中国が独自にリニアモーターカーの開発に着手したと報じられたのが昨年末ごろ。国家プロジェクトとして2020年を目標に時速600キロのリニア車両を製造する予定であることが明らかとなりました。
一方、お隣の韓国では時速1300キロにおよぶ超高速輸送システム「ハイパーループ」を4年後に導入すると一部韓国メディアが報じたことが話題となっています。
ハイパーループはもともと、自動運転自動車のテスラ社CEOイーロン・マスク氏が2012年に提唱した技術であり、チューブ内の気圧を0.1気圧以下に下げ、空気抵抗を最小限にすることで超高速での移動を可能にしたものとされています。実現すれば韓国高速鉄道で2時間以上かかるソウル-釜山間をわずか20分で走行できるようになります。
まさに夢のような未来型超高速鉄道システム。韓国政府はわずか4年で導入を済ませるとしていますが、果たして本当にできるのでしょうか。
1 夢の超高速輸送システム「ハイパーループ」とは
韓国が今、国を挙げて取り組んでいるのが「ハイパーループ」と呼ばれる超高速の輸送技術の導入です。ハイパーループでは約300km離れたプサン-ソウル間を20分で移動することができると言われています。
韓国メディアによると、韓国政府は4年後の導入を目指し、米企業HTT(Hyperloop Transportation Technologies)と提携し、開発に乗り出しました。
1-1 真空管の中を走る列車“チューブトレイン”とも
(出展:Hyperloop development)
ハイパーループ技術を提唱したのは、電気自動車のテスラおよび宇宙ロケット開発会社スペースXの創業者であるイーロン・マスクCEOだと言われます。
ハイパーループはチューブベースの未来型都市間交通システムであり、チューブトレイン※の一種ともされます。カプセル型の列車を磁気により浮上させ、チューブ内を真空状態にすることで、列車をほぼ空気抵抗無しで飛行機に匹敵する速度で移動することができる技術となります。
一部韓国メディアによれば、ハイパーループを主導する米HTT社のダーク・アルボンCEOは、釜山で開かれた第1回世界スマート鉄道会議で、この技術に着手した当時について「最初は全員から『不可能だ』と言われた。今はそのようなことを言われることもなくなり、『いつ実現可能なのか』と尋ねられるようになった」と述べました。
1-2 実現すれば交通輸送革命が起こる
ハイパーループでは、真空に近いチューブ内を時速1280キロで走行でき、韓国高速鉄道(KTX)なら2時間以上かかる距離を20分以内に短縮できると言われます。東京-ソウル間なら40分、北京-ソウル間なら30分ほどになります。
アジアと欧州をハイパーループで繋げば貨物を数時間で輸送することが可能で、維持管理コストの削減につながり、長時間移動による経済的ロスも抑える効果も期待されています。
・ 交通手段の最高速度比較
ハイワーループ | 時速1280キロメートル |
---|---|
飛行機 | 時速800キロメートル |
新幹線 | 時速300キロメートル |
クルマ | 時速120 |
(出展:Time)
1-3 飛行機よりも10倍安全
時速1300キロ近い超高速移動をすることで、懸念されるのが安全面です。しかし、アルボンCEOは「(ハイパーループは)飛行機よりも10倍安全で、故障率も10分の1だ」と話します。
「もともと1870年代にニューヨークとサンフランシスコを地下鉄で繋げようとする試みがあった。そして1960年代になって運輸省長官が、(ハイパーループの元となる)チューブ型の交通システムでアメリカ人の生活を変えようとした。以降、イーロン・マスクが出てきた」(参照:NEWSIS)
※ チューブトレインとは、真空あるいは真空状態のチューブの中を走るリニアモーターカーで、空気による抵抗がないため、運動エネルギーの損失が少なく、高速を維持することができる。マッハ3(時速3000キロメートル)に相当する速度を想定する夢の輸送手段で、実現すれば航空機を超える輸送能力を持つとされる。一般的な車輪式列車も真空トンネルの中を時速700キロメートルのスピードで走行することは可能だが、磁気浮上式列車が必要とされているのはわけは、どうしても車輪式列車の粘着力(摩擦力)の限界にマッハ単位(マッハ1=1224km)まで加速するのに耐えられないからとされる。
2 世界で建設が進むハイパーループ
HTT社は韓国ほか、カリフォルニア、スロバキア、UAE、チェコ、フランス、インドネシアとハイワーループ建設の契約を締結したと発表しています。
2-1 自信をのぞかせる韓国の技術者
アメリカ国内ではすでにテスト路線を建設しており、2018年に旅客輸送の開通を予定しています。またUEAでは政府より支援を受けて実現可能性調査を完了し、フランスでは研究開発(R&D)センターを建設、インドネシアでは規制の妥当性を調査中であるとしました。
(2016年にカリフォルニアに建設されたハイパーループのレール。2018年の旅客輸送を予定 / 出展:WIRED)
韓国メディアによれば、HTTは韓国建設技術研究院(KICT)や韓国鉄道技術研究院(KRRI)とハイパーループに関する共同研究や技術・人材交流協力のための業務提携を締結しました。
蔚山科学技術大学校のイ・ジェソン教授は「ハイパーループは、米国が先に開始したのかもしれない。しかし韓国は先行して研究していたので、技術力でもっと優位に立てる」と述べます。
また韓国鉄道技術研究院のキム・ドンヒョン責任研究員は「すでに世界初の真空トンネルでの時速700kmレベルの高速列車の実験に成功しており、時速1200kmを超える音速走行は問題なく達成することができる」と自信をのぞかせました。
(出展:UNIST News Center)
2-2 問題は、技術よりも乗客の健康面?
人とモノを超高速で輸送するシステムは、メリットばかりではないようです。
ハイパーループでは、列車の特性上窓がないため乗客が気分が悪くなったり乗車中に閉所恐怖症を訴えることが予想されます。また、緊急停車をしたとしても列車から降りることができないので、駅まで行かなければなりません。
さらに、ほぼ真空状態のチューブ内を走行するため、万が一、列車が破損事故などを起こせば乗客全員が窒息する恐れもあり、大事故につながる可能性も指摘されています。
このほか、ハイパーループの列車は、スペースの問題上、一部を除いてトイレや移動通路などが省略されている場合が多いといったことも問題点としてあげられています。
韓国国土交通部のチェヨンヒョン氏は「韓国の交通システムに大きな変化をもたらす事業になる。関係省庁と協議して、積極的に支援していく」との方針を示しています。韓国政府は今後10年以内に最高時速1200kmに及ぶ超高速列車の商用化が可能となると予測します。
いままさに韓国から交通輸送革命が起きようとしています。
(出展:Inverse)