比較となると情報が多いため、情報の取捨選択が難しくなってしまいます。
ですので、3期間の比較がおススメです。当期、前期そして前々期を比較することで今後の展望もきっと見えてくるはずです。
2 貸借対照表
貸借対照表は資産・負債・総資産の残高の1時点(決算日)を示す表ですが、同時にその変動にも注目する必要があります。
また、その中でも貸借対照表で最初に注目すべき数字は総資産(資本の部)と言っても過言ではないでしょう。
資本の部はその会社の規模を表示したものです。1般的には規模が大きな会社ほど優良企業で安心感が強いというイメージを持たれます。確かに、総資産は経営資源の量を表すものであり、この点については何の相異もありません。
2-1 資本の部
しかし、実は資本の部は少し違った見方もできることを覚えておく必要があります。貸借対照表を見る上で、この違う見方で捉えることは大変重要です。
例えば、日本国内の2社を比較してみるとします。
A社:総資産10兆円
B社:総資産1千万円
では、両者の総資産のうち1%が毀損したと仮定すると、それぞれどれだけの損失となるでしょうか。
B社の場合、1千万円の1%で10万円です。この程度の損失ならば、たとえ損失分の資金補充が必要になったとしても、大きな被害にはならないでしょう。
1方、A社はどうでしょうか。A社にとって総資産の1%は1千億円にのぼります。これだけの資金補充が必要となってしまった場合、大きな損失を被る可能性が高いです。
資産規模は常に大きい方が良いというわけではありません。会社が成長している時期であれば、資産規模は増やしていく方が良いのでしょうが、成長が止まったら総資産を増やさないようにコントロールすることが大切です。具体的には売上高や利益の増加率が止まってきたら、総資産もコントロールすべきでしょう。
資産のうち、特にお金以外のモノ、在庫や設備などはいったん身につくと後から削減することは容易ではありません。さらに設備については、所有期間が長くなればなるほど維持費や修繕費がかさむ結果となり、利益率を下げる要因につながります。
資本の部を確認する上では、単純にその会社の規模がどの程度かということを確認するとともに、会社が規模をコントロールできているかという部分が重要になるでしょう。
2-2 資産の部
「資産」というのは、要するに自分たちが企業を経営して得たものがどのような形のものに変わったのか、ということを示しています。
損益計算書に出てくる利益は、貸借対照表の「資産」に組み入れられます。貸借対照表上では、蓄積された利益を「内部留保」と呼びますが、その過程で様々な形となり「資産」となっていきます。
例えば、商品を販売した場合、販売による対価として現金を受け取ります。この現金が資産に該当します。さらに、この現金を利用して不動産や車などを購入すると現金が固定資産に変わっていくのです。
企業の利益はこうした形となって「資産」に変わっていくわけです。
2-3 負債の部
決算書の右側1番上に表示されるのが「負債」です。これは別名他人資本と呼ばれるもので、自分たちが補いきれなかったもの、第3者から借りてきたもののことを指します。
つまり、負債=他人資本は、いずれはこれを返済しなければならないもので、こうした項目がこの部分に記載されているということです。
具体的には買掛金などの支払わなければならない代金、金融機関からの長期・短期借入金・未払費用といったものが挙げられます。
これらすべてが「負債」となり、企業が不足した資金を、何によって補充したかを示しています。
3 損益計算書
損益計算書は1営業期間内に生じた支出と収入とを比較して純損益を明らかにし、その純損益がどのような経路を経て出てきたかを示すものです。
商品の売り上げから、材料などを仕入れた場合の原価、メーカーの場合は、製品などを加工するための外注費や労務費等を差し引き、残ったものが「営業利益」です。販売管理費の中には人件費、通信費、交通費などを1例として販売や会社を維持運営していくための支出が含まれます。
4 決算書を読み解く6つの観点
決算書を分析し、その会社が今どのような状況に置かれているのかを診断していく場合、分析項目をいくつかに分け、各々の項目について検討を加えていく必要があります。
ここでは、1般的な下記の6つの要素にわけて説明をします。
① | 収益性 |
---|---|
② | 生産性 |
③ | 資金回収効率 |
④ | 安定性 |
⑤ | 健全性 |
⑥ | 成長性 |
4-1 収益性
1般的な企業は営利が目的、簡単に言うと商売を行うことで儲けることが目的です。収益性というのは、企業活動による収益を毎年どのくらい確保できているのか、あるいは今後とも十分に収益を確保できる体質にあるかどうかということを確認する指標となります。儲けることが目的の会社にとって、収益性はとても大切な要素となるのです。
収益性は次の5つの指標をチェックすると良いでしょう。
① | 総資本経常利益率 |
---|---|
② | 売上高経常利益率 |
③ | 売上高総利益率 |
④ | 付加価値率 |
⑤ | 売上高支払利息率 |
この中で、最も重要な指標が「総資本経常利益率」です。これは経常利益を総資本で割ったものですが、この指標から企業の現在の収益力の強さ、及び将来の収益を約束する体質の強さを読み取ることができます。この総資本経常利益率が低い場合には、資本の回転率が低いか、後述する売上高経常利益率が低いのかのどちらか、あるいは両方を意味します。
仮に売上高経常利益率に問題がある場合には、売上総利益、付加価値率、固定費、支払利息について検討していく必要があるでしょう。
その会社が作っている商品が売れるものなのかどうか、市場に適しているかどうか、これを見ることによって把握することができます。
4-2 生産性
生産性は、いかにローコストでしかもスピーディーに商品を仕入れ、それを販売できたかという点をチェックすることができます。
ここでは、
- 販売の方法や仕入れの方法及び仕入先との交渉力によって、売上高に占める原価割合がどのくらい減っているのか。
- 従業員1人当たりがどの程度付加価値を生み出しているのか。
- 生産をするためにどのくらい投資を行っているのか
の3つのポイントについて見ていきます。
この生産性をチェックする指標としては、次の4つがよく採用されます。
① | 1人当たり付加価値 |
---|---|
② | 固定資産投資効率 |
③ | 1人当たり固定資産 |
④ | 平均従業員賃金 |
この4つを見て気がつくことは、固定資産投資効率を除いた3つが、いずれも従業員1人当たりの数字になっていることです。
なぜ、従業員1人当たりで見ていくのかということですが、企業というのは1人1人の従業員が集まった集団ですよね。例えば、ムダということ考えてみると、従業員1人のムダが集まれば全体として大きなロスになってきます。
つまり、企業という集団の最も末端のところのムダを抑えることによって、全体のムダを抑えられることになります。そのため、ここでは1人当たりという見方によって、数字を出していくわけです。
・1人当たり付加価値
今回は、4つの指標をあげましたが、 このうち最も重要な指標が、1人当たりの付加価値率です。これは、1カ月分の付加価値を、期首の従業員数と期末の従業員数および期首の役員数と期末の役員数を合計して2分の1を掛けたもので割ることによって求めていきます。従業員、役員の1年間の平均した数を出して、付加価値をこの数値で割っていくという方法です。
付加価値というのは、言い換えれば粗利益(売上総利益)のことです。その会社において、どれだけ商品に価値を付加することができたかを調べるために利用されるのがこの1人当たり付加価値です。それも、月ごとに数字を割り出していきますが、結果として出てきた数字が高ければ高いほど、付加価値をつけられていることを意味しています。
この算式では付加価値を分子に持ってきているので、利益を出せば出すほど、また仕入原価を下げればそれに比例して数値も大きくなってきます。仕入れ原価を下げるということでは、仕入先との力関係が大いにものを言います。その会社の立場が強ければ、その分仕入先からも安い値段で材料を仕入れることが可能になってくるからです。
1人当たり付加価値を高めていくためには、1人当たり固定資産か固定資産投資効率のどちらか、あるいはその両方を高めていかなければなりません。そこで次にこの2つについて見ていくことにしましょう。
・1人当たり固定資産
1人当たり固定資産というのは「労働装備率」とも呼ばれるもので、企業の省力化·高度化等の合理化のための投資が、どの程度なされているかを見るものです。1人当たり固定資産は、期首と期末の固定資産を足して2で割った年間の平均固定資産を、年間の平均従業員数で割って求めます。この数値によって「従業員1人に対してどれだけの設備を与えているのか、与えすぎているのかいないのか」ということが判断できます。
・固定資産投資効率
もう1つの固定資産投資効率は、どの程度の投資がされ、その投資に対して付加価値がどのくらい上回っているかを知るための指標です。この数値の大小によって設備投資が過剰になっているのか、それとも過少なのかという点を判断します。数値が高ければ高いほど、投資効率がいいということになります。付加価値は企業に働く従業員たちの生活や企業存続のための源泉であり、また企業の必要利益の源泉でもあります。したがって、付加価値、つまり生産性を高めていくためには1人当たりの固定資産、固定資産投資効率を高めていく従業員1人1人の努力が、何より大切になってきます。
・平均従業員賃金
また、企業の生産性を見るための指標としては、今あげたもののほかに平均従業員賃金があります。従業員の賃金の中には毎月の給与や年2回支払われる賞与、あるいは、福利厚生費も含まれます(メーカーの場合は労務費も入ります)。これらすべてを含めて賃金と呼んでいるわけですが、この賃金を1年間の平均従業員数で割り、1カ月当たりの賃金を割り出したのが、「平均従業員賃金」です。
これによって、1人当たりの賃金がどのくらいになっているかがわかります。この平均従業員賃金は、従業員1人当たりの数字を求めていますが、これは生産性から見た場合、人に頼る部分が多いためです。といっても、企業の生産は必ずしも人に頼っている部分だけとはいえません。機械設備というものがありますが、その機械を動かし管理していくのはやはり人間です。そのため、ここでも1人当たりの数字によって企業の生産性を判断していきます。
平均従業員賃金という指標は、従業員に対し妥当な賃金が支払われているかどうかを判断する材料になりますが、大切なのは労働力と賃金のバランスです。また、生産時間と生産効率のバランスです。現在のような人手不足の中にあって、この部分の分析は非常に重要になってきます。
ここで問題になるのは、平均従業員賃金は高いほうがいいのか、それとも低ければいいのかという点です。従業員サイドから見れば高いほうがいいのは当然です。しかし、経営者の立場に立ち、労働分配率という観点から見れば、これは低く抑えたほうがより多くの利益を確保できるということになります。
しかし、平均数値からもわかるように、優良企業ほど平均従業員賃金が高くなっていることは事実です。理由の1つは、この場合の「賃金」の中には福利厚生費が含まれており、優良企業ほどこうした福利厚生面におカネをかけているからです。したがって、平均従業員賃金という指標を見る場合、この数字が高いか低いかということより、むしろ賃金の支払い方が適正な評価のもとに行なわれているかどうか、といったことのほうが、重要になってきます。適正な評価のもとで、という意味では能力給制度の導入を考える余地が出てくるでしょう。
4-3 資金回収効率
企業の経営に投下された資金が、はたしてムダなく効果的に使われているのか、資金が固定化、硬直化していないのかこうしたことを判断するための指標として利用されるのが「資金回収効率」です。
では、具体的にどのようなことをいうのでしょうか。
資金の回収とは、ひと言でいえば企業経営のために投下された資金が、効率よく回収あるいは運用されているかどうかということです。
貸借対照表では、資本の部と負債の部を足すことによって資産が生まれます。それではどのようにして資本と負債が企業の資産となっていくのでしょうか。それを判断するのが、資金回収効率です。
この資金回収率は次の4つの指標を見ることによってわかってきます。
① | 総資本回転日数 |
---|---|
② | 受取勘定回転日数 |
③ | 棚卸資産回転日数 |
④ | 固定資産回転日数 |
・総資本回転日数
最初に「総資本回転日数」ですが、これは資本額が何日間で売上げの部分をカバーしているのか、言葉を換えれば企業が売上を出すために、資本がどのくらい回ったかを示す指標です。この指標を見ることによって、資本の活用の程度と状況がわかってきます。その意味では、資金回収効率を測る上で、最も重要な指標ということができます。
総資本回転日数は365日を総資本回転率で割ることによって求められますが、総資本回転率というのは、売上高を総資本で割ったものです。総資本は、資本と負債を合計したもの、すなわち、貸借対照表の右側に出てくるものの合計で、左側(資産)の合計と同じになります。売上げをつくり出すためにはおカネが、この資本の中に入ってきたり、出ていったりします。つまり、総資本回転日数というのは、何日間かかって企業は売上高を出し、なおかつ何日間かかっておカネの出入りがあったのか、その平均値を求めるために算出する指標なのです。当然、短い日数で資本を生み出したほうが効率はいいということですが、最高値は365で、それ以上の数字は出てきません。
・受取勘定回転日数
資金の固定化してしまう原因の1つとしては、「受取勘定回転日数」が長くなっているということが考えられます。具体的にいうと売掛金の滞留や受取手形が長期化しているということです。こうした売掛金や受取手形といった受取勘定が、どのくらいの日数で回っているのかを表わしているのが受取勘定回転日数です。
・棚卸資産回転日数
企業の資金回収効率を悪化させる原因はまだあります。棚卸資産、在庫の管理がどうなっているのかということです。在庫が過剰になっていないかどうか、1回仕入れた商品が倉庫に何日間置いてあったかを知る必要が出てくるわけですがこうしたことを知る指標が「棚卸資産回転日数」です。
これは短ければ短いほど、自分たちでストックしていないで商品が早く売れたということを意味するので、数値は小さければ小さいほどいい、ということになります。
もう1歩、突っ込んで考えると、在庫量が多いということは、商品を倉庫に眠らせておく日数が長いということです。売上げをさらに伸ばそうとすれば、今以上に多くの商品を仕入れなくてはならなくなります。
売上げを倍増しようとするなら、これまでの倍の商品を仕入れもう1つ倉庫を設けなければならなくなり、過剰投資にもなりかねません。そこで例えば最も理想的な形を追求していく方法の一つに、在庫を全く持たない「カタログ販売」などが挙げられます。
・固定資産回転日数
また、受注生産による販売ということ固定資産と売上げとの関係を見る指標資金回収効率を見ていく上で、もう1つ考えなければならないのが「固定資産回転日数」です。これは、投資効率とも関係してきますが、1生懸命投資した資産が生み出す売上高の回転日数です。要するに、売上高に占める固定資産の割合を日数で見ることによって固定資産がどれくらい利用されているかがわかります。
たとえば、100の売上高に対して20の固定資産とすれば、算式により73日と出てきます。これは、73日分の売上高で固定資産20の全部を稼ぎ出している(回収している)ということです。ここで、固定資産を120で投資したとして算出すると365日の売上げでは対応しきれなくなります。
たとえばパソコンで16ビットと32ピットの2つの機種があったとします。この2つの機種に同じ演算をさせれば、16ビットの機種に比べ32ビットの機種のほうが約半分の時間で、答えを出します。これと同じで、回転性の早い機械設備を固定資産として投資した会社と、しなかった会社とでは売上げに対する数字が変わってきます。固定資産回転日数という指標からは、こうした点も読み取ることができます。
つまり、資金繰りと有効な固定資産、設備投資がなされているかいないかという点です。したがって、固定資産回転日数を見ていく際には、生産性と1部オーバーラップしながら見ていくほうがいいでしょう。
4-4 安定性
企業の安定性を見る指標としては、次の4つがあります。
① | 経営安全率 |
---|---|
② | 労働分配率 |
③ | 支払勘定対受取勘定回転日数比(日) |
④ | 借入月商比率(カ月) |
こうした指標を見ていくことによって、企業が現在のまま維持していけるのか、成長しながら維持していけるのかどうかをつかむことができます。ここでは主に投入費用と売上げのバランス、付加価値と人件費のバランスを検討していくことが大切です。
・経営安全率
企業を経営していく上で、必要とする利益を確保していくためにはいったいどのくらいの売上げが必要になってくるのかを知る必要があります。
逆の言い方をすれば、自分の会社は売上高の減少にどのくらい耐えていけるか、ということですが、このギリギリのラインを示したものが損益分岐点です。
まずはその会社の損益分岐点を求め、そこから今いる距離を求めます。損益分岐点から今いる位置がプラスであればあるだけ、売上げがダウンしても企業は維持していけます。損益分岐点を出し経営安全率を知ることによって、「現在より何%売上げがダウンしても大丈夫か」ということがわかります。
経営安全率が高いということは、不況抵抗力が強く”足腰”の丈夫な企業だということができるでしょう。
・労働分配率
次に労働分配率です。これは粗利益(または付加価値)の中に占める給与等人件費の割合です。人件費の中には労務費や福利厚生費、役員報酬といったものが含まれますが、これによって付加価値と人件費のバランスを見ることができます。1般に労働集約的な企業はこの数値が高く、合理化投資の高い企業は低いといわれています。経営者側から見れば労働分配率は低いほどより多くの利益が確保できるということになりますが、1方、従業員にとっては労働分配率が下がるということは大問題です。それでは自分たちの給与が下がってしまいます。
そこで、この矛盾を解決するための方法として、粗利益を上げることによって、労働分配率を下げていくということが行われてきました。理想的な労働分配率は、1般には40%程度と言われており実際に大手企業の水準はこれに近いものとなっています。ところが、最近になって日本の人件費は世界のレベルに比べて低いと言われてきました(特に、物価水準と比較して)。これを受けて、日本の企業も人件費を高めなければならないという動きが出てきはした。結果的には、深刻な人手不足現象によって、世界レベルとのギャップも縮小しつつあります。
このように、1方においては1人当たりの給与は高いほうがよいということです。この2つを解決する方法はやはり粗利益率を高めていくことです。
- 支払勘定対受取勘定回転日数比
- 借入月商比率
経営安全率と労働分配率は、資金面、利益面から見た企業の安定性を見るものでした。これに対して財務面から企業の安定性を見る指標が「支払勘定対受取勘定回転日数比」と「借入月商比率」の2つです。
経営安全率や労働分配率は損益計算書から求めるのに対し、支払勘定対受取勘定回転日数比と借入月商比率は、貸借対照表に記載されている数字をもとに、算出していきます。まず支払勘定対受取勘定回転日数比ですが、これは受け取る資金が早ければ早いほど、支払いは遅ければ遅いほど、資金繰りが楽になるということを意味します。すなわち、顧客(得意先)からは代金を現金でもらい、仕入先に対しては手形で代金を支払うという形が理想的といえます。しかしながら、これはよほど立場が強くなければできないことです。
借入月商比率は、借入金と売上高のバランスを見るための指標です。前期と当期の借入金の平均値が、売り上げに対してどのくらいの割合を占めているのかという点を見ていきます。仮に1カ月の売上高が1億円で、借入金が4億円であれば、4カ月分ということになります。したがってこの数値は小さければ小さいほどいいことになります。
優良企業の場合には借入月商比率は1カ月ないし2カ月であるのに比べ、欠損企業では3カ月、4カ月、なかには7~8カ月という企業もあります。この借入月商比率は、通常4カ月を超えると企業は赤信号、6カ月以上になると倒産と言われています。つまり、6カ月分の借入金を返済するためには、6カ月分の売上げが必要ということで、常識的には返しきれないと考えるのが普通だからです。
しかも、借入金には金利がかかります。66カ月分の利息となると、これは営業利益のかなりの部分を占めることになってしています。
以上のようなことから、企業の安定性を見るには利益面と財務面の両面から検討していく必要があります。この安定性は、企業の足腰の強さをチェックするものだといえるでしょう。
4-5 健全性
企業というものは、1度経営を始めたら継続的に従業員に対して給料を支払い、利益を追求していかなければなりません。従業員全員がある時期に全員辞めてしまう、ということでも起こらない限りは経営を続けていく義務を課せられているといっていいでしょう 。その義務を全うしていくための「力」を測るものが健全性です。つまり、企業の「持久力」ということです。企業の経営活動をマラソンにたとえれば、「限りなく長い距離を走り抜くためスタミナがどれだけあるか」ということによって、その企業の健全性は決まってきます。
健全性を見るための指標としては次の5つがあげられます。
①流動比率
②当座比率
③固定比率
④固定長期適合率
⑤自己資本比率
・流動比率
「流動比率」から見ていきます。流動比率というのは、流動資産の合計を流動負債の合計で割ったものです。流動資産というのは1年内に現金化できるもので、貸借対照表に記載されている現金、預金、手形、売掛金などのものをいいます。1方の流動負債は1年以内に支払わなければならないものをいいます。
この2つのバランスを見るための指標が流動比率です。当然、支払う額より受け取る額の残高が多いほうがいいということに·支払能力をとらえるとなります。
・当座比率
当座比率も流動比率と基本的には同じです。ただし、流動比率があくまで1年以内と期間を限定していたのに対し、1年以上で現金化できる資産、負債が含まれてきます。流動比率に比べて、さらにいざというときに取りくずせる部分があるかないかが、当座比率を見ることによってわかってきます。数値は高いほうがいいということです。
・固定比率
固定比率は、固定資産への投資がどれだけ自己資本で賄われているのかを見るための指標です。企業には内部留保されている部分があります。内部留保というのは突発的な事態に備えて蓄えておかなければならないものですから、内部留保を残しておきながら、自己資本を固定資産に変えていく–ということが最もいい方法といえます。というのは、固定資産には必ず減価償却が発生するからです。企業が使用する設備などの固定資産は、年々消耗していきますこの価値が減った分を経費として計上することを減価償却と呼びます。たとえば営業車を5年間で減価償却して、5年後に新車と買い換えるとすると、5年間で均等に減価償却をしていくことになりはす(定額法の場合は均等償却、定率法の場合は償却額が年々減っていきます)。
つまり、5年後に買い換えるものを、購入の時点でその代金を全額キャッシュで支払う場合は、1時に多額の支出をすることになり、資金繰りの計画が立てにくくなります。また、全額キャッシュで支払っても損益計算上は当期の減価償却費と取得経費のみが損金となります。しかし、これを次の買換えの時期(仮に5年とすると)に合わせて5年間の借入金で支払った場合は、当期の減価償却費と取得関係費および借入金に対する支払利息が計上されます。資金計画から見ると、借入金の均等払いにより、計画が立てやすくなり、また、1時の多額な支出を防げます。
ここでは、償却期間と支払期間を1致させることで費用計上期間と支払計上期間の1致を計ることが大切になってきます。これと同じで、資本の部の合計=自己資本が1度にすべて投入されないで、長期の借入れなどによって、減価償却の期間、設備等の耐用年数に合わせて投資されているかどうかを見るのが、この固定比率です。
・固定長期適合率
そこで、長期の借入状況を見るために必要になってくるのが、固定長期適合率という指標です。これを見ることによって、自己資本と長期の借入金のバランス、借入金で企業の資産が賄われているかどうか、その割合が投資効率と合っているかどうかということがわかってきます。
ところで、先に説明した固定比率とこの固定長期適合率の数値の高い企業というのは、積極的に資金投下をして土地、設備などを購入しているところが目立ちます。土地や設備のほかにも有価証券、建物、備品などを進んで購入している企業もあるでしょうが、こうした固定資産がどのようなもので構成されているのかを見ることが大切になります。
地価が急激に値上がりしている、あるいは所有していた株の株価が暴落したというときには、固定資産の真の価値は表に出てきはせん。固定長期適合率では、その数値も大切ですが、それ以上に分子になっている固定資産の内訳、時価評価額を正確に把握しておく必要があります。固定資産を売却した場合、どのくらいの価格になるのかを知ることが、企業の健全性、持久力を知る1つの目安となります。
・自己資本比率
企業の健全性を見ていく上で、もう1つ重要な指標となるのが、自己資本比率です。これは、総資本の中に占める自己資本の割合を表わしています。自己資本比率はまた、他人資本と自己資本との割合で、負債の額と資本の額の比率を見るためのものです。
自己資本とは、株主が払い込んだ資本金·資本準備金と、会社が稼いだ過去の利益による積立金および当期の利益などから構成されます。自己資本比率では、負債+資本の中に占める資本の割合を下に示した算式にあてはめ、数値を求めていきます。ここでは、財務的な分析をしているわけですが、企業の財務的部分が安定していなければ、資本投下も考えにくくなります。要するに長期間安心して経営を続けていけないということで、自己資本比率を高めていく必要があります。企業の健全性=持久力は、人間の体でいえば、食物を口にしなくてもエネルギー源となる脂肪です。いざというときに取りくずせる脂肪がどのくらいストックされているか、ということです。
4-6 成長性
成長性を見る指標には次の4つのものがあります。
①売上高増加率
②労働生産性増加率
③経常利益増加率
④自己資本増加率
いずれも”増加率”という名前がついているところからもわかるように、この4つの指標は、過去の決算書と現在の決算書を比較することによって導き出されます。
・売上高増加率
まず、売上高増加率ですが、これは文字通り、前期に比べて当期はどの程度売上高が伸びたかを示すものです。数値が高いほど、その企業は成長分野にいるといえ、市場も見ることができます。逆に数値が年々下がり続けているのなら、その市場にいること自体が不適切だ という見方もできるわけです。
ただし、業界の成長率との比較も忘れてはなりません。この数値が伸びているからといって安心するわけにはいかないのです。5年後、1〇年後に自分たちのいる市場が1杯になってしまう可能性もあるからです。したがって常に、将来に備えて次の商品構成を考えておく、あるいは新しいマーケットの開拓を進めていくべきです。
・労働生産性増加率
労働生産性は生産、販売の効率を見るためのもので、1人当たり付加価値の算式を当てはめ、求めていきほす。労働生産性の伸びは、高い人件費を吸収し、必要な利益を上げるための生産性向上をはかる上での大切な指針となります。生産性を高めるためには、少ない人数で同じ付加価値を上げること。同じ従業員で多くの付加価値を上げることが、ポイントとなります。
・経常利益増加率
経常利益増加率は、前期と比較してどれだけ経常利益が増えこれには3つのケースが考えられているかを見るものです。
1つに前期の経常利益がゼロより多い場合です。つまり利益があったという場合です。もう1つはゼロより小さい場合で、これは利益がなかったときです。それと前期の経常利益がゼロの場合です。この算式では前期の経常利益がプラスだったときには、これから当期の経常利益を引き、数値がマイナスにならないようにしてあります。
・自己資本増加率
最後に自己資本増加率ですが、この伸びは前期と比べての自己資本の増加を表わしています。自己資本は、増資など他の手段で増加させたケースがないならば、内部留保の蓄積によって増えていきます。
したがって自己資本増加率が低かったり、マイナスになっている場合は、利益の蓄積がなされていないことになります。つまり、「成長していない」ということです。
すなわち自己資本比率を高めるためには、利益計画を立て定水準以上の利益を確保し、内部留保に努めることと、資金計画をしっかり立てて、資金の健全な調達に努めることが必要です
以上、6つの観点を確認してきましたがいかがでしたでしょうか。
会社の数字(決算書)を分析するためにはこの6つの観点を中心に確認してみてください。そこから重要な課題も浮かび、その会社のどういう点が強いのか、あるいは弱いのかという点が見えてくるはずです。
もう少し大きな見方をするなら、この6つの観点を「攻め」と「守り」の部分に分け、自分の会社はどちらの方にウエイトがかかっているかを見ることもできます。収益性、生産性、成長性が「攻め」の部分。つまり営業力の強大です。これに対して資金回収効率、安定性、健全性が「守り」の部分に当たります。
これによって自分の会社は営業力が強いのか、それとも財務体質が強いのかがわかってきます。そしてこの「攻め」と「守り」とのバランスが取れていることが理想ですが、どちらか方が弱いとしたら、その部分を強くしていかなければならないという、目安になるはずです。
5 まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、貸借対照表や損益計算書のそれぞれの勘定科目や決算書の作成方法などは割愛した代わりに決算書の読み方、特に分析をする上での着眼点をメインに説明しました。
分析方法は多種多様で、これまでにもたくさんの書籍が発行されてきました。それぞれいろんな分析方法が示されているでしょう。しかしながら、どの手法を採用したとしても着目する点は上記の6つの観点がメインになってきます。
会社は、まず存続していくことが最重要です。これは、どのような関係であっても変わらないでしょう。例えば、その会社の従業員の方にとっては倒産することで職を失うでしょう。また、取引先にとっては、販売先が一社減ることになるので売上減につながるでしょう。
そう考えていくと「守り」の部分である資金回収効率、安定性や健全性が重要なように思います。
しかし一方では、従業員はこれまで以上に給与を上げてほしいですよね?また、取引先にとっては、売上が増加した方が良いですよね?そういう目線で考えると「攻め」を意味する収益性、生産性そして成長性が重要になっていきます。
あなたが分析する会社が今どのような状況にあるのか、そして今後どのような方向性に進んでいくのか、そのような点も考慮した上で、ぜひ今回の内容を利用してほしいなと思います。