合同会社の設立にあたって、金銭の代わりに自動車やパソコンなどの資産を資本金として出資する現物出資ができることは知られています。しかし、現物出資のメリットやデメリット、あるいは現物出資を利用した合同会社設立の方法については、良く知られていないのではないでしょうか。メリットを知って、そのメリットを最大限に活かすことで効果的な現物出資ができます。そこで、メリットを生かした現物出資ができる方法についてわかりやすく説明します。
目次
現物出資 2つのメリット
現物出資を行うことで2つの大きなメリットを得ることができます。
1.出資した現物資産の減価償却(経費計上)による節税
現物出資した資産が自動車やパソコンなどの場合、定められた法定耐用年数の期間、毎年の決算ごとに減価償却できるので、税金の節税対策ができるメリットが生じます。ただし、耐用年数が残っている資産を現物出資しなければ減価償却できないので、このメリットはえられません。
2.資本金の額の増大による会社の信用度のアップ
新しく設立されたばかりの会社の信用度は、資本金の額の大きさによって、大きく左右されます。現物出資することで、資本金の金額を大きくすることができます。例えば、300万円の出資金に加えて、評価額100万円の自動車を2台、および株式などの有価証券を100万円、合計300万円を現物出資すると、倍増の600万円の資本金にすることができます。300万円の資本金と600万円の資本金では信用度が大きく変わります。
現物出資の2つのデメリット
現物出資は、良い面だけではありません。デメリットがあることも理解しておかないと、かえってマイナス面のほうが大きくなる可能性があります。
1.手続きが煩雑で時間と費用発生の可能性
定款に記載するために現物出資資産を評価する手間や、現物出資の資産の種類や価格によっては、公平な第三者機関による公正な評価を受ける必要があり、費用と時間がかかってしまいます。また、現物出資した資産が、出資者個人から会社へと所有権が移転し、名義変更や所有権の移転登記が必要になり、やはり費用と時間がかかります。
2.課税される可能性
現物出資した場合、出資者と出資された会社の両方に課税される可能性があります。現物出資者は、その現物出資した資産を会社に売却したことになり、資産によっては所得税課税される可能性があります。
出資された会社は、現物出資された資産が不動産であれば、不動産取得税が課税されます。また、固定資産税、自動車税など現物出資者に課税されていた税金が、会社に発生します。
上手な現物出資の方法
現物出資にメリットがあるからと言って、やみくもに現物出資するとデメリットがあるので良くありません。現物出資する資産によっては、その価値(金額)を客観的に評価するために、裁判所によって選任された検査役による調査が必要になり、費用と評価のために日数がかかるなどのデメリットが生じます。
ただし、以下の条件に適合すれば、この手続きが不要になります。
- 現物出資する動産の総額が500万円以下の場合。
この場合は、設立時の取締役らが、その時点での市場価格で評価し、現物出資の価額が妥当という調査報告書を作成することで現物出資ができます。 - 現物出資された有価証券に市場価格があり、定款に記載された価額(定款認証日の前日の最終価格、または前月の平均価格のいずれか低い方)がその相場を超えない場合、現物出資ができます。
- 定款に記載された現物出資の価額が妥当と弁護士、税理士、不動産の場合は、さらに不動産鑑定士の鑑定評価を受けた場合、現物出資ができます。ただし、この場合は、裁判所の費用は回避できますが、資産を評価した専門家への費用が発生するので注意が必要です。これ以外にも、自動車や有価証券など名義変更手続きが必要となり費用が発生するケースもあります。
現物出資資産の評価方法
総額500万円以内で動産を現物出資する場合、資産の評価額をできるだけ高くすることで資本金を大きくすることができます。そのため、できるだけ高い評価額にしたいと思いますが、評価額は、市場価格を参考にすることになっています。
現物出資できる資産は、貸借対照表に記載される資産であれば、原則できますが、その評価額は決して貸借対照表の価格とは一致しません。特に自動車の市場価格は1年乗るだけで大幅に下落しますが、貸借対照表上は一定の計算で算出された減価償却費分だけが下落しているのみなので市場価格とはかけ離れています。
現物出資資産の評価額の原則は、市場で実際に販売される価格となります。
自動車であれば、中古車販売店の価格などを参考にして決められます。
現物出資可能な資産とは
現物出資ができる資産は、原則として譲渡可能で貸借対照表上に資産として計上できる金銭以外の動産、不動産資産などです。有形固定資産のほか、特許権、営業権などの無形固定資産、会社への貸付金も含まれます。Webサイトも現物出資可能です。
なお、ローン支払い中の自動車などの資産は、現物出資できません。登記申請時点では、総額が500万以内に収まっていれば、問題なく登記できますが、会社設立後に、ローンが残っている資産は、現物出資者の所有ではないので、会社への名義変更ができず現物出資できないことになります。
なお、会社設立時に現物出資できる者は発起人のみです。
現物出資のみで会社設立
現金が少なく、現物出資可能な資産がある場合、現物出資のみでも会社は設立できるのか気になるかもしれません。現物出資のみで、会社設立登記申請は問題なくできます。しかし、現実的には現金がないと事業を行うことはできないので、実質的には会社として活動できないことになります。現物出資した資産が、すぐに現金化できる場合は、現物出資のみでの会社設立も実質的に意味があります。
500万円以下の動産を現物出資した会社設立の流れ
発生する費用も少なく現物出資がしやすい500万円以下の動産を現物出資した場合の会社設立の流れは以下の通りです。
1.出資する現物の時価を業務執行社員が調査
2.定款に出資する現物、価格、出資する者などを記載
定款に記載する項目は次の通りです。
<記載内容>
(1) 現物出資者の住所・氏名など
(2) 現物出資する財産の名称と数など
- 製造会社名
- 年式
- 製品名・製品型名
- 製造番号
記載参考例は以下の通りです。
(現物出資)
第 ○○ 条 当会社の設立に際して現物出資をする者の氏名、および出資の目的である財産、その価格は次のとおりである。
(1)出資者 発起人 〇〇 〇〇
住所 東京都○○区〇〇
(2)出資財産およびその価額
パーソナルコンピューター 株式会社〇〇社製 平成〇〇年式
Windows8 製品名 製造番号〇〇 1台
金10万円
車両 株式会社〇〇社製 平成〇〇年式 カラー 〇〇
車両番号 〇〇 〇 〇〇-〇○) 1台
金100万円
3.財産引継書を作成する
現物出資をおこなう発起人は、設立時の発行株式を引受後、速やかに現物出資の対象となる資産を会社に納入しなければなりません。対象の資産が引渡されたときは、財産引継書を作成しなければなりません。複数の現物出資者がいる場合は、出資者ごとに財産引継書を作成します。
4.調査報告書を作成する
現物出資の資産が納入されると、会社設立時の業務執行社員は、内容を確認し調査報告書を作成します。