合同会社を設立し、その業務の遂行責任などを対外的に明確し、取引先との信頼感の醸成や、経営の意思決定、および出資者(社員)の経営参画の意思を尊重するなどを行って、より合理的な会社経営を行うために、出資者(社員)が複数人の場合、その中から、業務執行社員や代表社員を選ぶことは非常に好ましい組織運営が可能になります。そこで、業務執行社員や代表社員の意義、役割、責任などを詳細に解説します。
目次
- 業務執行社員、代表社員とは
- 合同会社の社員と個人事業主の兼任は可能か
- 合同会社の社員に外国人、外国法人は可能か
- 業務執行社員と代表社員の登記
- 合同会社の経営に関する意思決定
- 業務執行社員、代表社員の任期
- 業務執行社員、代表社員の競業禁止・利益相反取引の制限
業務執行社員、代表社員とは
合同会社の業務執行社員、代表社員の「社員」とは、一般的に使われる会社の「従業員・会社員」のことではなく出資者のことです。株式会社で言えば、その性格は大きく異なりますが株主に相当します。
合同会社を、1人で設立することもありますが、社員が1人の場合は、自動的に社員兼業務執行社員兼代表社員になります。
1.業務執行社員とは
業務執行社員とは、合同会社において経営を行う出資者のことです。合同会社では、原則として、社員は全て業務執行の権限と会社を代表する権限を有しています。
しかし、これでは出資したいけど経営は行いたくない社員がいる場合や、会社の経営は経営能力のある他の社員に全面的に行ってもらいたいという場合に不合理となります。そこで、合同会社では、定款で、業務執行の権限のある社員とそうでない社員を分けることができるようになっています。業務執行権のある社員が業務執行社員です。業務執行社員を定款で選ぶと、業務執行社員以外にも社員がいる場合、その社員は自動的に出資だけを行って業務執行は行うことができなくなります。なお、業務執行社員は1人だけでなく、複数人を選ぶことができます。
2.業務執行社員ではない社員の権限
すぐ上の「1.業務執行社員とは」で、「業務執行社員を定款で選ぶと、業務執行社員以外にも社員がいる場合、その社員は自動的に出資だけを行って業務執行は行うことができなくなります」と説明しましたが、業務執行社員以外の社員には、まったく何も権限がなくなるのではなく、会社の業務遂行状態や会社財産に問題が生じていないかを調査し、監視する権限は有しています。この調査・監視する権限を定款で制限することもできますが、事業年度の終了時や重要な事由については定款によっても制限できません。
3.合同会社の社員に法人がなった場合の職務執行者
株式会社と違って、合同会社は、法人も社員になることができます。そして、その法人を業務執行社員にすることもできます。しかし、法人は、現実的には業務執行をすることができないので、その法人から職務を執行する職務執行社員として個人を選び、業務執行の権限を持たせることができます。その場合、その個人の氏名・住所を他の社員に通知しなければならないことになっています。
法人は、職務執行者を選任したら、「職務執行者を選任したことを証明する書面」と選任された職務執行者の「就任承諾書」を別々に作成するか、または「職務執行者を選任したことを証明する書面」に職務執行者が就任を承諾する旨と記名押印したものを作成しなければなりません。そして、職務執行者の籍は、合同会社ではなく、その法人の会社のままで業務執行を行うことが一般的です。
このとき、職務執行者を複数人選任することが必要になることもある可能性があります。この場合、一度に選任しても、必要に応じて追加選任することも可能です。追加で選任した場合は、変更登記が必要になります。業務の状況を予測してあらかじめ複数人を選任しておく無駄な変更登記をしなくて済むことになります。
4.代表社員とは
合同会社では、原則として、社員は全て業務執行の権限と会社を代表する権限を有していることを、「1.業務執行社員とは」の項目で示し、社員全てが業務執行の権限を持っていると不合理性が生じることを説明しました。しかし、社員全員が代表権をもっていることも、また大きな問題を取引先などに与えます。
例えば、代表権のある社員が複数いると、取引先にとって、個々の社員の発言内容が同じでない場合、一体、誰が会社の最終責任者であり、どの発言が会社としての決定発言なのか分からなくなります。また、個々の社員がそれぞれ勝手な意思表示で契約などの重要事項を行うことになるとトラブルも生じる可能性があり、信用できなくなります。
そこで、この問題を解決するために、合同会社も株式会社と同じように「会社を代表する人物」を1人、または必要であれば複数人を決めることができます。株式会社では「代表取締役」ですが、それに相当するのが、合同会社では「代表社員」です。複数人を代表社員にできますが、一般的には代表社員は1人を選びます。
業務執行社員を既に決めていて、業務執行社員が1人の場合は、その業務執行社員が合同会社を代表する代表社員に自動的になります。業務執行社員を2人以上選んでいた場合は、業務執行社員の中から会社を代表する代表社員を選びます。
複数人いる社員の中から業務執行社員を選び、代表社員を業務執行社員以外の社員から得選ぶことはできません。業務執行社員がいる場合は、必ず業務執行社員の中から、代表社員を選ばねばなりません。業務執行社員を選んでいないときに、社員の中から、代表社員を選ぶことは可能です。この時、代表社員以外の社員は業務執行社員となります。
5.業務執行社員、代表社員を株式会社の職位との比較
社員という名称が、一般の従業員、労働者の社員と紛らわしいので、混乱するかも知れません。繰り返し説明しますと、合同会社の「代表社員」とは、株式会社の代表取締役に概ね相当します。また、合同会社の「業務執行役員」は株式会社の取締役に概ね相当します。
なお、合同会社では「取締役」という呼称を使用すると第三者に誤解を与えるので「代表取締役」と呼ぶことは通常は行いません。
合同会社の社員と個人事業主の兼任は可能か
個人事業主として生計を立てている人が、引き続き個人事業を行いながら、兼業で合同会社の社員となることも考えられますが、合同会社に兼任を禁止する規程が見当たらないので可能となります。
合同会社の社員に外国人、外国法人は可能か
合同会社の社員に外国人、外国法人はなることができます。ただし、代表社員になる場合は、登記事項になるので、登記のための印鑑証明書が必要となります。
なお、外国人が合同会社を設立する場合は、在留資格による制限で資格外活動の許可など別の手続きが必要になる可能性があります。日本に住所がない外国人は、合同会社は設立できません。
業務執行社員と代表社員の登記
株式会社では、代表取締役は、氏名および住所が登記され、取締役や監査役などの役員は氏名が登記されます。合同会社でも、株式会社と同様に代表社員の氏名および住所が登記され、業務執行社員の氏名が登記されます。代表者を決めない場合は、業務執行社員の全員の氏名および住所が登記されます。業務を執行しない社員は登記されません。
合同会社の経営に関する意思決定
業務執行社員、代表社員を決めた場合の合同会社の意思決定はどのように行われるのでしょうか? 業務執行社員を、定款で選んでいた場合は、業務執行社員が複数であれば、その過半数で決めることになっています。また、過半数では支障があると思われる場合は、定款で、例えば多数決など別の方法で意思決定を行うことを決めることも可能です。重要事項に関しては、逆にもっと厳しい条件で全体の3分2以上の賛成が必要などと決めることもできます。
業務執行社員、代表社員の任期
株式の譲渡を定款で制限した株式譲渡制限株式会社の役員の任期が、最長でも10年なのに対し、合同会社の業務執行社員、代表社員には、原則任期の定めはありません。辞めない限り、その任期は続くことになります。ただし、定款で任期を定めることができます。
業務執行社員、代表社員の競業禁止・利益相反取引の制限
1つまたは複数の会社の役員が、合同会社の業務執行社員または代表社員になる場合、原則として、競業禁止や利益相反取引の制限を受けます。例えば、自己または第三者の利益のための行為などを行うことは禁止されています。ただし、定款で競業の禁止、利益相反取引の制限の適用を受けないとすることができます。