米経済誌フォーブスによる「ビジネスに最適な国ランキング」の最新版が4月、発表され、最もビジネスに最適な国はスウェーデンとなりました。ついで2位ニュージーランド、3位香港で、日本は37位となりました。
ランキングは、株式市場、税金、イノベーションなど11項目を元に世界139カ国を順位付けしたのもので、投資対象としてどの国が最も魅力的かを示す基準となります。
上位10カ国には、1位スウェーデン、6位デンマーク、8位フィンランド、9位ノルウェーがランクインするなど、北欧勢の強さが浮き彫りとなりました。
一方、経済二大国のアメリカは23位、中国は102位に落ち着きました。また37位となった日本についてフォーブスは、グローバル競争と人口構造の変化の2重の圧力により苦しんでいると指摘しました。
本記事ではフォーブス発表による2017年版「ビジネスに最適な国リスト(Best Countries for Business)」を元に、各国の順位を詳細に見ていきます。
1 ビジネスに最も適した国
フォーブスは、ランキングの作成にあたって世界銀行グループ、世界経済フォーラムで公表された報告書をもとに、世界139カ国を格付けしました。
1-1 上位10カ国中、北欧から4カ国ランクイン
ビジネスに最も適した国と評価されたのはスウェーデンとなりました。ついで2位ニュージーランド、3位香港、4位アイルランド、5位イギリス、6位デンマーク、7位オランダ、8位フィンランド、9位ノルウェー、10位カナダと続きました。
・ ビジネスに最も適した国ランキング 上位10カ国
順位 | 国・地域 | 経済成長率 | 1人あたりGDP |
---|---|---|---|
1 | スウェーデン | 4.2% | 50300ドル |
2 | ニュージーランド | 3.0% | 37800ドル |
3 | 香港 | 2.4% | 42400ドル |
4 | アイルランド | 26.3% | 51300ドル |
5 | イギリス | 2.2% | 43700ドル |
6 | デンマーク | 1.0% | 52000ドル |
7 | オランダ | 2.0% | 44400ドル |
8 | フィンランド | 0.2% | 41900ドル |
9 | ノルウェー | 1.6% | 74700ドル |
10 | カナダ | 1.1% | 43200ドル |
(参照:Forbes「Best Countries for Business」より作成)
上位10カ国中、北欧からスウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーの4カ国が入り、「個人の自由」「財産権の自由」「腐敗」などの項目で高い順位を付けました。
1-2 高生活水準を実現させているスウェーデン
スウェーデンは11項目でそれぞれ次のような順位を獲得しています。
自由貿易(Trade Freedom) | 7位 |
---|---|
金銭的自由(Monetary Freedom) | 4位 |
財産権(Property Rights) | 7位 |
イノベーション(Innovation) | 6位 |
テクノロジー(Technology) | 4位 |
赤字(Red Tape) | 14位 |
投資家保護(Investor Protection) | 19位 |
汚職(Corruption) | 3位 |
個人的自由(Personal Freedom) | 1位 |
税負担(Tax Burden) | 27位 |
株式市場(Market Performance) | 35位 |
フォーブスは1位となったスウェーデンについて「資本主義と充実した福利厚生の組み合わせにより、各国が羨む生活水準を達成している」と評価しました。2013年は対欧州貿易で景気の低迷が続いた結果、経済成長は減速したものの2014〜2015年は緩やかに上昇。現在はデフレに苦しむも、1人あたりGDPは5万300ドル(約556万円)と高く、成長率4.2%と高い数字を維持しています。
2 アジアで最もビジネスに適する国は?
ランキングをアジアの国・地域に限定してみると、全体でも3位に入る香港がトップとなりました。
ついでシンガポール(全体12位)、台湾(全体18位)、韓国(全体28位)、日本(全体37位)、マレーシア(全体44位)、タイ(全体67位)、インドネシア(全体73位)、フィリピン(全体89位)、ベトナム(全体98位)、中国(全体102位)と続きます。
・ ビジネスに最も適した国ランキング アジア上位
順位 | 国・地域 | 経済成長率 | 1人あたりGDP |
---|---|---|---|
3 | 香港 | 2.4% | 42400ドル |
12 | シンガポール | 2.0% | 52900ドル |
18 | 台湾 | 0.6% | 22300ドル |
28 | 韓国 | 2.6% | 27200ドル |
37 | 日本 | 0.5% | 32500ドル |
44 | マレーシア | 5.0% | 9800ドル |
67 | タイ | 2.8% | 5800ドル |
73 | インドネシア | 4.8% | 3300ドル |
89 | フィリピン | 5.9% | 2900ドル |
98 | ベトナム | 6.7% | 2100ドル |
102 | 中国 | 6.9% | 7900ドル |
(参照:Forbes「Best Countries for Business」より作成)
2-1 日本は37位、アジアの中でも中位に停滞
世界3位の経済大国である日本は、ビジネスに適した国として全体13位、アジア内5位に停滞しています。11項目ではそれぞれ次のようになりました。
自由貿易(Trade Freedom) | 60位 |
---|---|
金銭的自由(Monetary Freedom) | 46位 |
財産権(Property Rights) | 8位 |
イノベーション(Innovation) | 8位 |
テクノロジー(Technology) | 19位 |
赤字(Red Tape) | 72位 |
投資家保護(Investor Protection) | 52位 |
汚職(Corruption) | 18位 |
個人的自由(Personal Freedom) | 1位 |
税負担(Tax Burden) | 61位 |
株式市場(Market Performance) | 70位 |
フォーブスは日本について、「過去70年にわたり、政府と産業界の協力、強い労働倫理、ハイテク技術の熟達、そして比較的小さい防衛費(GDPの約1%)などが、日本の経済発展を支えてきた」と分析。
さらに「バブル経済がはじけた1980年代後半以降、経済成長率は1.7%にとどまり、企業の過剰債務、過剰労働力を削減するのに時間がかかった。2000年以降、穏やかな経済成長が続きましたが、2008年以来4回の景気後退に陥っている」としました。
現在については「2014年4月に消費税率を8%に引き上げることで歳入をあげることに成功した。また、日本銀行の積極的な金融緩和政策によりデフレを終結させつつある。しかし、少子化や高齢化、人口の減少といったネガティブな人口構造の変化は、日本経済にとって長期的な課題となっている」と述べました。
2-2 中国はビジネスをするのに不向き?
また、近年大国としての存在感を増しつつある中国は、全体では102位で、アジア内でも最下位層に沈んでいます。11項目では次のような順位につけています。
自由貿易(Trade Freedom) | 95位 |
---|---|
金銭的自由(Monetary Freedom) | 115位 |
財産権(Property Rights) | 55位 |
イノベーション(Innovation) | 30位 |
テクノロジー(Technology) | 74位 |
赤字(Red Tape) | 102位 |
投資家保護(Investor Protection) | 102位 |
汚職(Corruption) | 79位 |
個人的自由(Personal Freedom) | 128位 |
税負担(Tax Burden) | 100位 |
株式市場(Market Performance) | 81位 |
(参照:Forbes「Best Countries for Business」より作成)
フォーブは中国について「中国の経済体制は、1970年代後半、閉鎖的な中央計画的制度から市場主義的な制度に移行。財政分権化、国有企業の自主性の向上、民間部門の成長、株式市場の発展、現代の銀行制度の導入、対外貿易への開放などにより、2010には中国は世界最大の輸出大国となった。現在のGDPは1978年と比べて10倍以上に増加。購買力平価(PPPベース)では、2014年、中国はアメリカを抜いて初めて世界一となった」としました。
※ 購買力平価とは、理論的に全く貿易障壁のない世界を想定した場合、そこでは国が異なっても、同じ製品の価格は一つであるという「一物一価の法則」が成り立ち、この法則が成り立つときの二国間の為替相場を購買力平価と言う。購買力平価のうち、現時点で異なる国の間で同じ製品を同じ価格で購入できる水準として算出されるものを「絶対的購買力平価」と言い、また、過去の内外不均衡が十分小さかった一時点を起点として、その後の当該国間のインフレ格差から時系列的に物価を均衡させる為替相場を算出するものを「相対的購買力平価」と言う。(参照:公益財団法人「国際通貨研究所」)
3 アメリカは順位を1つ落として23位に
トランプ大統領就任以降、ロシアゲート疑惑や移民制限問題で揺れているアメリカは、昨年から順位を1つ落として23位につけました。2006年時には1位だったものの、以降10年間は「貿易」「金銭的自由」指標の落ち込みと、赤字や官僚主義の高まりに伴い、世界最大だった経済は衰退しています。
フォーブスは、「トランプ大統領が輸入製品に対して関税を課そうとしている計画は、アメリカのランキング改善には繋がらない」と指摘しました。
11項目ではそれぞれ次のようになりました。
自由貿易(Trade Freedom) | 37位 |
---|---|
金銭的自由(Monetary Freedom) | 76位 |
財産権(Property Rights) | 15位 |
イノベーション(Innovation) | 4位 |
テクノロジー(Technology) | 14位 |
赤字(Red Tape) | 45位 |
投資家保護(Investor Protection) | 41位 |
汚職(Corruption) | 16位 |
個人的自由(Personal Freedom) | 1位 |
税負担(Tax Burden) | 34位 |
株式市場(Market Performance) | 32位 |
(参照:Forbes「Best Countries for Business」より作成)
フォーブスは、アメリカついて「企業は、コンピュータ、医薬品、医療、航空宇宙、軍事機器を中心に常に技術進歩の最前線にあり、世界で最も技術的に強力な経済力を持っており、一人当たりGDPは54,800ドル(約602万円)に達する」と評価。
一方で、アメリカは長期的な問題として低所得世帯の賃金の停滞、インフラの悪化、高齢者の医療費負担や社会保障年金の急増、エネルギー不足、経常収支および予算の大幅な赤字などを抱えます。
しかし、最近は失業率が5.5%(2015年)に低下、インフレ率は1.7%にとどまり、債務も低下し続けるなど国内経済の改善は進んでいます。
人口減少や高齢化がビジネスをするにはネガティブな要素と評価された日本。この長期的な課題を抱えたまま、果たして日本はビジネスに適した国になれるのでしょうか。