自社の決算内容が良くないと感じているケースでは、「業績が伸び悩む」「低迷している」など原因はいくつも考えられます。ただビジネスモデルが限界にきている場合には、現在の中核事業に置き換わる新規事業を考案し推進するなど、抜本的な対策が求められます。会社が成長し続けるためには新規事業を新たな中核事業に発展させ、その事業の拡大により自社を再び成長軌道に乗せなければなりません。
今回は好決算の確保だけでなく成長の持続・拡大に貢献する新規事業を取り上げます。新規事業の推進の意義とともに、新規事業の戦略、成功・失敗要因、推進方法、具体例や注意点などを解説していきます。
1 新規事業推進のメリットとは
新規事業を推進することで企業にどんなメリットが生じるかを説明します。
1-1 決算内容の改善が期待できる
会社が新規事業を適切に推進できれば、売上高経常利益率などが向上し決算内容の改善が期待できるでしょう。
2017年度の中小企業白書 第2部 第3章の「新規事業促進」で掲載されている第2-3-2図では「新規事業展開の取組別にみた、経常利益率の傾向」が示されています。
この図は中小企業が取った「新市場開拓戦略」「新製品開発戦略」「多角化戦略」「事業転換戦略」の4つの新規事業戦略が経常利益率にどう影響を与えたかを示しているのです。
各戦略ともに新規事業を「実施している」企業のほうが、「実施していない」企業よりも売上高経常利益率が増加しています。また、経常利益率の減少についても実施している企業のほうが、実施していない企業よりも少ないです。
表の結果から判断すると、新規事業は会社の経常利益率を維持・向上するのに貢献し好決算の実現に役立つといえるでしょう。
1-2 既存の中核事業の衰退の準備ができる
1つの事業に集中している会社の場合、その事業が衰退期に入ってしまえば将来的に大幅な改善が見込みにくいですが、新規事業を推進し既存事業に置き換えれば会社は成長を持続できます。
下表の2017年度版中小企業白書の第2-3-7「新事業展開の成否別に見た、新事業展開を検討する背景」では、中小企業等が新規事業を推進する場合の背景や動機が確認できます。その背景の内容として最も多いのが「新しい柱となる事業の創出」です。
また、4番目には「既存市場の縮小・既存事業の業績不振」も挙げられています。つまり、会社は既存事業の衰退・業績不振に備えていくためには、新規事業がその備えとしての役割を果たすものと期待しています。
高度経済成長時期などでは1つの事業サイクルは10年といった単位の長さのものも少なくなかったですが、現代ではITを含めた科学技術の発展とともに事業サイクルは短くなっています。
そのため1つの事業に依存した企業運営では企業の成長の維持・拡大は難しくなっており、経営を持続させるには既存事業に置き換わる新規事業が必要なのです。
1-3 リスクを分散し業績・決算内容を安定化できる
1つの中核事業に依存した企業運営では、経営環境が悪化した場合その時期の業績は低迷することになりますが、新規事業を推進していれば中核事業の業績の悪化をカバーできることもあります。
中小企業などでは1つの中核事業だけを営んでいるケースが多いです。そうした会社では、その事業に係る市況の悪化、ライバル企業の攻勢、強力な新規参入者の出現や代替製品・技術等の登場などにより業績が大きく低迷することも少なくありません。
このような会社にとっての脅威が一時的であっても恒久的なものであっても業績への影響は大きく業績は悪化することになります。しかし、中核事業に置き換わるような新規事業を推進していれば、中核事業が低迷した場合でもその悪化分をカバーし企業全体の業績を安定させてくれることもあるのです。
金融商品や不動産などへの投資でも分散投資という手法は重要視されていますが、企業運営においても事業の分散化は重要でありその分散化の具体的な手法が新規事業の推進となります。
1-4 シナジーを追求し余剰資源も活用できる
既存事業以外に新たな事業を展開することで、既存の経営資源を活用できるとともに遊休資産などの余剰資源の有効利用も期待できるようになるのです。
新規事業を展開する上で既存の人、モノや情報などの経営資源、具体的には営業や技術のスタッフ、機器や生産設備、設計・製品・生産などに関する技術などを他の事業に活用できるケースも少なくありません。
たとえば、清酒メーカーがお酒の醸造技術を医薬品や化粧品事業に活用するといった例です。また、コンビニエンスストアが集客力の高い店舗・サービスを銀行業で活用するといった例もシナジーの例に当てはまるでしょう。
余剰資源の活用は、未利用の設備、土地や建物等を新規事業で利用することを意味し、今まで業績に貢献していなかった資産を戦力化し企業の成長に利用することです。先の第2-3-7図では下位の項目として表示されていますが、経営者としては経営上無視できない重要なポイントといえます。
1-5 顧客等からの要請やニーズに対応できる
顧客や取引先等から既存事業と異なる内容の事業の提供や進出を求められる場合、その要請に応えられれば彼らとの取引や関係が深まり自社の成長・発展に役立ちます。
既存の顧客や取引先から「○○の製品が製作できないか?」「□□のサービスが提供できないか?」といった現在の事業では対応していない業務内容の要望を受けるケースは珍しいものではありません。
既存の事業とは異なるため対応できないと断っても現在の取引に影響することはほとんどないですが、将来の事業に影響する可能性はゼロともいえないのです。
たとえば、取引先の製品仕様が大幅に変更され今まで採用されていた自社製品に代わり他のタイプの製品がスペックインされるケースもあります。つまり、自社が他のタイプの製品を供給しないとこの取引先との関係が切れる恐れが出てくるわけです。
また、「△△というサービスが便利ですが、貴社では対応できないですか」といった顧客の要望がある場合、現状では提供していなくても新規事業として対応すればそのニーズを取り込み、会社の成長に繋げられます。
その顧客等の新たなニーズを取り込んだ新規事業を推進することで、既存の顧客等との関係を強化するとともに、水平展開していけばさらなる成長の起爆剤にすることができるのです。
1-6 社内活性化が期待できる
新規事業の推進が社員のモチベーションを高め硬直した組織風土の活性化に役立つこともあるでしょう。
下表は2013年度版中小企業白書の第2部 第2章 第2節にある第2-2-8図ですが、ここには「新規事業展開を実施したことによる効果」の内容がまとめられています。
効果の最も高い項目では、「企業のPR・知名度の向上」「企業の信用力の向上」「企業の将来性・成長性」「従業員の意欲向上や能力向上」「技術力や製品開発力の向上」「企業の利益の増加」などとなっています。
このように新規事業の推進は企業の技術力等を高め、企業の業績に貢献するとともに信用力や知名度の向上に役立ち、社員のモチベーションアップも期待できるのです。
1つの事業に特化してその強みを拡大していくことは重要ですが、業務そのものが毎日同じことの繰り返しではマンネリ化を招き生産性の向上も難しくなっていきます。
特に従来からの業務のやり方にこだわり改善を拒むような組織風土が形成されている場合は新しいことへ挑戦する意欲が社内から失われるケースも少なくありません。
そうした硬直した組織風土を変革するには新しい事業へ挑戦するという新規事業の推進が契機になることがあるのです。
もちろん単に新規事業に取り組むだけではモチベーションアップの実現は容易ではないでしょう。しかし、会社が新規事業の意義を全社員に吹き込み推進のバックアップ体制を整え、成果への処遇(表彰や報酬等)を充実させる、などの方針を示せば社員の意欲を向上させることは十分に可能です。
2 新規事業の種類
新規事業にはどんなタイプがあり、どのような戦略立案の方法があるのかをここで確認しておきましょう。
2-1 アンゾフの製品=市場マトリックス(成長ベクトル)
新規事業の方向性を模索する際にアンゾフの製品=市場マトリックス(成長ベクトル)の考えが役立ちます。
経営戦略理論で有名なイゴール・アンゾフは、「製品=市場マトリックス」を利用して経営戦略の展開領域を示しました。
製品=市場マトリックスは、縦軸に顧客・市場、横軸に製品・技術をとり、各々に既存と新規という基準を加えたマトリックス図になります。
製品 | |||
---|---|---|---|
既存 | 新規 | ||
市場 | 既存 | ①市場浸透戦略 | ③新製品開発戦略 |
新規 | ②新市場開拓戦略 | ④多角化戦略 |
①市場浸透戦略
市場浸透戦略は既存市場に既存の製品等を投入していく既存事業を強化・深耕する戦略です。そのため同戦略は新規事業の推進には利用しません。
戦略の例としては、家庭用ゲーム器メーカーが既存の製品(たとえばプレステなど)の販売価格を下げてシェアを拡大させようとする場合などが該当します。
②新市場開拓戦略
新市場開拓戦略は新規市場に既存製品を投入していく戦略です。たとえば、業務用の洗剤やシャンプーのメーカーなどがそれらの製品を家庭用として販売していく場合などが該当します。
同戦略では根本的に異なるタイプの顧客をターゲットに選定して販売を進めることになりますが、製品等の生産面への影響が少なく新規事業の推進は比較的容易といえるでしょう。
③新製品開発戦略
新製品開発戦略は既存市場に新製品や新サービスを投入していく戦略になります。既存の製品に新たな素材や機能を採用した製品、今まで自社で作ったことのないタイプの製品、提供したことがないサービスを開発し既存の顧客層に提供していくといった方法になるわけです。
たとえば、軽自動車の専門メーカーが小型のSUVを開発し既存の顧客層へ販売していく場合や、ガス会社がそのユーザーへ電力を販売する場合などがこの戦略に該当します。
一般的には既存製品と新規製品の分野が大きく異なるほど参入が困難になり失敗のリスクが高まりやすいです。しかし、新規製品の分野が成長市場である場合、成功すれば大きなリターンが得られ、会社の成長も期待できるでしょう。
*上記①、②、③をまとめて「拡大戦略」と呼ばれることがあります。
④多角化戦略
多角化戦略は新規市場に新製品や新サービスを投入していく戦略です。
新しい製品やサービスを開発するとともに新たなターゲット層を開拓する必要があり、最も難度の高い戦略といってよいでしょう。開発や開拓に多大な労力、時間、コストがかかる可能性があるためリスクは小さくありません。
しかし、③と同様に対象事業の成長が期待できれば、自社の成長・発展に繋がる可能性も高いです。
なお、多角化戦略のタイプとしては以下のようものがあります。
・余剰資源を活用したタイプ
1-4で説明した通り、未利用の自社資源を活用して多角化戦略を推進する方法です。
・無関連多角化
多角化を展開していく場合に各事業での製品や市場の関連性を低くする方法です。各事業の関連性が低下するとリスク分散効果が高まり、事業収益の安定化が期待できます。
・関連多角化
これも1-4で説明したシナジーを追求するタイプの多角化戦略です。既存事業の経営資源を活用して新製品の開発や新市場を開拓できれば、時間やコスト面で有利となり新事業の成功確率も高くなります。従って、関連多角化は無関連多角化よりもリスクが低いといえるでしょう。
⑤事業転換戦略
製品=市場マトリックスの多角化戦略の1つともいえる戦略です。2017年度版中小企業白書では「既存の事業を縮小・廃止しつつ、新市場で新製品・新サービスを展開する戦略。多角化戦略よりも高リスクとなる場合が多い」とされています。
多角化による新規事業の推進で既存事業の低迷や衰退による現状の窮地を脱しようとするものですが、一般的な多角化と異なり既存事業を縮小や廃止の方向へ進める点が特徴的です。
既存事業を縮小・廃止へと進める過程で新規事業が軌道に乗らなければ、事業全体を支える収益が確保できなくなり倒産リスクが高まりやすくなるため慎重な検討及び実施が求められます。
2-2 イノベーションのタイプによる新規事業
新規事業の推進では新製品開発などにおけるイノベーションの実現が新規事業の成功のカギになります。そして、イノベーションのタイプをどのようにするかが新規事業の成否や業績の結果に大きく影響するのです。
たとえば、イノベーションは「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」に分けられますが、そのどちらを取り組むかという選択を誤ると新規事業は失敗に繋がるため慎重な検討が求められます。
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①持続的イノベーション
持続的イノベーションに取り組む新規事業の推進では、これまでの製品等に関する技術等を活用して機能や性能を向上させることで他社との差別化を図り収益の拡大が期待できるでしょう。
持続的イノベーションとは、簡単に表現すると現在の顧客や取引先等の市場から希望されている価値の向上を目指すイノベーションと言えます。
たとえば、かつてのデジタルカメラでの一般的なニーズは、より高い画質とより安い価格の追求でした。自動車ではより高い燃費の実現などになるでしょう。
市場で普及しているデジタルカメラのタイプとして、画素数が500万画素、価格が2万円というケースが一般的である場合に画素数が1,000万画素、価格が1万円というような製品を開発するのが持続的イノベーションにあたるのです。
持続的イノベーションでは従来の製品技術や生産技術の高度な応用といえますが、技術等の方向性は従来の延長線上にあり抜本的に異なるものではありません。そのため技術的にもコスト的にも比較的実現可能な技術革新といえるでしょう。
既存技術等の応用でリスクも抑えつつ持続的イノベーションに成功した製品等を市場投入できれば、他社製品等との差別化が実現しシェアの維持向上や収益の改善等が期待できるのです。
しかし、既存技術等の応用であるためキャッチアップしてくるライバルの出現の可能性も低いとはいえず、長期間の優位を保つのは容易ではないでしょう。
②破壊的イノベーション
破壊的イノベーションを実現する新規事業の推進では、これまでの製品等に関する技術等にはなかった、または異なった次元の製品等を開発し提供することになるため、新市場の開拓に成功すれば大きな収益の確保と成長が期待できます。
破壊的イノベーションは持続的イノベーションと異なり今までの延長線上の技術等を目指すものではなく、今までとは一線を画する価値を創出する技術革新です。
たとえば、フロッピーディスクからコンパクトディスク(CD)、CDからDVDといったメディア技術の移行や、ブラウン管から液晶、液晶から有機ELといったディスプレイ技術の移行などが破壊的イノベーションにあたります。
これらに共通する特徴は、今までの製品技術の延長線で技術革新を進めるのではなく異なった次元でより高度なニーズに対応するものであり、新技術の登場で旧技術が陳腐化する点です。
破壊的イノベーションは技術的なハードルが高く、顧客や取引先などの開拓を最初から行うケースも多く、破壊的イノベーションを新規事業として成功させるは簡単ではありません。
また、破壊的イノベーションはコスト、労力や時間なども多くかかり、成功確率も持続的イノベーションよりも低くなります。しかし、成功すればライバルもほとんどおらず従来品は陳腐化してしまうため、破壊的イノベーションによる新規事業は大きなリターンを得る可能性も高いのです。
3 新規事業の推進方法
ここでは新規事業をどう考案しどのように展開していくのか、という推進方法を説明します。また、新事業のアイデアの発想の仕方、戦略立案の方法、成功要因や失敗要因の把握、課題の解決方などを確認していきましょう。
3-1 新規事業のアイデアの発想
新規事業推進の第一歩は、どのような事業を立ち上げるかというアイデアを発想することであり極めて重要な作業です。
発想の方法としては、先に確認した製品=市場マトリックスやイノベーションのタイプなどを元に検討するとよいでしょう。
全社員からアイデアを募集したり、新規事業の開発部門で討議させたりするケースがよく見られますが、漠然と提案を求めても形になりそうなアイデアに結び付かない恐れがあります。
そのため募集や討議を行う際には具体的なアイデアが出やすいように発想に役立つ切り口を与えるといったことも考えましょう。
たとえば、以下のような点が発想の参考になります。
・基本は自社の強みとニーズのマッチングで考える
新規事業のアイデア発想の基本は自社の経営資源の中で強みとなっている部分で、今まで対応していなかったニーズや全く新しいニーズをマッチさせることです。
会社には顕在化していても活用が不十分な強みや、本当は発揮できるにもかかわらず潜在化して埋もれている強みなどを持ち合わせているケースも少なくありません。
そうした強みを再発見しそれに関連するニーズがないか、その強みで開発できるニーズがないかを考えていくことで新規事業のアイデアに昇華できることもあるのです。
なお、強みとニーズを別々に考察することも検討しましょう。
・自社の強みを再発見するにはバリューチェーンでチェックする
漠然と自社の強みとなっている部分を漏らさず点検するのは簡単ではないですが、自社のバリューチェーンから確認するのが有効です。
バリューチェーンとは、会社の事業活動の機能に着目しどの機能が競争優位をもたらす価値を創出するのかを分析するためのフレームワークになります。
このフレームワークでは、事業活動を購買物流⇒製造⇒出荷物流⇒販売⇒サービスの「主活動」と、人事・労務管理、技術開発、調達活動の「支援活動」に分けて、各機能を分析しどこで付加価値が生まれるのかを確認するのです。
バリューチェーンを分析することで、ある会社では販売・マーケティングの部分で他社を差別化し競争優位を形成している、別の会社では技術開発・設計の部分が大きなリターンをもたらしているといった強みが確認できます。
さらにバリューチェーンについて自社を取り巻く業界全体に広げて分析すれば、自社にどのような強みがあるかを把握しやすくなるでしょう。
・ニーズは社内外のバリューチェーンをはじめ多様な分野から確認する
ニーズの発見は特定の部門や新規事業開発チームなどの限定した部署から意見を求めるのではなく多様な分野から集めて確認するべきです。
会社の付加価値を生み出す部門が新たなニーズを発見できれば良いですが、そう上手く発見できるとは限りません。また、支援活動業務の部門であっても将来の成長に繋がるニーズを把握していることもあるため、ニーズの意見収集は全社的に実施する必要があります。
もちろん社外に対しても同様で、各部門の関係先に今後期待されるニーズについて尋ねてみるべきです。顧客、取引先や仕入先では自社には入ってこない情報も大量にあり、その中で仕事の種になるような情報もないとは限りません。
こうした社内外の情報を定期的に収集する作業を行い習慣づけるようにしておけば、新規事業のアイデアに苦労することも少なくなるでしょう。
・様々な技術マップを利用する
パテントマップなどの様々な技術マップから技術やニーズを確認して自社の新規事業のアイデアに発展させるのも有効です。
パテントマップとは特許情報が分析され、特許の動向などについて図式化もののことですが、ほかにも行政機関や会社などが様々な技術情報を分析したり、まとめたりする目的で技術マップが作成されています。
技術マップには多様なタイプがあるとともに、対象とする技術分野も様々であるため、自社の技術とは関係ない分野も多いです。
自社に関連性の高い分野に限定して利用するのもよいですが、幅広い分野を対象としたマップを活用することで気付けなかった技術やニーズを発見できることもあります。
経済産業省では「技術戦略マップ」、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)では「技術開発ロードマップ」があり、参考にできるケースもあるでしょう。
・ITのトレンドから発想する
ICT、ビッグデータ、IoTやAIなどITの進化に伴うイノベーションが様々な分野で誕生しており、それらを活用した新規事業が期待されます。
たとえば、IoTの世界では家電製品や工場の機械などの状態がインターネット経由で外部からでも確認やコントロールができ、利便性の向上だけでなく業務効率の向上にも繋がっています。
また、IoTの活用により使用している機器等の状態を診断し耐久性の判断や修理の必要性を分析することが容易になり、そうした作業をサービスとする新規事業も登場してきているのです。
ビッグデータやAIなどを活用することで、会社の調査だけでは把握できなかった潜在ニーズを発見し新規事業に繋げることも期待できるでしょう。
コールセンターなどではAIによる自動応答システムの導入が進みつつあり、人手不足とコスト削減などに役立っているのです。
進化し続けるITのトレンドと自社の強みなどをマッチさせていけば新規事業のアイデアも浮かびやすくなるのではないでしょうか。
3-2 新規事業の課題、成功要因・失敗要因
新規事業を立ち上げ成功に導くにはどのような問題が潜んでいるかを先に確認するのが有効であるため、新規事業推進に関わる課題や成功要因・失敗要因を確認していきましょう。
2017年度版の中小企業白書の第2-3-4図では「新事業展開を実施していない企業の課題」が示されています。
この図によると、最多の課題は、「必要な技術・ノウハウを持つ人材が不足している」、次に「販路開拓が難しい」「新事業展開に必要なコストの負担が大きい」「市場ニーズの把握が不十分である」などと続いています。
つまり、中小企業等の場合、新規事業推進の課題としては主に技術等の不足、資金不足、販路開拓の難しさ、市場ニーズの把握不足といった内容になるでしょう。
また、第2-3-12図では「新事業展開の成否別にみた課題」が示されています。この図によると、新事業展開の成否別では戦略により多少傾向に相違が見られるものの、成功していない会社では市場ニーズの把握、自社の強みの活用、情報発信などのマーケティング項目を課題する傾向が見られます。
つまり、マーケティングに対する取組姿勢の差が新事業展開の成否を分ける可能性があり推進の際には留意しておいたほうがよいでしょう。
なお、大企業に関するデータがないですが、中小企業等とは異なり、「リスクを取りたがらない保守体質」「事業の成長性や収益性などに対する厳格な審査基準の存在」「意思決定プロセスの肥大化による事業推進の遅延」「潜在化している見えない顧客ニーズより顕在化している顧客ニーズの解決への注力」などが挙げられます。
3-3 新規事業の推進方法
新規事業を推進していくための方法を先の課題も踏まえて確認していきましょう。
①新規事業の創出と推進を実現できる環境の整備
どの会社でも既存の中核事業が重要であるため、新規事業への意識が希薄になりがちですが、経営者自身が新規事業推進の重要性を認識しその創出と推進を実現できる環境を整備することが求められます。
具体的には、まず経営者が新規事業開発の重要性を全社員に認識させることから始まります。新規事業を開発し成功させるには多大な労力を伴うことになりますが、その割に成功の確率は高いとは言えません。
つまり、苦労が多い割に成功確率の低い新規事業開発に従事するのは、既存の事業に慣れ親しんでいる会社員にとってはハイリスクと感じられてしまいます。その結果、企業全体を通じて新規事業開発に取り組む意欲が弱まるのです。
こうした挑戦意欲に欠けた保守的な経営体質では新規事業の開発は困難となるため、まず経営者自身が新規事業の重要性を全社員にアピールし、新規事業の推進を経営計画の中に組み込むことが求められます。
そして、新規事業を推進するために、人材の育成・確保、資金の準備、組織体制の見直し、人事処遇面の改善などの一連の仕組みを形成することが必要となるのです。
②リーダーの選定とバックアップ
新規事業の推進は既存事業以上に困難な問題に直面しやすいため、それを新規事業開発チームが乗り越えられるように導くリーダーが不可欠になります。そのため、企業側は重要な役割を担うリーダーとして最適な人材を選び、その者がリーダーシップを発揮できるための支援を実施しなければなりません。
リーダーには新規事業に関する技術やマーケティングなどの一定の知識が求められますが、何より困難に立ち向かい決して諦めない不屈の精神力が必要です。
そのため、単に新規事業に関するアイデアの発案者であったり、特有の技術を有する者であったりするだけでリーダーに据えるのは適切とはいえません。また、新規事業開発は複数人のチームで行うことも多いため、多様なチームメンバーをまとめ課題解決へと引っ張るリーダーシップ力やマネジメント力が不可欠です。
経営者層はこうしたリーダーとして相応しい人材を選定する必要があるとともに、不在の場合は外部からスカウトしたり、社内で育成したりすることが求められます。
そして、リーダーを選出した後、リーダーに新規事業開発を託すことになりますが、丸投げせずにバックアップに努めなくてはなりません。新規事業開発チームだけでは解決が困難な課題も少なくないため、チームでの問題や悩みなどを随時確認し、必要な場合は積極的に関与していくべきです。
特に技術開発等に必要な資金の確保や販売先・取引先の開拓などは経営者層が中心となって対応することも必要となるでしょう。
③社員に対する処遇
困難な新規事業開発に取り組む社員への処遇を改善し、開発へのモチベーションを高めるとともに新規事業の創出の重要性が感じられる雰囲気の醸成も重要になります。
難しい新規事業に取り組み苦労を重ねても社員として報われないようでは、新規事業に従事しようと考える社員も増えません。そのため、新規事業開発の成否にかかわらず従事することで一定の評価を与えるといった処遇も検討すべきです。
もちろん成功した暁には昇格・昇進、昇給・報奨金や表彰などの処遇を用意することも必要になるでしょう。
このように新規事業に従事することによる社員としてのメリットを明らかにすることで、従事者のやる気の向上と新規事業に取り組もうという意欲が社内に醸成されていくのです。
④外部の力の利用
資金面、技術面、販売面のすべてを自社で対応して新規事業開発を進めるのは困難であるため、外部との連携など他社の力を積極的に利用することも検討しましょう。
IoT、AIなどのITと自社固有の技術を組み合わせるといった場合、IoTやAIなどの技術に特化した会社と連携して新規事業を開発していくほうが、技術的にも資金的に負担が軽減されるはずです。
また、開発の時間が短縮されるだけでなく、自社単体で行うよりも成功確率の向上が期待できます。
たとえば、大企業などではベンチャー企業などに対して特定分野の共同開発を募集するケースも多いです。そうした募集で採用されれば、大企業の資本、技術や施設などを利用して新規事業の開発を進めることができます。
また、M&Aにより自社に足りない技術力や販売力を確保していくという方法も有効です。資金面での負担は大きいですが、自社開発よりも時間が短縮できるとともに完成した技術の活用により新規事業開発の成功確率は高まるでしょう。
3-4 新規事業を創出する仕組み
ここでは会社が新規事業を生み出すためにどのような仕組みを活用しているかを説明します。
①社内ベンチャー
社内ベンチャーとは、社員の中から新規事業に関するアイデアを募集して、その採用したアイデアに基づき自社で作るベンチャー企業のことです。
応募してきた中の優れたアイデアを新規事業として推進するために、会社は資金や施設などを提供し、子会社、関連会社などとして起業させるケースが多く見られます。
社内ベンチャー制度は、社員の新規事業への意欲やチャレンジ精神の高揚に役立つケースも少なくありません。
②コワーキングスペース
コワーキングスペースとは、幅広い層の個人や会社の従事者が集まり、仕事、情報交換、コミュニケーション、協働などを行う場所のことを指します。
会社が社員をコワーキングスペースに派遣して他者と交流させれば、新規事業のアイデアを得たり、技術開発を共同したりできるようになるため、新規事業開発の推進に役立ちます。
③アクセラレータープログラム
アクセラレータープログラムは、大企業などが事業連携などを目的にしてスタートアップ等に資本や技術を提供する支援プログラムです。このプログラムを通じて主催企業はそのスタートアップ等の成果を自社に取り込むことが可能となり、新規事業開発に繋げられます。
ほかにスタートアップが起業する前のアイデア段階からサポートするインキュベーションプログラムなどもあります。
④スタートアップコンベンション
スタートアップコンベンションとは、スタートアップ等による製品やサービス等の出展、プレゼンテーション、コンテスト等が実施されるイベントです。こうしたイベントで新規事業のヒントを得たり、連携先や支援者を見つけたりすることも可能であるため、会社にとっては新規事業開発の足掛かりにできるでしょう。
⑤M&A、投資
有望な技術や事業を有するスタートアップ等に投資して支援すれば、その会社の開発された新技術を活用して新規事業を展開するという方法も取れます。また、そうしたスタートアップ等を買収して新規事業を取り込むというケースも少なくありません。
4 新規事業の事例
ここではどのような新規事業がおこなわれているかを具体的な事例で確認していきます。
4-1 中小企業等の新規事業の事例
①メッキ事業の技術を活用してヘルスケア事業へ進出したA社
・既存事業:メッキ加工業
A社のメッキ加工の対象となる金属部品は自動車のエンジンやブレーキ、OA機器・複合機器のシャフト等です。
・新規事業:ヘルスケア事業(化粧品等)
・新規事業のタイプ:ターゲットは新市場で、既存技術の応用による新製品開発により進出
・新規事業推進の理由:
将来、A社の主要な加工対象である自動車のエンジンが電動モーターへ本格的に代替されていく可能性があり、自社の事業への影響が危惧されることから事業の多角化が必要と考えた。
・新規事業の成功のポイント:
金属表面処理加工で蓄積したミネラルを活用する技術と、化粧品ブランド確立でのコンサルティング業の経験のある人材を活用して、化粧品ブランドを作れたことが、挙げられます。
*2016年度版中小企業白書 事例2-3-1より
②既存のシルクスクリーン印刷業の経験を活かして装飾用シート等の用品事業へ進出したB社
・既存事業:シルクスクリーン印刷業
・新規事業:シート状シールの開発。携帯電話関連や自動車装飾関連の用品事業(装飾用シート)
・新規事業のタイプ:ターゲットは新市場で、既存技術の応用による新製品開発により進出
・新規事業推進の理由:
印刷業界におけるオートメーション化の発達で、熟練者の技術が活かせる仕事量が減少するとともにコストの低い海外事業者との競争により既存事業が厳しくなり、新規事業の推進が不可欠となった。
また、シルクスクリーン印刷業で培った技術を応用し、「糊を刷る」という新たな技術を開発できた。
・新規事業の成功のポイント:
利用者視点からの製品化を大切にし、シルクスクリーン印刷で蓄積した技術、経験を余すところなく利用して独自性の高い製品開発に努めたこと。
製品の対象市場や用途を増やすことに成功したこと。
展示会等への積極的な参加などマーケティング面の活動に注力したこと。
などが成功要因として挙げられます。
*日本公庫総研レポート No.2014-2の「中小企業による「新事業戦略」の展開 ~実態と課題~」より
③樹脂製部品製造の技術を活用し新市場である自転車市場初のノーパンクタイヤを開発したC社
・既存事業:プラスチック金型設計・製作等
・新規事業:ノーパンクタイヤ用部材の開発・製造・販売
・新規事業のタイプ:ターゲットは新市場で、既存技術の応用による新製品開発により進出
・新規事業推進の理由:
フォークリフト用のノーパンクタイヤの相談をきっかけに、当時まだ開発されていなかったが需要が見込める自転車用ノーパンクタイヤの自社開発に興味を持った。
自転車用ノーパンクタイヤ事業は既存事業とは全く関係がないものの「ポリアミド樹脂接合プライマー」の開発経験があり、対応できると判断できた。
・新規事業の成功のポイント:
既存の技術や設備を活用して開発を進められたこと。
強度、耐久性、軽さ、乗り心地などの性能・品質面に万全を期して開発できたこと。
樹脂材料の購入先、販売先の開拓などでの他社との連携、樹脂メーカーからの協力を得ることができたこと。
などが成功要因として挙げられます。
*「中小企業による「新事業戦略」の展開 ~実態と課題~」より
4-2 大企業の事例
①パナソニックの農業支援事業
・既存事業:家電、住宅、車載、ソリューション事業
・新規事業:ソリューション事業の中での農業支援事(植物工場やパッシブハウス型農業システム)
・新規事業のタイプ:ターゲットは新市場で、既存技術の応用による新製品開発及びビジネスモデル開発により進出
・新規事業推進の理由:
人が快適に暮らせる住まいの提供という企業理念の下、家電等での実績を生かして農作物を快適に育てられるプラントを実現するというアイデアが社内で生まれた。
・新規事業の成功のポイント:
既存の環境コントロール技術をフル活用できたこと。
関連会社のエンジニアリング技術等との連携ができ、生産者からの協力が得られたこと。
パッシブハウスの販売・施工のみならず農家の生産品の流通支援も行うといったビジネスモデルが確立できたこと。
などが成功要因として挙げられます。
②DeNAの多岐にわたる新規事業開発
・既存事業:インターネット上のEコマース、コミュニティー、ゲームなどのサービス事業
・新規事業:スポーツ、オートモーティブ、ヘルスケアなど多様な領域に進出
・新規事業のタイプ:ターゲットは多様な市場で、既存技術に関わらず新技術や新たな経営資源を取り込み新規市場開拓として進出
・新規事業推進の理由:自社を「永久ベンチャー企業」と位置づけ、常に新しいことに挑戦することが会社の運営方針であるから。
・新規事業の成功のポイント:
経営者層から末端の社員まで挑戦意欲が高いという組織風土が形成されていること。
企業、行政や大学などを問わず、他社との連携など外部の力を上手く活用していること。
などが成功要因として挙げられます。
③長谷工コーポレーションの建物に住む人の暮らし関わる多様なニーズの充足
・既存事業:マンション等の建設事業
・新規事業:マンション向け電力供給事業、不用品リサイクル事業、マンション用インターネット設備導入事業など住宅関連の新サービスの提供
・新規事業のタイプ:既存市場の周辺に新市場を見出し、そこでのニーズを充足できる新サービスを開発して開拓
・新規事業の成功のポイント:
既存事業(建設業や管理・リフォーム業等)で幅広い顧客ニーズを収集し、関連サービスの開発に注力していること、が挙げられます。
5 新規事業の推進上の注意点
最後にまとめとして、新規事業を推進する上で特に重要な注意点を説明しておきましょう。
5-1 企業全体での取り組み
新規事業を推進していく場合社内ベンチャーや新規事業開発チームなどの形態で実施されるケースが多いですが、担当部署に新規事業を任せるだけでなく全社的に協力して推進することが不可欠です。
新規事業を開発・推進していくためには、社内の各部門の人材、機器・設備、技術・ノウハウ、情報などの多様な経営資源の提供や協力が必要になることも少なくありません。
そのため、新規事業を成功させるためには他の部門の協力が不可欠であり、経営層はこの協力が積極的に行われるような体制を整備することが求められます。また、経営層自身も新規事業に関与することも重要です。
担当者に推進の方法を委ねる必要はありますが、トップでないと解決できない問題もあるため、新規事業チームへの支援や激励などを随時行うように努めなければなりません。
5-2 外部の力の利用
新規事業を成功させるには自社以外の経営資源の活用が必要になることも多いため、積極的に外部の力を利用する必要があります。
資金や技術の面で不足しがちなベンチャー企業や中小企業などは大企業や公的機関等との連携を模索し、彼らの力を最大限利用したほうが、新規事業は成功しやすくなるでしょう。
技術や製品を開発する際に大企業、大学等の技術や研究施設などを利用できれば、開発の成功確率は高まり、開発期間の短縮もしやすくなるはずです。販売面でも大企業の知名度や販路が利用できれば、自社単独で販売を進めるよりも短期間での市場浸透も可能になります。
また、大企業もスタートアップなどと連携すれば、その優秀な技術やアイデアを吸収して新規事業開発に繋げられ、保守的な事業運営の中でも新規事業の推進が期待できるのです。
5-3 新規事業開発を醸成する組織風土の形成
行った新規事業開発の取り組みを一過性のイベントとして終わらせることなく、持続していく組織風土を形成するべきです。
1つの新規事業が成功してもそれで新規事業を生み出す活動が終了してしまうのは会社にとって大きな損出です。新規事業の成功体験自体が会社の重要な財産、経営資源となるものですが、活動を継続する・取り組み続けることがその財産の維持・拡大に繋がります。
新規事業活動を継続するには、新しいことに挑戦するという社員の意識が前提となるため、会社としてはそのための仕組みを整備していく必要があります。
新規事業のアイデアを事業化する社内ベンチャー制度の運用のほか、アクセラレータープログラム、コワーキングスペース、スタートアップコンベンションなどを導入・活用することも有効です。
こうした新規事業を創出するための手段を計画的に実施し、社内を挑戦意欲の高い組織風土へと形成していくことが望まれます。
6 新規事業の資金調達の方法とメリット・デメリット
新規事業を始めるに際して、必ず必要となるのが「運転資金」です。どんな事業を行うにしろ、事業を継続的に営むためにはある程度資金が必要になります。
新規事業に必須の資金を調達する方法には、いくつかの方法があり、それぞれメリットやデメリットが異なります。資金調達を実りのあるものとするためには、メリットとデメリットをよく比較検討した上で、自身に最適な方法を選択することが重要です。
新規事業を立ち上げる際は、基本的に以下5つの方法で資金調達を実施します。
6-1 民間金融機関からの借り入れ
事業を営む方が真っ先に思い浮かぶ手段といえば、銀行などの金融機関から資金調達する方法だと思います。
⑴メリット
銀行かなどの金融機関から資金調達する最大のメリットは、大きなお金を比較的容易に資金調達できる点です。銀行であれば基本的に金利も低いため、まとまった額を資金調達したい場合に向いています。また、経営者の多くが実践する方法であるため、安心して資金調達できる点も魅力の一つです。
⑵デメリット
大きな額を調達しやすいメリットがあるものの、それはあくまで信用を得られていればの話です。過去に実績のない方が新規事業を始める場合は、信用面で不利となるため、多額の資金調達はしにくいケースが多いです。
また、借り入れした資金を固定資産などの購入に充てた場合、税金の納付や会計処理がとても複雑となるデメリットも発生します。
加えて、返済が困難となった際には、経営に介入してくる恐れもあります。確実に返済してもらうために、経営陣の意向とは異なる経営方針を突きつけてくるケースも見受けられます。
6-2 公的機関による融資
公的機関による融資とは、商工中金や日本政策金融公庫などから資金調達する方法です。公的機関では、新規事業や事業承継を実施する方などを対象に、様々な融資制度を運用しています。
⑴メリット
公的な融資制度であるため、とても有利な条件で資金調達できるケースが多いです。実績面がなくても低金利で融資を受けられたり、場合によっては無担保・無保証で資金調達できたりする制度もあります。
⑵デメリット
民間金融機関から借り入れする場合と比べて、手続きが煩雑となる点がデメリットです。必要となる書類も多岐にわたるため、自力で公的機関からの融資を受けることは大変なのが現状です。
6-3 補助金や助成金の利用
国の関連機関が行なっている補助金や助成金を利用するのも、新規事業の資金調達で用いることができる方法の一つです。金融機関からの借入や融資制度の利用とは異なり、調達した資金は原則返済不要です。
⑴メリット
補助金や助成金の利用における最大のメリットは、返済不要の資金を得られる点です。返済義務がある場合は、月々の元本返済や利息の支払いなどにより、資金繰りが苦しくなるリスクがあります。一方で補助金や助成金は原則返済不要なので、そうしたリスクを気にせずに経営に集中することができます。
⑵デメリット
補助金や助成金の利用には一見デメリットがなさそうですが、「受給するのが簡単ではない」というデメリットがあります。受給する条件が厳しかったり、受給人数枠が狭かったりするケースが多いため、確実に資金調達できる保障はありません。また制度によっては、突然ある年度から打ち切られるものもあります。助成金や補助金は役立つ方法ですが、全面的に頼るのはオススメできません。
6-4 株式の発行
株式会社内で新規事業を行う場合は、株式を発行・交付する形で資金調達する方法も使えます。
⑴メリット
株式発行により資金調達する方法には、返済義務がないという大きなメリットがあります。そのため補助金や助成金と同様に、資金繰り悪化の心配をせずに、新規事業に集中することができます。
また、配当金の金額を柔軟に決定できる点もメリットです。業績が良い場合は配当金を多めに設定する一方で、業績が悪化した場合は配当金を減額することができます。業績に関係なく毎期一定金額の返済義務を負う負債の利用と比べると、この点でも資金繰りが安定しやすいと言えます。
⑵デメリット
新規事業の立ち上げ期に特に当てはまるデメリットですが、株式に出資してくれる人を見つけるのは一般的には困難です。
ただでさえ自社の知名度が低い上に、将来性が不透明な新規事業に投資してくれる人は中々現れません。ベンチャーキャピタルなどに出資してもらうのも一つの手ですが、経営に関する自由度が大きく低下する恐れがあります。
以上の理由から、新規事業の立ち上げ期においては、現実的に見ると不向きな資金調達方法と言わざるを得ません。
6-5 社債の発行
会社が債権を発行する形で、新規事業の資金調達を行う方法もあります。会社が発行する点では株式と似ていますが、社債には元本の返済義務と利息の支払い義務があります。
⑴メリット
社債の発行には、長期的かつ安定的な資金調達を行えるメリットがあります。利息の支払い額や返済期限が固定されているため、計画的に資金の返済を行えます。
また新規事業の業績に応じて元本返済を行えるため、金融機関からの借り入れと比べると、資金繰りが悪化するリスクは小さいです。
⑵デメリット
安定的に資金調達できる手段ではあるものの、社債を発行するためには財務省や金融機関が定めた基準をクリアする必要があります。また、社債の発行には時間がかかるため、即座に新規事業の資金を調達したい場合には、使い勝手が良くないです。
以上の理由から、社債発行は一定以上の規模をほこる企業ではないと、現実的には活用できない資金調達の方法です。新しく会社を立ち上げた上で新規事業を行う際は、他の方法で資金調達することも視野に入れるのがオススメです。
6-6 クラウドファンディング
最後にご紹介する方法は、クラウドファンディングを利用した資金調達です。クラウドファンディングとは、インターネット上で第三者から資金調達を募る方法であり、ベンチャー企業を中心に利用が広がっています。
クラウドファンディングには、主に「商品購入型」と「投資型」の二種類の方法があります。商品購入型クラウドファンディングとは、投資してもらう代わりに新製品やサービスを提供する方法です。一方で投資型クラウドファンディングとは、インターネット上で株式交付により資金調達する方法です。どちらの方法を用いるかは、新規事業の性質や社内の状況に応じて選びましょう。
⑴メリット
クラウドファンディングにおける最大のメリットは、従来であれば資金調達できないような事業者でも資金調達できる可能性がある点です。社債発行や借り入れなどの方法では、どうしても会社自体の信用力が低いと資金調達しにくいという課題があります。
しかしクラウドファンディングでは、事業の革新性やユニークさが重視される傾向があるため、起業したての方でも資金調達できる可能性が十分にあります。
加えて調達した資金は返済不要であるため、資金繰りの悪化に悩まされずに事業に取り組みやすくなります。
⑵デメリット
クラウドファンディングでは、新規事業の革新性やユニークさが投資の判断基準となる傾向が強いため、事業内容によっては資金調達しにくい可能性があります。そのため、従来から行われているような内容で新規事業を立ち上げる場合は、なかなか資金を調達できないかもしれません。
7 新規事業で資金調達する際のコツ(注意点)
新規事業で資金調達する際は、以下5つのコツ(注意点)を踏まえると、資金調達が円滑にいく可能性が高まります。
7-1 事業計画に基づいた資金調達を行う
勘違いしがちな部分ですが、資金調達とは新規事業を軌道に乗せる目的で行うものです。「何となく必要そうだから」とか「周囲の経営者仲間から凄いと思われたい」などの理由では、資金調達はすべきではありません。根拠のない理由で資金調達すると、資金の使い方に無駄が生じる恐れがありますし、そもそも融資や出資をしてもらえない可能性が高いです。
資金調達を行う際は、新規事業の計画に基づいて、必要な額を必要なタイミングで調達するのがベストです。事業計画に基づいていれば資金調達の説得力が高まるため、出資や融資をしてもらえる可能性も高くなるでしょう。
7-2 事業計画書には具体的かつ根拠のある数字の載せる
先ほどのコツと関連しますが、新規事業の事業計画書には具体的かつ根拠のある数字を載せましょう。
何となく「3年後にはこのくらいの利益が見込めるだろう」と言った感じのことを言っても、説得力に欠けるためお金を出してもらえません。事業計画書には、「どのようなマネタイズによって、どの程度の利益が見込めるか」を具体的に記載した方が良いです。
具体的で根拠のある数字を載せることで、資金調達しやすくなるだけでなく、確固たる目標となるため、経営陣にとってもメリットが大きいです。
7-3 借り入れや融資を受ける場合は、返済プランをしっかりと立てる
返済義務や利子の支払いが生じる方法で資金調達する場合は、返済プランをあらかじめしっかりと立てましょう。
資金を融資または貸付する側は、確実に返して貰えると思った相手にしか資金を出してくれません。明確な返済プランがない場合は、返済可能性が不透明であるが故に、資金調達しにくくなります。また、返済プランをしっかり立てておけば、自分たちにとっても「資金繰りがしやすくなる」というメリットが生まれます。
以上の理由から、新規事業の立ち上げに際して資金を借りる際は、緻密な返済プランを立てるのがオススメです。
7-4 複数の資金調達方法を検討・活用する
この記事でお伝えした通り、新規事業を行うに際しては様々な資金調達方法を活用できます。
一般的には銀行からの借り入れしか思いつかないかもしれませんが、必ずしも銀行から借り入れを行えるとは限りません。補助金や助成金の活用についても、条件を満たしても100%資金調達できるとは限りません。
あらかじめ検討していた資金調達の手段が失敗した場合、その時点で諦めるのではなく、他の調達方法を模索しましょう。ある方法がダメでも、他の方法では資金調達できる可能性は残っています。
ダメだった場合も想定した上で、複数の資金調達方法を想定しておくのも、新規事業の立ち上げに際しては重要です。
7-5 経営者の実績や経歴を整理する
7-3の項でもお伝えしましたがお金を出資する側は、成功しそう(返済してもらえそう)な相手にしか基本的にお金を出しません。成功しそうか(返済してもらえそうか)どうかを判断する際には、事業計画に加えて経営者の実績や経歴も重視されます。
過去に新規事業の立ち上げを成功させている方であれば、資金調達できる可能性は当然高くなります。他には、行いたい事業分野で働いてきた実務経験なども確認されるでしょう。
新規事業の資金調達を行う際は、自身の経歴や実績を思い返してみて、何をアピールポイントにするかを事前に検討しておくことが大切です。
8 まとめ
新規事業の資金調達では、「借り入れ」や「融資」、「補助金・助成金」、「株式や社債の発行」、「クラウドファンディング」などの方法を活用できます。方法ごとに異なるメリットやデメリットを踏まえた上で、資金調達を行いましょう。ただし新規事業に限っていうと、資金調達を成功させるのは簡単ではありません。少しでも資金調達が円滑に進むように、今回ご紹介したポイントを是非とも参考にしてください。