7年目に突入しているシリア内戦。今年4月には禁止された化学兵器を使用したことを理由にアメリカが空爆を実行するなど、一向に終息する気配が見えません。このほか、過激派組織IS(イスラム国)がフィリンピン南部のミンダナオ島の一部を占拠するなど、ISの脅威は今まさにアジアにも迫っています。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は6月、紛争や迫害によって家を追われた人の数が昨年末時点で過去最多となる6530万人に上ったと発表しました。
このうち、難民の数は過去最多の2250万人で、約4分の1がシリアから発生していることが分かりました。
また、難民の受け入れ数で最も多いのがトルコの290万で、3年連続となりました。第三国(他国)が受け入れる第三国定住では、アメリカが最も多く、9万6900人を受け入れています。
本記事では、UNHCRの難民に関する年間統計報告書2016をもとに、昨年末までの世界の難民の状況を詳しく見ていきます。
1 過去最多を更新する世界の「家を追われた人」
UNHCRの報告書によると、2016年末までで家を追われた人の数は、前年比30万人増となる6560万人だったことが分かりました。紛争や迫害による強制移動は、世界における莫大な人的損失および経済損失につながります。6560万人とは、平均して、地球上の113人に1人が避難を余儀なくされていることになります。
(参照:UNHCR)
1-1 難民も過去最多の2250万人
6560万人の内訳では、難民2250万人、国内避難民4080万人、庇護申請者280万人となります。
このうち難民とは、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人」(難民の地位に関する条約)と定義されます。現在シリアが最大の難民発生国(550万人)となっています。
また、国内避難民とは、国内での避難を余儀なくされている人のことで、「世界で家を追われた人」の3分の2以上を占める4080万人いるとされます。国境を越えていないことから、国際条約で難民として保護される対象とは。シリア、イラク、コロンビアなどが国内避難民の主要な発生国となります。
庇護申請者とは、自身の故郷から逃れて、他の国の避難所にたどり着き、その国で庇護申請をおこなう人のことで、昨年末時点での庇護申請者数は280万人となっています。
・ 「家を追われた人」6560万人の内訳
難民 | 紛争に巻き込まれたり、宗教や人種、政治的意見といった様々な理由で迫害を受けるなど、生命の安全を脅かされ、他国に逃れなければならなかった人のこと | 2250万人 |
---|---|---|
国内避難民 | 国内で避難先を探さなければならない人のこと | 4080万人 |
庇護申請者 | 母国から逃れ、難民として国際的な保護を求めている人のこと | 280万人 |
1-2 第三国定住は18万9300人
第三国定住とは、母国を逃れて難民となった人が、一次避難国では保護を受けられないため、第三国(他国)に受け入れてもらう制度のことです。避難先の国から第三国に移動することで長期的な定住が可能となります。
UNHCRによれば、昨年度は約37ヵ国が合計18万9300人の難民を受け入れました。このうち、約50万人は母国へ帰還することができました。
また、第三国定住ではアメリカの受け入れ数が最も多く、9万6900人となりました。
日本における第三国定住による受け入れは2010年から開始され、3年間で90名の受け入れを目標としました。日本の第三国定住難民に対しては、第一次庇護国を出国する前に、約3週間の日本における基本的な生活習慣に関するガイダンス及び日本語教育を実施しています。政府広報によれば2016年度までに31家族123人のミャンマー難民が来日しました。
(参照:難民支援協会)
※ UHHCR(United Nations High Commissioner for Refugees)とは、国際連合難民高等弁務官事務所のことで、国連の機関の一つで1951年から世界の難民保護および支援を行なっている。1981年にはノーベル平和賞を受賞。これまでに5000万人以上の生活再建を支援してきた。
2 難民受け入れ数、トルコが世界一
国別に難民の受け入れ状況を見ると、トルコが290万人で最も多くなりました。次いで、パキスタン140万人、レバノン100万人、イラン98万人、ウガンダ94万人、エチオピア79万人、ヨルダン68万人、ドイツ67万人、コンゴ45万人、ケニヤ45万人と続きます。
・国別難民受け入れ人数ランキング トップ10
順位 | 国・地域 | 人数 |
---|---|---|
1 | トルコ | 2,869,421 |
2 | パキスタン | 1,352,560 |
3 | レバノン | 1,012,969 |
4 | イラン | 979,435 |
5 | ウガンダ | 940,835 |
6 | エチオピア | 791,631 |
7 | ヨルダン | 685,197 |
8 | ドイツ | 669,482 |
9 | コンゴ | 451,956 |
10 | ケニヤ | 451,099 |
(UHNCR「GLOBAL TREND S2016」より作成)
2-1 難民数が減少するレバノンと増加したウガンダ
3位レバノンの難民人口数は、2014年約120万、2015年110万人と比較してわずかに減少したものの、今なお100万人を超えています。その大半はシリアからで、約100万人にのぼります。
5位ウガンダでは、2016年後半以降、難民数が劇的に増加しました。前年47万7200人だった難民数は、わずか1年間で94万800人とほぼ倍増。そのほとんどは南スーダンからで、難民総人口の約7割にあたる63万9000におよびます。このほか、コンゴ20万5400人、ブルンジ4万1000人、ソマリア3万700人、ルワンダ1万5200など
の国も多数の難民を生みました。
(ウガンダで難民申請をするため列を作っている様子 / 出展:Africans Press)
2-2 欧州最大の難民受け入れ国のドイツ
6位エチオピアの難民数も、2016年は増加し、79万人を超えました。難民の多くは南スーダンからで、前年比約5万人増となる33万8800人となりました。ソマリアからの難民は24万2000人と前年からわずかに減少したものの、2016年末時点で、エリトリア(16万5600人)とスーダン(3万9900人)からの難民が数多く残っています。
7位ヨルダンでは、難民数が前年から約2万人増加して68万人を突破しました。難民の多くはシリアからで64万8800人、次いでイラク3万3100人、スーダン2200人と続きます。
欧州の国として唯一トップ10入りをしている8位ドイツは、近年、難民数が大幅に増加しています。2015年末に31万6100人でしたが、わずか1年間で66万9500人に膨らみました。その大半はシリア難民で37万5100人と半数以上におよびます。ついで、イラク8万6000人、アフガニスタン4万6300人、エリトリア3万人、イラン2万2900人、トルコ1万9100となります。
(ドイツで難民申請をするため列を作っている様子 / 出展:basnews)
3 強制移動は「人的損失につながる」
UNHCRは、世界における紛争や迫害による強制移動は、莫大な人的損失につながるとします。6560万人におよぶ難民数は、113人に1人が避難を余儀なくされている状況で、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は、次のように述べています。
「これはとても許しがたい事態であり、人道危機の予防と解決へ向けた連帯と共通の目標がこれまで以上に必要であることを示しています。解決策を模索すると同時に、世界の難民、国内避難民、庇護申請者に適切な保護と支援を提供することが必要です。私たちは支援の手を差し伸べなければいけません。紛争が続く今日に必要なのは、恐怖ではなく、決断と勇気です」(参照:U
HNCR)
このほかUNHCRは、2016年末現在で、国籍がない人または無国籍のリスクがある人は最低でも1000万人いると予測し、実際の数はさらに多いものになるかもしれないと予測しています。