サラリーマンとして雇用されるという生き方ではなく自身で起業して事業を行っていく、という選択をした場合に、その起業形態には大きく分けて、個人事業として営む場合と、法人(会社)を設立して経営する、という手段があります。ただし、個人か法人か、という選択は、一度決めてしまうと二度と変更できない、というものではありません。個人として事業を立ち上げた後に、経営が軌道に乗ってきた段階で法人化するという方法もあります。これを一般に「法人成り」と呼んでいます。
このように個人から法人成りするという場合に、いったいどのタイミングで法人化すれば良いのか、というのは悩みどころです。つまりそれは、どのタイミングであればメリットが最大化するのか、という判断を求められることになるからです。タイミングを検討するにあたっては、法人化の具体的なメリット・デメリットは何なのかをしっかりと見極めていく必要があるでしょう。
今回は法人化するメリットおよびデメリット、法人化する損益分岐点や具体的な手続き方法についてご紹介します。法人なりを検討している個人事業主の方はぜひご参考ください。
1 法人成りとは?
フリーランスや個人事業主として事業を行っていると「法人成り」という言葉を耳にして、気になることがあるのではないでしょうか。「法人成り」と聞くと、個人が法人になるというような印象を受ける言葉ですが、それは正確な理解ではありません。個人事業主が新たに法人を設立して、それまで個人で行ってきた事業を設立した法人に移管するというのが正しい理解となります。
かつて、法人化に対するハードルはかなり高い時代がありました。つい十数年ほど前までは、株式会社の場合は最低でも1000万円の資本金を準備する必要がありましたし、役員も最低3人の取締役と1人の監査役が必要でした。
しかし、現在では最低資本金制度が撤廃され、1円から設立できますし、取締役も1人で良いこととなりました。このことで法人化へのハードルは格段に低くなり、とても身近になってきているのです。まず、そもそも「個人」と「法人」は何が違うのか、ということを整理した上で、個人事業主が法人化することのメリットとデメリットを具体的に確認していきましょう。
1-1 個人と法人の違い
事業を行っていくうえで、仕事の内容としては個人と法人では何も変わらないので、感覚的に違いを感じることはあまり無いかもしれません。個人か法人かという区別は、実はフリーランスを含む小規模な事業体に限って言えば、単に法的な位置づけの違いに過ぎません。
つまり、普段行っている取引や契約といった行為内容そのものに関しては、特段何も変わるところはないのですが、「誰が」その取引や契約を行ったのか、いわゆるその「名義」が個人と法人で異なることになります。
個人としての取引や契約は、個人の名前で行うことになりますが、法人になると、それを法人の名前で行うことになります。法人はもちろん自然人ではありませんが、法によって人格が与えられていると考えます。
そして「名義が異なる」という理由から適用される法律が変わります。特に重要な違いは、設立手続きや権利関係の規制が「商法」から「会社法」に変わることと、適用される税法が「所得税法」から「法人税法」になることです。
もう少し正確に言えば、商法は個人事業主も会社も含めて、全ての商人による商行為に適用される法律です。それに上乗せして、いわゆる「会社」と呼ばれる株式会社、合名会社、合同会社、合資会社に会社法が適用されます。会社に関する規定は、ほとんど全て会社法によります。
税法に関しては、所得税も法人税のいずれも、いわゆる「もうけ」に対して課税されるもの、という点では同じです。しかし個人と法人では、「もうけ」に対する考え方やとらえ方が異なっており、別々の法律が適用されるのです。
個人事業主はあくまで個人なので所得税法が適用されます。ただし所得税法でいう事業所得は、様々な種類がある所得の中の一つとして位置づけられています。それは、個人の所得というのは、事業所得だけとは限らず、不動産や利子・配当、兼業であれば本業からの給与などもあるからです。その意味では、個人事業主もサラリーマンも同じ法律の枠組みでとらえることができるのです。
それに対して法人の所得は、その法人が稼ぎ出した利益だけが源泉です。ですから、法人の会計にもとづいた利益計算をベースとした課税が可能となるのです。このように、適用される法律が違うことによって、法人化することによる様々なメリットやデメリットが生じてくると考えて良いでしょう。
1-2 法人化のメリットとは?
フリーランスや個人事業主が法人化することによって、適用される法律や制度が変わります。具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのかについて、「税制上のメリット」と「社会的なメリット」に分けて考えていきましょう。
法人は個人と比較すると、多くの税制上の優遇措置があります。その代表的なものとして、給与所得控除があります。給与所得控除の説明をする前に、経営者が考慮しなければならない税金の全体的な仕組みについて確認しておきます。まず、フリーランスを含む個人事業主にかかる所得税は、収入額から必要となった経費を控除した金額を基礎として計算されます。
そして法人になると法人税が課税されることになる、と説明しましたが、所得税を全く考慮しなくてもよくなる、ということではありません。法人化した場合は、法人が獲得した利益にかかる法人税と、経営者個人にかかる所得税が別々に計算されますので、どちらも考慮しなければならない、ということに注意が必要です。
経営者の収入は、会社からの役員報酬という形で支出されます。この役員報酬は、一定の条件をクリアしていれば全額会社の経費として認められますので、会社側では課税の対象となりません。その報酬は経営者個人の所得になるのですが、この場合、経営者の所得税計算において、給与所得控除を適用することができるという仕組みです。
給与所得控除とは、給与所得者にとっての経費のようなものです。例えばサラリーマンのような給与所得者にも、収入を得るために必要となる経費は存在します。例えば、勤務のためのスーツや靴などが必要ですし、情報収集や能力開発のための書籍などにもお金がかかります。
このような給与所得者の必要経費を、一つ一つ計算して確定申告することは、日本に何千万人もいるサラリーマンにとってはきわめて困難であり、現実的ではありません。税務署も大変です。そこで、実際にいくらかかったかではなく、一定の条件で計算した額を経費の額とみなして当てはめる、という仕組みになっています。
経営者も法人から給与を得ている個人ですから、収入を得るために、個人としても必要な経費があると言えます。そのため、給与所得控除が適用できるのです。そこで控除された額だけ課税所得を減額することができますから、そのぶん節税効果が出てきます。もし仮に個人事業主として、同じ金額を収入したとすると、これは給与ではないので、給与所得控除は適用できません。そう考えると、給与所得控除は非常に大きな税制上のメリットと言えます。
さらに、この派生型として、家族を役員もしくは従業員として扱うことで給与を支給するという手段があります。
所得税は、所得額が大きくなればなるほど税率が上がります。そこで、同じ役員報酬額でも、家族に分散することによって、一人あたりの所得額を下げることになり、節税につながります。また、給与所得控除も一人ずつ適用することができますから、その効果は相当大きなものとなります。
実はこの家族間での所得分散は、個人事業主でも適用が可能です。しかし、金額上限や就労実態、人数などの制限がかなり多く、法人のほうが有利な制度となっています。
そして、さらに退職金という節税手段も考えられます。法人の場合、5年以上勤務した役員に対して支給した退職金には、退職所得控除が適用できます。
このほかにも、法人にのみ経費として認められるものがあります。例えば自宅を社宅として位置づけることで、家賃を経費にしたり、会社として保険に加入したりすることで、保険料を経費にすることも可能です。
次に、消費税の納税義務が2年間免除されるのも法人化するメリットです。だだし、すでに納税義務が発生している場合に限られます。消費税の納付義務は、2事業年度前の課税売上高が1000万円以上である場合に発生します。逆に言えば、1000万円未満であれば、納付する必要がありません。
そこで、新たに法人化した場合は、最初の2年間は課税売上が無いことになります。たとえ、個人事業主として売上げがあったとしてもカウントされないのです。そのため、個人事業主としてすでに納税義務が発生していたとしても、法人化することによって2年間は納税義務が免除されることになる、という仕組みです。
次に損失繰越です。損失繰越は、課税所得の計算において、経費が収入よりも大きかった場合、つまり損失が発生した場合に威力を発揮します。損失が発生した場合、当該年度の課税所得はマイナスですから、法人税が課税されないのは当然です。法人の場合は、さらにそれに加えて、この損失額を以降9年間にも渡って繰り越すことができる、という仕組みです。つまり、翌年度以降に利益が出た際に、過去の損失を相殺することによって、課税所得を減額することができるのです。
個人事業主の場合でも、青色申告を適用している場合には、この損失繰越を適用できるのですが期間は3年間です。その3倍もの期間に渡って適用できるという点が、法人化における大きなメリットと言えるでしょう。
以上が税制上のメリットです。税制上は、かなり法人が優遇されているという印象を持ったことでしょう。しかしながら、法人化のメリットはこれだけではありません。それ以外にも社会的なメリットが挙げられます。
まずは「有限責任になること」です。これは法人の形態にもよるのですが、最も一般的な株式会社の場合、経営者は株主となり、出資額以上の責任を負いません。これを株主有限責任の原則といいます。つまり、会社の経営が完全に破綻し、多額の債務を負ったまま倒産したとしても、株主は、出資した額以上の負担を強いられることがありません。出資額だけを放棄すればよく、多額の借金を経営者が肩代わりする必要が無いのです。
個人名で借り入れた借金が、どこまでも個人に責任が及ぶ個人事業主と比較すると有利であると言えるでしょう。
そして、社会的なメリットとして最も大きなものとして考えられるのは、信用力の向上です。既述のとおり、個人から法人になると、取引や契約の名義が個人名から法人名に変わります。経営者にとっては、実質的には何も変わっていないので、あまり意識することはありませんが、相手先から見ると大きな違いです。
一般的に個人よりも法人のほうが信用力が高いと認知されているため、法人化することで新たな取引先の獲得にも効果があります。例えば国や自治体の事業などは法人でしか受けられないという例が多いです。また、国や自治体以外でも、取引先を法人に限定している会社も多くあります。従業員を雇用する場合にも、信用力が高いほうが優秀な人材を集めやすくなります。また、法人になると社会保険に加入することになるので、この点も求職者にとっては魅力的な要素になります。
さらに金融機関からの借り入れの際にも、審査がとおりやすく有利な条件を引き出しやすくなります。法人になることで様々な権利関係が保全されますし、会社法に規定されるガバナンスを遵守しなければならないことが信用力につながっていくのです。
ただし、この信用力の向上というのは、法人として必要なハードルを超えてきたことの証明です。厳しい条件をクリアしてきたからこその信用なのです。つまり、超えるべきハードルがあるということは法人化のデメリットであるとも言えます。
1-3 法人化のデメリットとは?
法人化のデメリットとしては、会社を設立・維持するためのコストや手間がかかるということでしょう。
まず、会社を設立する際には、「定款」を作成する必要があります。「定款」とは、会社の事業内容や組織の構成など、最も重要かつ基本的な事項を文書化したものです。
「定款」は作成すれば良いというわけではなく、公証人による認証が必要です。公証人とは、文書の法的な正当性を担保する役割を担っています。公証人に認証してもらうことで、はじめて「定款」が法的に有効となります。
この公証人による認証には費用がかかります。原則としては9万円程度が必要とされています。さらに、法人は設立の登記が必要です。この登記に際しても費用がかかり、最低でも15万円程度は必要となります。会社を設立するだけで25万円以上の費用が必要となります。
そして、法人になると、赤字でも課税される税金があります。法人税について、所得にかかる部分は損失繰越などで有利になることは既述のとおりですが、法人には「法人住民税」があり、法人住民税の一部は黒字でも赤字でも課税されます。個人事業主の場合は、赤字になると住民税も課税されないのですが、この点に関しては、法人のほうが不利な制度設計となっています。
また、社会保険料の負担についても同様です。個人事業主であれば、赤字の場合は社会保険料を支払う必要はありません。しかし、法人の場合は、役員の社会保険料を必ず納めなければならないのです。
その他税務面で法人のほうが不利になる制度として、交際費の取扱の違いがあります。交際費とは、取引先などと打ち合わせや会食を行う際の飲食費、接待費などのことです。
個人事業主の場合、業務との関連がある限り、交際費は原則として全額が経費として認められます。その一方、法人の場合は制限があります。飲食費の50%か、最大でも800万円までとなっています。
これは交際費の性質による規制で、交際費を無制限に経費として認めてしまうと、想定よりも多くの利益が出そうな時に、節税対策のために、必要以上に高額の接待を繰り返し、会社財産を浪費することにつながるおそれがあるため、法人では制限がかけられています。
個人の場合は、個人財産が減るだけなので自己責任ですが、会社は基本的に公器であり、社会的責任を果たすべき、という考え方があるので、高い倫理意識が求められているわけです。もちろん、交際費を使うこと自体に規制がかけられているわけではありませんので、いくら接待をしても構いません。その分税務面で不利になるというだけです。
そして、個人から法人になると、税務や会計が大きく変わってしまうことへの対応が必要であることは、注意が必要です。会計に関して言えば、まず、複式簿記が必須となり、貸借対照表と損益計算書の作成と提出が求められます。会社法によって規定されていることに加えて、税務申告においても提出が必要になるので必ず作成する必要があります。
もちろん、個人事業主でも青色申告を行う際には、貸借対照表等の提出が求められるのですが、法人ではこれが絶対に必要となり、会社法により貸借対照表は公表することを義務付けられます。
これまで個人事業主として、複式簿記や決算書類を導入していなかった場合に、はじめてこれを導入するためには、様々なコストや手間が発生するでしょう。税理士に丸投げする、というのも一案ですが、かなり多額のコストがかかることと、自社の財務内容が自身で把握できなくなってしまうため、あまりお薦めできません。ある程度は自身で勉強して、その上で安価な会計システムを導入して実務は省力化するというのが最適なソリューションだと考えられます。そのための手間とコストは自己投資と考えるべきです。
そうすることによって、会計の強化はデメリットではなく、むしろ、メリットに転換することができます。会計をしっかりと行うことによって、自社の経営を財務面から分析することができるようになり、社会的な信用の強化にもつながります。
2 いつ法人化するのが良いのか?
法人化のメリットとデメリットが把握できたところで、一体いつ法人化すれば良いのか、という次の疑問点が出てきます。「いつ」というのは長期的なスパンでとらえて利益がどれくらいになった時か、ということを意味します。つまり、これまで確認したメリットやデメリットを比較する際に、メリットが勝ると判断される時がその時なのですが、これは、利益の金額に大きく影響されるということです。
本節では、法人化の損益分岐点という考え方を整理した上で、様々なパターンを考慮しながら、そのタイミングを考えていきます。
2-1 法人化の損益分岐点とは?
これまで確認してきたように、個人事業主と法人では、適用される税制等が異なるため、全く同じ仕事を全く同じようにこなして、全く同じだけの利益を得たとしても納めるべき税金を差し引いて手元に残るキャッシュは変わってきます。
その手元に残るキャッシュの額を決める条件は数多くあるのですが、最も大きな影響を与えるのは利益の額です。制度の違いから利益がごく僅かなときには個人事業主のほうが手元キャッシュが大きくなるのですが、ある一定時点を超えると法人形態のほうが大きくなります。この点が損益分岐点です。
しかしながら、既述のとおり、手元キャッシュを決定する要因は利益だけではありません。つまり、様々な要因の中から、どこまでを考慮に含めるかによって、損益分岐点は変わってくると考えて良いでしょう。損益分岐点について少し調べてみると、人によって答えが違うことに気づくでしょう。これは前提として考慮している範囲が違うということです。
利益額という観点でいくつかのパターンを想定しながら、それぞれにおいて損益分岐点がどこにあるのかについて検討してみましょう。
2-2 利益額500万円前後の状況での考え方
個人事業主でゼロから始めて、利益が徐々に大きくなっていき、500万円前後となった状況を想定します。最初の検討ポイントがこのあたりにあります。なお、ここでは、話を単純化するために、利益額イコール課税所得の額として考えます。
個人事業主にかかる所得税の税率は、利益が195万円以下の時は5%、195万円を超え330万円以下は10%、330万円を超え695万円以下は20%となります。
このため、利益が500万円の場合、500万円に20%を乗じた100万円から427,500円の控除額を除いて、税額は572,500円となります。
それが、法人の場合(ただし期末資本金が1億円以下の中小法人)は、800万円以下の部分が15%ですから、750,000円となります。ただし、現時点(2018年度)での税率は特例的措置として低くなっており、今後は変更となる可能性もあります。
この場合、若干、法人の方が税額が大きくなっていますので、明らかに法人化しないほうが良さそうにも思えます。しかし、既に確認したように、法人になれば認められる経費の幅が大きくなり、さらに課税所得を減額することができます。
この時、例えば役員報酬を300万円に設定するとその分会社の利益額を減らしますので、会社の利益は200万円となり、上記の条件から税額は30万円となります。
ただし、この場合は、経営者個人に所得が300万円発生しているため、そこに所得税がかかります。それも併せて考えなければなりません。個人の所得を300万円とすると、所得税額は202,500円となります。そのため、法人および個人のトータルは502,500円となり、個人事業主の場合よりも税金は安くなることがわかります。
さらに、この計算には含めていませんが、既述のとおり役員報酬分は所得控除が入りますので、実際はもう少し圧縮することができます。また、家族間で分散すればさらに効果が期待できることについても既に説明したとおりです。
このように、想定する条件次第で損益分岐点は変わります。とはいえ、500万円以下の場合は、役員報酬を工夫しても、トータルの税額は個人所得税のほうが有利になる可能性が高いです。500万円あたりからようやく検討の余地が出てくると言えます。
以上からこの所得帯は、どちらが安くなるかはかなり近接していると言えます。もちろん、既に確認したように役員報酬以外にも経費算入できるようになるものがあります。他方で、法人化することによって発生する費用や、住民税均等割もあるため、その影響はマイナス要因となります。
この所得帯で法人化を検討する場合は、どこまで経費に算入できそうか、また、どのような費用が新たに発生するのか、ということを含めてかなり詳細にシミュレーションをする必要があるでしょう。
逆に言えば、明らかな税制面でのメリットは、それほど享受できない所得帯であるとも言えます。その代わりに、かけなければならない手間とコストはかなり大きいです。それだけの手間をかけてでも、法人化するのが良いかどうか、税制面以外のメリット・デメリットを含めての検討が必要となる領域です。
2-3 利益額1000万円前後の状況での考え方
次に検討すべきタイミングは、1000万円前後の所得帯です。個人事業主の場合の所得税は、所得が900万円を超えて1,800万円以下の場合、税率が33%になります。つまり、1,000万円に33%を乗じた330万円から控除額の153万6千円を除き、税額は176万4千円となります。
法人税の場合、1,000万円のうち800万円以下の部分は15%ですから、120万円、800万円超の部分は23.2%となり200万円を乗じて46万4千円で、合計で166万4千円となります。わずかではありますが、法人のほうが安くなっています。
この所得帯になると、明らかに法人化のメリットが出てきます。役員報酬などの節税対策を一切講じない状況でも、法人税のほうが安いということですから、役員報酬額等の設定次第で、その効果はより大きくなります。
例えば、先ほどと同様に300万円を役員報酬とした場合、法人税は700万円の利益に対して、105万円となります。所得税は300万円の所得に対して202,500円となります。トータルで1,252,500円です。これだけで50万円ほど節税効果が期待できるのです。もちろん、所得税の所得控除も適用できますし、家族で分散すればさらに節税効果が期待できます。
この所得帯になれば、法人化する方が節税のメリットを享受できる可能性はかなり高くなると言えます。また、法人化の費用や、あるいは、住民税の均等割発生額を考慮しても節税効果の方が上回る可能性は大きいとも言えます。
以上のように、利益の額を基準として法人化を検討する場合は、大きく分けて3つの段階で考えていくこととなります。
まず、500万円未満の場合は、検討の余地はあまりないと言えます。500万円を超えて1000万円未満の所得帯では、諸条件の適用次第で法人のほうが有利になりますが、それほど大きな差異は出ませんので、税金以外のメリットを期待するならば、検討しても良いでしょう。そして、1000万円を超えてくると、節税効果は明らかに出てきます。この時点では積極的に、前向きに検討していくべきでしょう。
2-4 課税売上1000万円になった時は?
法人化のタイミングを検討する判断基準として、利益額を取り上げて確認してきました。実は、利益額以外にもう一つの基準があります。それが、課税売上高の金額です。課税売上高とは、消費税の仕組みにもとづく概念です。
消費税は、原則として、「消費」に対する課税ですから本来それを負担するのは消費者です。しかしながら、消費者から消費の都度、すなわち物やサービスを購入した都度税金を徴収するというのは現実的には難しいため、別の仕組みが採用されています。
それは、消費者に物やサービスを販売する事業者が、販売にあわせて消費税をいったん預かり、消費者の代わりに税務署に納めるという仕組みです。
つまり、100円の商品を販売する時、消費者は消費税込みの108円を事業者に対して支払います。そこで、事業者は受け取った108円のうち100円は売上に計上しますが、残りの8円は消費者から預かった消費税なのでそのまま税務署に納めます。
もう少し厳密に言えば、この100円の商品は過去に別の事業者から仕入れたものです。その際に、例えば50円の仕入れ価格であったとすれば消費税を含めて54円を支払っているはずです。
つまり、この事業者が納めるべき消費税額は、消費者から預かった8円と仕入先の事業者に預けた4円の差額である4円となるのです。
さて、そこでこの消費税と法人化との関係ですが、そこには「納税義務の免除」という概念が出てきます。「納税義務の免除」とは、基準期間の課税売上高が1000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除されることを指します。つまり、納税義務が免除されるということは、先の例で言えば、4円を税務署に納めることなく事業者の利益にすることができることになります。
全く同じ取引をしていても、納税義務があるか無いかで、数%も利益率が変わってきますから、かなりの効果があると言えます。ここでいう基準期間とは、計算期間の2年度前のことを指します。2年前を参照するということは、売上がゼロから徐々に伸びている状況を想定すると、1000万円を突破した年度の2年後から課税対象事業者となるということになります。
そこで、この1000万円を突破した年度の2年後に法人化をすることで、一度リセットすることができるのです。法人は法人で、2年度前の課税売上高を参照します。ですから、法人化してから2年間は、課税売上がゼロということになります。個人事業主の時代を基準期間として通算することはありません。
このように、課税売上が1000万円を突破して、消費税の課税事業者となってから2年後、というタイミングも、法人化の一つの基準として考えることができます。
3 法人化をスムーズに進めるためには
法人化するメリットやタイミングについて考えてきましたが、いざ法人化することを決意した後は、具体的な手続きについて知っておく必要があります。既存の事業を継続したまま、できる限りスムーズに移行したいので、手続きについてもあらかじめ全体像を把握して、滞りなく進めていくことが重要です。
3-1 具体的な手続きの流れとは?
個人事業を法人化する場合には、単に会社設立をするだけではなく、それまで行ってきた事業を円滑に移行していく必要があります。そのため、必要となる手続きも、最初から法人を設立する場合と比べてやや複雑となりますが、こうした手続きを丁寧に行わなければ、ビジネスチャンスを逃したり、社会的な信用を失ってしまったりします。
手続きの内容としては、法的に求められている必須のものと、必須ではないがやっておいた方がよいものがあります。これらを区別する必要はあまりないので、時系列に沿って、全体像をとらえておくのが良いでしょう。
全体的な流れとしては、法人の設立、資産や負債の引継ぎ、各種名義の変更、廃業手続き、となります。順を追って、一つずつ確認していきます。
3-2 法人設立の手続きとは?
まずは、事業を移管していく受け皿となる法人を、新たに設立することから始めます。法人の形態には、合同会社、合資会社などいろいろなものがありますが(詳細は後述)、ここでは最も一般的な株式会社形態を前提として説明します。
株式会社を設立する際には、会社設立までの責任者である「発起人」を指名することが必要となります。もちろん、経営者本人で大丈夫です。会社が設立されるまでは、「社長(取締役)」は存在していませんので、「発起人」が責任主体として諸手続きを行っていくことになります。
発起人は、事業計画を定め、定款を作成します。定款については、既に少し触れましたが、会社にとって最も基本的となる事項を定めて書面化したものです。その意味で、会社の憲法とも呼ばれています。
定款に定めなければならない具体的な記載事項は、目的、商号(社名)、本店の所在地、会社の設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所、発行可能株式総数です。これらは絶対的記載事項と呼ばれ、必ず定めなければなりません。事業年度や株式の譲渡制限に関することなどを記載することもできますが、これは絶対ではありません。
このように定めた定款を、公証役場で公証人の認証を得ます。認証を得るには、発起人の実印、印鑑証明が必要です。認証を得ることで、法的に有効となり、謄本を発行することができるようになります。
定款の認証後は、資本金の払い込みを行います。この時点では、会社の口座は作ることができませんので、発起人の個人口座に振り込むこととなります。資本金の払い込みが実態として存在することを証明しなければなりませんので、単に口座に残高がある、というだけでなく、実際に入金された記録が必要です。
資本金の払い込みが済んだら、いよいよ登記の手続きです。登記手続きは、管轄の法務局に対して行いますが、オンライン、郵送、持込など様々な方法があります。手続き方法によって費用も異なりますので、よく確認しておきましょう。
登記の際に必要な書類は、設立登記申請書に加えて、定款、取締役の就任承諾書、取締役の印鑑証明書、資本金の払い込み証明書など多くのものを準備する必要があります。
登記手続きを司法書士などに代行してもらうことも可能ですが、それはそれでコストがかかります。一方で、インターネット上で必要事項を入力するだけで書類を簡単に作成できるサービスなどもあります。手間とコストを比較して最も適した方法を選択してください。
登記が完了すれば会社設立手続きは終わりです。申請から登記完了まで日数を要する場合もありますが、その場合も、申請をした日が会社設立日となります。
3-3 資産・負債の移行の手続きとは?
設立登記が完了すると、次は、その時点で個人事業主として保有している資産や、負っている負債を会社に移行する手続きです。ここで資産と負債は分けて考えます。資産の移行方法としては大きく3つの手段が考えられます。
まず一つ目は、売買契約による方法です。つまり、個人と法人間でそれぞれの資産を一つずつ売買するということです。個人として保有している資産を法人が現金を支出して買い取ります。経営者が資本金として払い込んだ現金が、個人に戻ってくるという流れになるでしょう。
2つ目は、現物出資とする方法です。現金以外の資産は、現物出資として会社に移管することができます。この場合は、経営者は現物出資の対価として、新たに株式を取得することになります。会社側は、資本金が増加します。
3つ目は、所有権は移さずに賃貸する方法です。資産の所有権は個人として持ったまま、法人に貸し付け、賃貸料を得るという流れになります。
一方負債については、簡単には移行できない場合が多いです。それは、借入金や仕入債務については、債権者との契約が個人名義で行われているからです。そうなると債権者側が同意しなければ、債務を譲渡できないことがほとんどですから、もし会社に移行しようとすれば、債権者との調整が必要となります。
その手間も相当なものです。そこまでして負債を法人に移行するメリットはほとんどありません。負債は移行せずに、資産を売却あるいは賃貸したことによって得られる収入で、個人として返済していくほうが無難であると言えるでしょう。
3-4 各種届出や名義等の変更手続きとは?
次に、法人として今後事業を行っていくにあたって、税務署や役所に届け出が必要となります。法律上はそれまでの個人事業主とは別人格です。新たに事業を開始する法人としての手続きが必要になるのです。
まず税務署に対しては、法人設立届出書や青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書などを、設立後2カ月以内に提出する必要があります。また、都道府県や市町村に対しても、法人住民税や固定資産税の課税のため、同様に法人設立届の提出が必要です。
さらに、社会保険関係の手続きとして、年金事務所に健康保険や厚生年金の新規適用届や被保険者資格取得届が必要となります。こちらは設立後5日以内という迅速な対応が求められていますので注意が必要です。
また、従業員を雇用する場合は、労働基準監督署に保険関係成立届、公共職業安定所(ハローワーク)に適用事業所設置届を10日以内に提出してください。
役所関係の手続きが完了した後は、取引関係の名義変更も忘れずに行っておく必要があります。例えば、それまで事務所や店舗、駐車場などを自己所有ではなく賃貸借していた場合は、契約を個人名義から法人名義へと変更しておく必要があります。
また、自己所有していた車両などを個人から法人に移行した場合は、陸運局への登録がありますから、こちらも名義変更が必要です。また、損害保険に加入している場合はこちらの名義変更も忘れずに行っておきましょう。
あとは、電話、電気、ガス、水道などについても法人名義で契約しなおしておいた方が良いでしょう。
最後に、仕入先や取引先への挨拶を忘れてはなりません。それまで関係を構築してきたビジネスパートナーに対しては、今後も継続して関係性を維持していくために、礼を尽くす必要があるでしょう。相手方も、取引先としてシステム等に名義を登録していることもあるでしょうし、振込先口座が変更になることもあります。今後は名義が変わるということをお知らせしておくことが必要です。
直接出向いてご挨拶するのが理想ですが、挨拶状などに代えても構いません。相手先の重要度に応じて臨機応変に対処すれば良いでしょう。
3-5 個人事業の廃業手続きとは?
これまで事業を行ってきた個人事業の廃業手続きを行う必要があります。もうこの時点では、既に個人事業としては何も残っていませんから、事業主としての登録を抹消するのみです。
まずは税務署に廃業等届出書を1カ月以内に提出します。そして、都道府県・市町村にも事業廃止等申告書を提出します。また、青色申告を行っていた場合は、税務署に青色申告の取りやめ届出書を提出するのを忘れないようにしてください。また、従業員を雇用していた場合には給与支払事務所等の廃止届出書も必要となります。
以上のように、法人化の手続きは、短期間に非常に多くのことをこなす必要があります。また、費用も相当かかってきます。それだけの手間とコストをかけてでも、メリットが出るタイミングというのを、事前によく検討しておくことが最も重要であると言えます。「法人化」は目的ではなく、節税や将来の事業の成長のための手段です。法人化することだけにとらわれて焦ってしまい、失敗することのないように、利益や課税売上などの事業環境や、手続き面での準備状況などを冷静に、客観的に把握して、ベストなタイミングで法人成りをするのが良いでしょう。
4 設立する会社の種類
法人を設立する際、一般的には「株式会社」か「合同会社」のいずれかの形態を選びます。株式会社と合同会社では、特徴やメリット・デメリットに違いがあります。両者の違いを踏まえた上で、ご自身に合った法人の形態を選ぶことが大切です。
4-1 株式会社
株式会社とは、発行した(する)株式により、投資家から調達した資金を用いて事業の運営を行う法人です。株式を公開しているか(譲渡制限を設定しているかどうか)により株式会社は、「株式譲渡制限会社」と「公開会社」に大別することができ、会社を新しく設立する際には、基本的に前者の形態を選びます。
一定以上の売り上げを得ている個人事業主は、法人成り(新しく株式会社を設立)することで、税金面の支出を抑えることができます。また、個人事業主の時と比較して、第三者からの信用力を高める効果も期待できます。
しかし一方で、会計に関する事務手続きが煩雑になることや、社会保険への加入による費用増加など、株式会社の設立にはデメリットも存在します。
とはいえスケールアップを図る上で株式会社設立はメリットが大きいため、一定以上の事業規模に達すると株式会社を選ぶケースが多いです。
4-2 合同会社
合同会社とは、主に以下2つの特徴を満たす法人を指します。
- 経営者と出資者が一致
- 出資者の全員が有限責任を負う
株式会社では、事業を運営する経営者と会社を保有する株主(出資者)が法律上分離しています。そのため、持ち株比率次第では、経営者が満足に経営権を行使できないケースも出てきます。一方で合同会社では、経営者と出資者が一致するため、株主から無理難題などを押し付けられるリスクを考えずに、事業運営に集中することができます。
上記の違いはあるものの、出資者全員が有限責任を負う点は株式会社と同様です。出資者(経営者)の責任が有限であるため、会社が倒産した際などに、債務返済の義務を負う必要は原則ありません。
2006年の会社法改正によって導入された「合同会社」の制度は、小規模に事業を始めたい方にとって非常に向いています。なぜなら決算の公表義務がない上に、利益の配分を出資者間で自由に決められることにより、事業運営を円滑に行えるからです。また株式会社を設立する場合と比較して、会社設立に要する費用が大幅に安い点も魅力の一つです。株式会社と合同会社の設立費用については、後ほど詳しく解説します。
柔軟に事業運営できる点や会社設立の費用が安い点などメリットの多い合同会社ですが、無視できないデメリットも存在します。
まず一つ目のデメリットは、会社としての信用力が低く見られがちであるという点です。合同会社自体が新しい制度であるため、認知度の低さや決算公表義務が無いことから、取引などで不利となる可能性がないわけではありません。
二つ目のデメリットは、株式による資金調達ができない点です。一定以上の規模拡大を目指す場合には、やはり資金調達が必要になります。株式による資金調達ができないため、資金調達の面では株式会社と比べてどうしても不利になってしまうでしょう。
5 株式会社の設立に要する費用
では会社設立の費用について解説していきます。まず初めに、「株式会社の設立」に要する費用からご紹介します。
5-1 法律で必要と定められている費用(法定費用)
最初にお伝えした通り、会社を設立するためには法律で指定された手続きを実施する必要があります。株式会社の設立では、「定款認証」と「設立登記」の二種類の手続きに大別されます。
⑴定款認証
定款認証とは、会社の根本的な規則である「定款」を公証人と呼ばれる法律の専門家に認証してもらう手続きです。
定款認証の手続きでは、下記の費用が発生します。
- 収入印紙代→4万円(電子定款を用いる場合は不要)
- 公証人の手数料(認証手数料)→5万円
- 定款の謄本手数料→2,000円
⑵設立登記
設立登記とは、法人格を成立させるために必須となる手続きであり、定款認証が完了した時点で実施します。
設立登記を実行するためには、「登録免許税」という税金を支払う必要があります。株式会社の設立登記では、「資本金の額×7/1000」により算出された金額を登録免許税として支払います。ただし、上記の計算結果が15万円に満たない場合には、登録免許税は15万円になります。
以上をまとめると、株式会社設立の法定費用として、最低でも20〜25万円程度のコストが発生します。
5-2 それ以外に必要となる費用
法律上は先ほど述べた費用を支払うことで、株式会社を設立できます。しかし現実的には、別途で様々な費用が発生します。
⑴資本金
法律上は資本金1円からでも株式会社を設立できるものの、設立後を考えると一定程度の資本金を持っていた方が良いでしょう。
業種や経営方針などにもよりますが、100万円以上の資本金を持っておけば、信用力や運転資金確保の面で安心できるでしょう。
⑵印鑑証明書の取得費用
設立登記などの手続きに際しては、会社設立を行う方の印鑑証明書を使うため、あらかじめ準備しておく必要があります。
個人の場合、印鑑証明書の取得には約300円程度(1通)の費用がかかります。また、会社の設立登記が完了した後には、会社の印鑑証明書が必要となる場面が出てきます。こちらは一通450円ですので、あらかじめ取得しておくと良いでしょう。
⑶登記簿謄本の取得費用
会社設立後に行う各種手続きでは、会社の印鑑証明書と併せて、登記簿謄本というものが必要となります。
登記簿謄本については、一通600円で取得することができます。
⑷印鑑作成費用
会社を経営するにあたっては、様々な場面で印鑑を使う場面が出てきます。円滑に事業を営むためにも、会社の印鑑はあらかじめ準備しておくのがオススメです。
使われている材料などによってまちまちですが、実印や銀行印、角印の三点合わせて5,000円~1万円程度で買えるでしょう。
6 合同会社の設立に要する費用
次に、合同会社の設立に必要な費用について見ていきます。
6-1 法律で必要と定められている費用(法定費用)
合同会社の設立でも、法律で定められた手続きに費用がかかります。具体的には、以下の手続きで費用が必要になります。
⑴定款の作成
合同会社でも株式会社と同様に、定款の作成が義務づけられています。ただし合同会社の設立では定款の認証が不要となるため、定款認証に要する公証人の手数料がかかりません。
なお電子定款を作成する場合は、収入印紙代が課されません。この点については、後ほど詳しく解説します。
⑵設立登記
合同会社の設立登記でも、登録免許税という税金を支払う必要があります。しかしこの税金も、株式会社の設立と比べて大幅に安いです。株式会社の場合は最低でも15万円かかる一方で、合同会社の設立では6万円(下限)しか登録免許税が発生しません。
以上をまとめると、合同会社の設立に際しては、およそ10万円程度の法定費用が発生します。株式会社を設立する場合と比較して、10万円から15万円程度費用を抑えることができます。
なるべく安いコストで会社を設立したい方は、合同会社の設立を検討してみてはいかがでしょうか。ただし先ほどお伝えした通り、合同会社には信用性などの面でデメリットが生じやすいです。そうしたデメリットを考慮した上で、会社の形態を選ぶのがいいでしょう。
6-2 それ以外に必要となる費用
合同会社を設立する場合も、現実的には法定費用以外にもコストがかかってきます。事業を円滑に進めるためにも、必要な費用は出し惜しみしない方が良いです。
必要となる費用は株式会社とほぼ変わりませんが、念のためもう一度確認しましょう。
⑴資本金
株式会社と同様に、合同会社でも事業を運営するための資本金が必要です。法律上は資本金1円からでも会社を設立できますが、現実的には1円で会社設立を行う方はあまりいません。
やはり事業の運営には、人件費や広告費など、様々なコストが必要になります。事業を拡大させるためにも、ある程度(100万円以上)の資本金を持っておいた方が安心です。
とはいえ株式会社とは異なり、合同会社を設立する方の大半は、小規模に事業を運営したいとお考えだと思います。小規模に事業運営するのであれば、そこまで資本金を準備しなくても事業を回せるかと思うので、状況に応じてご自身でご判断ください。
⑵印鑑証明書の取得費用
こちらも合同会社の設立で必要となると予想される費用の一つです。会社を立ち上げる個人と会社それぞれについて、印鑑証明書を取得しておくのがベストです。
個人の印鑑証明書については約300円(1通)、会社の印鑑証明書については450円が必要です。大した金額ではありませんが、二度手間とならないためにも準備した上で印鑑証明書を取得しに行きましょう。
⑶登記簿謄本の取得費用
合同会社を設立する場合も、株式会社の設立時と同様に、一通600円の登記簿謄本を準備する必要があります。
⑷印鑑作成費用
取引などの場面で必要になる印鑑も、あらかじめ作成しておくと良いでしょう。会社運営で必要となる三種類の印鑑(実印・銀行印・角印)は、安くて5千円から1万円程度で取得できます。
以上が合同会社設立時に発生する、法定費用以外の費用になります。法定費用と合算すると、合同会社の設立には総額で約7万円〜12万円必要となります。
7 行政書士や代行会社に依頼する場合の手数料
お伝えしてきた通り、会社を設立するためには定款作成(認証)や設立登記など、未経験の方にとっては手間のかかる手続きを経なくてはいけません。そうした手続きにかかる負担を軽減するために、行政書士や代行会社に、会社設立を依頼する方もいます。
行政書士などに会社設立を依頼することで、プロの力を借りて簡単に会社を設立できます。しかし一方で、自力で会社設立を実施する場合と比べて、費用の総額が増えてしまうケースが大半です。
行政書士や代行会社に依頼する場合、上記でご紹介した費用に加えて約10万円前後の手数料が発生します。
つまり行政書士や代行会社に依頼した場合、会社設立の際に総額で30〜40万円程度(合同会社の場合は15〜25万円程度)の費用がかかります。
自力で行う場合と比べて費用がかかってしまうのはデメリットに思えるかもしれませんが、会社設立の手続きに精通しているプロに任せることで、自分自身は他の本業に集中することができます。本来会社設立の手続きに費やす労力や時間を他のことに費やせるのを踏まえると、行政書士や代行会社に依頼した方が良いかもしれません。
一方で代行会社や行政書士の方の中には、「自力で設立するよりも安い費用で手続きできる」と言って、会社設立の手続きを承っているところもあります。
安くても丁寧な仕事を行う方もいるので一概には言えませんが、報酬金額が格安であるがゆえに、手続きが雑になってしまうケースもあります。また、結局は様々なオプション料が加算されて、最終的には多額の費用が発生するケースも見受けられます。
不自然なほど安い価格で業務を行う会社を見かけた際は、落とし穴がないかを慎重に確認した上で依頼した方が良いでしょう。
8 会社設立費用を節約するポイント
まだ利益も出ていない段階で数十万円もの費用がかかることを考えると、なるべく会社設立の費用は節約したいと思うでしょう。この項では、会社設立の費用を節約するポイントを分かりやすくご紹介します。
会社設立費用を節約する方法としては、主に以下2つがあります。
8-1 電子定款を利用する
最もオススメで確実な方法は、会社設立で必須となる定款作成の際に、紙ではなく「電子定款」を利用することです。
最初の方で軽くふれましたが定款作成の際、一般的な「紙の定款」ではなく「電子定款」を作成する方法を選ぶこともできます。電子定款とは、パソコンにてPDF形式で作成した定款です。
電子定款を利用することで、紙の定款を作成する場合に必要となる「収入印紙代(4万円)」が不要になります。電子定款を作成する際には、マイナンバーカードやICカードリーダライタなどをあらかじめ準備しておく必要があります。
電子定款を作る際は、まず紙と同じ要領で定款を作成し、その文章を後から電子化する流れとなります。そして作成した電子定款は、ファイル形式にて公証役場に提出します。
一見すると魅力的な電子定款ですが、電子定款を作成する機器の取得に費用がかかる点には注意が必要です。場合によっては、通常通り定款を作成するのとほぼ同じ費用がかかる可能性もあるので、電子定款を作成する際は費用の総額をあらかじめ見積もっておきましょう。
8-2 自分で会社設立の手続きを全て行う
当たり前のことかもしれませんが、自分自身で会社設立の手続きを全て行えば、行政書士や代行会社に依頼する場合と比較して、費用を安く済ませることができます。
行政書士や代行会社に依頼すると、数万円〜10万円もの費用が追加で発生します。このくらいの金額があれば、ちょっとした仕入れやWebの広告費であればまかなうことができます。専門家に依頼すれば時間や労力を節約できるメリットはありますが、自力で手続きを行えばその分の費用を他のところに回すことができる訳です。
会社設立したばかりの段階では、もしかしたら特に仕事もなく、時間に余裕があるかもしれません。時間に余裕があるのであれば、自分自身で会社設立の手続きを行った方が良いでしょう。自分で手続きを行えば費用を節約できる上に、二社目以降をスムーズに設立できるようにもなります。
要するに時間や労力を節約したいのであれば行政書士や代行会社に依頼、費用を節約したいのであれば自分自身で会社設立の手続きを実施するのがベストです。どちらを優先するかは経営者自身の考えによりますので、自身に合った方法を選びましょう。
9 まとめ
今回はフリーランス・個人事業主として事業を行いながら法人化を検討している経営者に向けて、知っておくべき知識についてまとめました。法人化する際は法人化のメリット・デメリットを踏まえたうえで、ケース別に損益分岐点を検討し、具体的な手続きを進めるようにしましょう。
また、会社を設立する際に費用はいくらかかるのか気にある方は多いと思いますが、「資本金は1円から会社を設立できるから、実質的に1円で起業できる」と勘違いされる方も少なくありません。確かに資本金自体は1円からで問題ありませんが、会社設立に際しては、法律上定められた手続きに費用がかかります。また法定手続き以外にも、会社設立の際に必要となる費用が存在します。加えて、会社設立の手続きを行政書士などが運営する代行会社に依頼する際には、別途で手数料が必要になります。
株式会社の設立には総額で20〜30万円、合同会社の設立には総額で10〜20万円の費用がかかります。また、会社設立の手続きを行政書士や代行会社に依頼する場合は、上記の金額にプラスで10万円程度の費用が発生します。ただし費用が発生する代わりに、会社設立に要する時間や労力を他のことに費やせるメリットを得られます。会社設立にかかる費用を節約するためには、「電子定款の利用」と「自力で会社設立の手続きを行う」方法があります。電子定款を利用すれば収入印紙代が不要になります。一方自力で会社設立の手続きを行えば、行政書士や代行会社の利用で発生する手数料が不要になります。
必要な知識を押さえて、事前にしっかりと検討し、ベストなタイミングで法人化することで、節税や事業の成長のためのステップとしてください。