「破産」と聞くと、全ての財産を失い、その後の人生再建も難しく感じるような言葉です。そのため、自己破産をしてブラックリストに入った場合、会社設立もできないのではと心配する方もいますが、自己破産はその制度や仕組みを理解した上で行うことで、以後の人生において有用な手段となります。
そこで、今回の記事では、自己破産の意味とブラックリスト入り後に会社を設立する方法について詳しく解説します。自己破産の意味を知りたい方、そしてブラックリスト入り後の会社設立を含めた選択肢を検討している方は、参考にしてみてください。
1 自己破産とは
自己破産とは、債務者の破綻した経済状況を本人が裁判所に申し立てることによって、破産管財人が債務者の財産を管理して換価し、債権者に公平に分配して、その経済的な破綻状況から離脱することをいいます。
すなわち、自己破産を選択することで、自身の所有している換価可能な財産を借金返済にあてることになり、借金の取り立てが無くなるほか、自己破産後の収入を自身のものにできるようになります。
そして、自己破産を選択したとしても全ての財産が没収される訳ではありません。自身にも、自己破産後の生活を営むためのある一定の財産を残すことが認められています。つまり、自己破産してもその後の人生再建の礎は残されます。
しかし、もちろん自己破産にはデメリットもあります。そのデメリットの一つは、ブラックリストに入ってしまうということです。一度ブラックリスト入りしてしまうと、ブラックリストから取り払われるまでに5年〜10年程度を要します。
また自己破産をすると、当面の生活上の財産を残すことができるものの、一方、価値のある財産は無くなります。そして財産面以外にも仕事も制限されることになります。例えば、税理士や弁護士等の士業や警備員等の仕事はできません。借金に関しても完全に清算される訳ではなく、連帯保証人への請求は続きます。
他にも、郵便物や住居が制限される等の留意点もあります。また、自己破産をするためには借金の返済能力がないことをまず裁判所から認められる必要があります。借金返済能力有りと認められた場合は自己破産できませんし、またギャンブル等の浪費のように自己破産をそもそも認められない借金もあります。
以上のように、自己破産とはブラックリストに入るということであり、原則として財産がなくなるということを意味します。それではこのような自己破産した状態で、会社設立は可能なのでしょうか?
2 自己破産していても会社設立は可能?
結論から先に述べると、自己破産をしていても会社設立は可能です。ただし自己破産をすることは、会社の経営上大きなハンデを背負うことにもなります。そのハンデとは他でもない、ブラックリスト入りしていることから生じる財政面への悪影響です。
ブラックリストに入ると、借金の返済能力がないという烙印を押されるため、新たに融資(借金)を組んだりクレジットカードを作ったりすることが非常に難しくなります。
しかし、ブラックリスト入りした情報(状況)は、会社設立には関係ありません。会社設立とは法務局にて会社設立登記を行い、税務署や自治体等に設立届を提出することを意味しますが、その過程でブラックリスト入りしていることがネガティブに働くことはありません。
また、会社設立は資本金1円から可能です。資本金以外にも登録免許税等の設立費用は発生しますが、合同会社であれば株式会社よりも格安となる約10万円(株式会社の場合は約24万円)で設立できます。
自己破産後に得た収入は自分のものとすることができますので、設立後の運転資金は一先ず置いておくとして、会社を設立することに限定すれば設立資金を貯めることは現実的な手段です。
ただし、設立後には直ぐに運転資金の調達という課題に直面する可能性があります。会社は設立者とは異なる法人という別人格ですが、ブラックリスト入りしている経営者が会社の融資を組むことのは大変険しい道のりです。
設立したばかりの会社の心強い融資相談先である、「日本政策金融公庫」による融資でもその点は変わりません。融資の際には申込人の信用情報調査が必ず行われるため、経営者がブラックリスト入りしている状況では融資を組むことは非常に難しいと言わざるを得ません。
しかし、それでも世の中には自己破産後に会社を設立し、さらには成功を収めている経営者もいます。そこで次に、自己破産した場合の起業方法や資金調達方法を見ていきましょう。
3 ブラックリスト入りした場合の起業方法
前章で見たように自己破産した場合、会社設立はできるものの融資を組めないという大きなハンデを持つことになります。また、自己破産して起業した場合にはもう一つの大きなハンデを背負うことになります。
それは、ブラックリスト入りした状態では、そもそも法人口座を解説することが難しいということです。特に、3大メガバンクと呼ばれる三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行での法人口座開設は不可能と捉えるのが良いでしょう。
しかし、全ての金融機関の法人口座開設が不可能な訳ではありません。地方の銀行や信用金庫は地域に根ざした経営を行っており、各種相談にも応じる体制を取っています。何行も掛け合うことで法人口座開設に至る可能性も高まります。
また、最近、注目度を増しているネット銀行で法人口座開設を試みるという方法もあります。ネット銀行は、基本的に店舗を持たないことを特徴としており、各種相談や審査も基本的にネット上で完結します。
さらに、振込手数料等が格安であること、サブ口座を持てること、自動定期払い機能の存在、外貨預金可能、実店舗に行く必要がなくいつでもネット上で振込や入金確認ができる等のメリットもあるため、時間と経費の節約に繋がります。
一方、ネット銀行ではメンテナンス等によりログインできない、実店舗を持たないため担当者と面と向かって相談できない(チャットツールや電話相談等は可能)、融資を行っていない等のデメリットもあります。
以上のようにブラックリスト入りしていても法人口座開設の可能性はあります。しかし、法人口座を開設できたとしても、やはり融資となると事情は異なります。
ネット銀行ではそもそも融資を組めませんが、本来融資を行っている銀行にて法人口座を開設することができたとしても、ブラックリスト入りしている以上は新規融資を組める可能性はほぼ無いのが実情です。
会社運営の肝は資金繰りなので、ブラックリスト入りした経営者による会社の資金調達面について詳しく見ていきましょう。
4 ブラックリスト入りした経営者による会社の資金繰り
自己破産は、財産を整理・換価し、その後の人生を立て直すことを意味します。その人生の立て直しを借金によって行うことは心許なく、そもそもブラックリストに入っていては借金をすることも非現実的です。
そのため、ブラックリスト入りした経営者の資金は、何よりも自分の稼ぎを原資とすることが確実かつ安全な方法です。会社設立にあたっても、まずは自身の稼ぎを積み立てることで資金とし、会社設立費用と当初の運転資金が貯まったところで会社を設立するのが堅実な方法です。
また、やや回り道となりますが、ブラックリストから外れるまで時機を待つ方法もあります。ブラックリスト入りは早ければ5年程度で解消されるため、その後は融資の審査も通りやすくなります。
ブラックリストに名前が残っているかどうか、すなわち信用情報機関に登録されている自身の信用情報に自己破産した旨が記載されているかどうかは「開示請求」で確認可能です。
助成金や補助金を活用するという方法もあります。助成金や補助金は融資とは異なり、原則として返還の必要がない、公的資金による民間への援助金です。通常、助成金は厚生労働省の管轄、補助金は経済産業省の管轄となり、自治体でも双方の名称を用いて独自の援助を行っている場合があります。
助成金や補助金には、例えば設備投資や雇用の促進といったテーマ(要件)が設けられており、そのテーマを達成する(または達成のための計画を立てる)ことで受給することができます。
助成金や補助金は、設備の導入等の会社設立時の環境整備の段階では非常に助けとなる制度であり、経済の活性化と会社への支援を兼ね合わせた政策ということになります。
ただし、その助成金や補助金を受給するためには、設備投資や雇用促進等資金の注入が必要となることを大前提としていることや、ほとんどのケースにおいて助成金や補助金ではその設備投資の全額を賄うことはできないといったことに注意をする必要があります。
そして助成金や補助金を申請する上では、ブラックリスト入りしているかどうか審査の対象とはなりません。申請時に必要となるのは事業計画等の各種書類であり、またその事業計画に基づいた現状報告を毎年行う必要があります。
計画未達や不備があった場合には、一度受給したお金を返還しなければいけない可能性が生じることも頭に留めておいた方が良いでしょう。
その他にも、インターネットが普及した近年では「クラウドファンディング」という資金調達方法があります。クラウドファンディングとは、自社の商品やサービスの開発・販促を、インターネット上で広く呼びかけることで進める資金調達方法です。
クラウドファンディングはクラウドファンディング専用サイトを活用するか、または自社のホームページ上にて行うことも可能です。商品やサービスの特徴やメリットをアピールして、資金の目標金額と一人あたりの支援金額を設定して資金調達を行います。
目標金額に達成した場合は資金調達成功となり、集まった資金を得ることができます。専用サイトを使用した場合、手数料等を差し引いた金額が指定の口座へ振り込まれます。クラウドファンディングを行った側は支援した金額に応じた見返り(商品やサービス)を支援者へ提供します。
目標金額に達成しない場合は資金調達に失敗(支援金はゼロ)となるか、またはその時点で集まった金額から手数料を差し引いた分が振り込まれます。
クラウドファンディングはブラックリスト入りしていることは関係なく、融資のように利息を上乗せした定期的な返済や、助成金や補助金のような受給後の報告も必要なく、会社の設立年数や規模に関わらず実施することができます。
ただし、デメリットもあります。クラウドファンディングはもはや社会に普及しているため、似たようなサービス・商品に溢れており、余程うまくアピールするか新機軸の商品・サービスを用意するかしない限りは埋もれてしまってなかなか資金が集まりにくいのが現状です。
目標金額に達成しない場合は一切の資金を、または想定した資金を得られずに事業計画に支障をきたすこととなります。また、調達失敗ということで会社の看板に傷が付くリスクもあります。
もしクラウドファンディングを専用のサイトを経由して行う場合は、専用サイトごとに得意分野がありますので、自社の商品・サービスに強いサイトはどこかリサーチした上で成功の可能性を高めるのが良いでしょう。
それ以外にも親族や友人・知人に資金援助を求めるという方法も選択肢の一つです。親族や知人からの借り入れは本人同士で利息や返済期限を設定できますが、自己破産していることを知られた場合にはなかなか資金を捻出してくれる人を探すのは難しいでしょう。
5 まとめ
ここではブラックリスト入りした場合の起業方法について見てきました。自己破産にはネガティブなイメージがあるもしれませんが、それを必要とする人にとっては受け入れることで人生を再建する有用な手段となります。正しい情報や知識を身につけた上で人生の再建に臨むことが大切です。