税務調査にはどんなイメージをお持ちでしょうか?なるべく遭遇したくないものではないでしょうか?
そして、なるべく穏便に、指摘事項もゼロにしたいと思っているかと思います。
そこで今回は税務調査で知っておきたいポイントと税務調査を受けにくい決算書の特徴についてまとめました。
1. 税務調査で知っておきたい10のポイント
例えば6月決算の法人で、調査対象期間が平成28年6月期から平成30年6月期までであった場合に当日準備する帳簿書類等の例を以下に示します。
平成28年6月期から平成30年6月期までの以下の書類を準備します。
1-1 税務調査当日に準備する帳簿書類等の例
- 総勘定元帳
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 売掛帳、買掛帳
- 固定資産台帳
- 棚卸表
- 注文表、契約書
- 請求書、領収書
1-2 税務当局が読み込んでくる資料の内容を頭に入れておこう-法人事業概況説明書
法人税の確定申告書には、法人事業概況説明書という書類をセットで添付します。計算書類一式や勘定科目内訳明細書と同様に確定申告書への添付書類として定められています。
この書類には、確定申告書の数値情報の要約と税務当局が知りたい定性情報が詰め込まれています。そして、そのフォームは毎年改訂されています。
平成30年度版は以下にあります。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/180401_02.pdf
この書類は、OCRで機械読み取りができるようにされており、税務当局が持つデータベースに格納されます。
事業内容から始まり、海外拠点を含む支店・子会社の状況、海外取引状況などの記載があり、こちらを見れば、税務当局がリスクを感じている項目を知ることができます。
税務調査の選定や分析は、この書類が起点になるとされているので、前年に比べて売上や利益などの計数に変動が著しい場合や同業他社に比べて異常値と感じる場合には、その理由をできるだけこの書類の裏面に記載するとよいとされています。
なお、直近の改訂内容にも注目した方がいいでしょう。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/hojin/sanko/02-05.pdf
今回の改訂内容は、「法人番号」欄の追加と「納税地」欄の削除があります。そして、支店子会社の状況では、海外子会社を区分けして、その出資比率の記載を求めています。
また、電子計算機の利用状況は、PCの利用状況と名前を変えていて、PCのOSの記載、メールソフトの記載、更にはデータ保存先として「クラウド」といった記載が出てきたことも注目すべきでしょう。
また、経理の状況欄には、「社内監査」という項目が追加されました。
このことは会社の内部統制の存在が税務リスクを低減するという考えを税務当局が持っていることを示しています。
税務当局が注目している項目が時代とともに変遷しているということがよくわかります。
1-3 税務調査で狙われる項目を予想しよう-財務諸表から
ここでは、税務調査で狙われる項目について見ていきます。
1-3-1 抽出のための2つの視点
①売上金額と所得金額からの視点
調査予想項目の検討にあたっての中心的な数値は、損益計算書の「売上高」です。売上高が上昇傾向なのか、横ばいなのか、下降傾向なのかを確認し、それに比して最終的に課税される所得金額(又は欠損金額)がどのように変動しているのかが大きな視点となります。
②同業他社(者)との各種経営指標の比較の視点
同業他社(者)との各種経営指標の比較も大きな視点です。公的機関や民間の調査機関などが、Webサイト等で掲載している業種別の各種経営指標の平均から納税義務者が自己の指標の立ち位置を確認し、平均値から自己の立ち位置が離れている場合は、その離れる原因となっている勘定科目が何かという視点です。
なお、社長(事業主)」の日常取引における感覚による同業他社(者)の平均指標も同様な取引先や事業規模又は地域性などを反映したより実践的な指標である場合がありますので見逃せません。
1-3-2 抽出手順
納税義務者の過去3期分の決算書の比較表を作成します。
まず1番古い決算期の損益計算書を基準として、売上が上昇傾向か、横ばいか、下降傾向かを確認し、その傾向ごとに調査予想項目を抽出します。また、どの傾向であっても共通に同業他社(者)との各種経営指標の比較の観点からも調査予想項目を抽出します。
1 売上金額が上昇傾向の場合
売上金額が上昇傾向であれば、売上金額の上昇に伴い、法人税確定申告書[別表1]の所得金額も上昇傾向にあることを確認します。上昇傾向にない期があれば、上昇となることを抑えている勘定科目が調査予想項目となります。
2 売上金額が概ね横ばいの場合
売上金額が概ね横ばいであれば、各期の所得金額を比較し、所得金額が低くなっている期があるかを確認します。
所得金額が低くなっている期があれば所得金額が低くなる原因となった勘定科目が調査予想項目となります。
3 売上金額が下降傾向の場合
売上金額が過去傾向の場合は、まず下降した決算期の売上金額自体が適正であるのかが調査予想項目となります。
それが適正である場合、売上金額の下降に伴い、所得金額も下降傾向にあるかを確認します。所得金額が概ね横ばい、あるいは下落傾向にない場合は、ベースとなった古い決算期の売上が大きいにも関わらず、その期の所得金額が低くなる原因となっている勘定科目が、調査予想項目となります。
所得金額が下落傾向の場合は、その後の所得金額が低くなった理由となる勘定科目及び下記④の検討の結果、抽出された勘定科目が、調査予想項目となります。
4 同業他社(者)との各種経営指標の比較
公的機関や民間の調査機関などがWebサイト等で掲載している業種別の各種経営指標の平均値から自己の指標の立ち位置を確認し、平均値から自己の立ち位置が離れている場合は、その離れる原因となっている勘定科目が調査予想項目となります。
1-4 聞かれる可能性の高い項目は事前シミュレーションで何を言うか決める
1-3で抽出した調査予想項目について、事前に税理士・経営者・現場担当者等でよく話し合っておくことが必要です。税務調査官に安易に何でもしゃべってしまうと足元をすくわれる可能性があります。
1-5 勘定科目別の税務調査の観点を知ろう
勘定科目別の税務調査の観点を見ましょう。
・売上
社内でどのような立場の者が、どんな手段(FAX、メールなど)で受注し、どのような立場の者が起票し、どこを経由して経理に連絡されるのか等について確認した上で、受注の際の原始記録等と請求書や売掛帳、元帳などを照合します。
・仕入、外注費(棚卸、仕掛品を含む)
期末付近の仕入(外注費)がどのように売上に結びついているか、仕入(外注費)ごとに取引日を遡って確認します。また、遠隔地や単発の仕入(外注)業者については、その理由と仕入(外注費)内容を詳細に確認します。そして、外注費の中に、消費税の課税仕入にならない労務費、給与費を課税仕入とするために外注費としているものはないかの確認をします。
・ 交際費
1人あたり5千円以下の社内(役員、従業員等)飲食費を交際費から除いていないかを確認します。また、1人あたり5千円以下の飲食費となるように参加人数の水増しをしていないかを確認します。そして、飲食店等から金額の記載の無い領収書等を入手し、金額を過大計上していないかを確認します。さらに、役員や事業主の個人的な物品購入や飲食費を取引先への贈答や接待としていないかも確認します。
・固定資産
資産の購入対価以外の付随費用、事業供用のための直接要した費用などを取得価額とせず費用処理していないか、契約書、請求書等から確認します。また、修繕費として処理したもののうち、資本的支出に該当するものがないか原始記録や請求書などから確認します。
・ 雑収入、雑損失、固定資産売却損益等
作業くず、車両や機械などの固定資産を売却しているにもかかわらず、除却・廃棄したとして処理していないか、除却・廃棄した際の書類等から確認します。また、固定資産の売却にあたって、その譲渡対価から消費税の課税標準に含めているか、売却の際の書類等から確認します。
1-6 税務当局は現金や預金記録から見る
税務調査では資金の流れを追うことが出発点です。
税務調査中に税務調査官は預金通帳と会計記録の一致を確認するという手続をしたりします。
また、異常な資金の動きがある場合に税務調査が入ることが多いです。
そのため、経理担当者や税理士は普段から資金の流れを把握しておくようにしましょう。
1-7 税務当局は不当に所得を減らして税金を下げる不正行為に留意している。
税務当局は不当に所得を減らして税金を下げる不正行為に留意して税務調査をしています。具体的には、売上除外、外注費の架空計上、領収書や請求書の重複計上、収益未認識といった脱税行為がこれに該当します。
このようなリスクに対応するために税務調査官は調査を行います。具体的には税務調査官は損益計算書の売上高から下の特別損益までのフローに着目した調査を行います。
1-8 現物確認調査されるものを知ろう
現物確認調査とは、文字どおり現物を確認する調査のことです。
以下に事務所等に保管された現物と税務当局の確認内容の例を示します。
・ 机、金庫内に保管された現金、預金通帳、印鑑等
実際の現金有高と現金出納帳の残高は一致しているかを確認します。また、預金通帳の残高と、総勘定元帳の預金勘定の残が一致しているかも確認します。そして、申告書等に記載のある預金口座以外の通帳がないかを確認します。
・ 棚(ロッカー)等に保管された書類等
机上に準備された書類や概況聴取で説明を受けた書類以外で、調査の参考となる書類はないかを確認します。
・ 工場内にある機械など
固定資産台帳に登録されていない資産はないかを確認します。また、除却、売却したとされる資産が未だに存在していないかを確認します。そして、作業くず等は発生していないかを確認します。
1-9 税務調査の「お土産」について知っておこう
税務調査官は、表向きのところ、追徴や件数のノルマは無いという風に言っていますが、実質的にはあると考えられます。
怠けていなければ件数は増えるはずだ、スキルが高く優れていれば追徴額が高くなるはずだ、という風な人事評価の風土にあり、担当案件ごとに数値されることもあり、心理的なプレッシャーになるからです。
「お土産」とは、税務用語で大きな追徴が税務調査で見つからなかった場合、あるいは本命の大規模な追徴課税を回避するために、税務調査官のメンツを立てるために些細な損金などの否認を受けることをいいます。
私個人の感覚ですが、中小零細企業の税務調査の実務として、平成が終わろうとしている現在でも、この「お土産」という忖度や妥協は存在しています。
おそらく、調査に入って修正がないケースというのは、中堅以上の中規模、大企業でのルーチンで数年に一度入る税務調査でしっかりやっていた場合のことであり、零細企業で修正がないというのは、ほぼ考えられないのではないかと思います。
1-10 調査による修正申告と納税の手続きを知ろう
税務調査が終わると、課税庁の調査担当者から納税義務者に対し、その調査結果の内容の説明があるとともに、その内容に沿った修正申告又は期限後申告の勧奨があります。
この勧奨に応じる場合は、多くの場合、修正申告又は期限後申告書を提出すると同時に、まず追加の本税を納付します。その後、課税庁から調査結果の内容に沿った各種加算税(表1)及び延滞税(表2)の通知が送付されますので、それぞれ納付します。
2 税務調査に狙われないようにするためには
法人の税務調査は規模の小さい法人では1日で終わることもありますが、1週間中のこともあります。税務調査時は、事業主も基本的にすべての予定を空けて立会をする必要があり、非常に負担が重いです。また、税務申告書の修正ということになると、追加で税金を払う必要があります。なるべく、税務調査に来られない方がいいというのが事業主の共通の思いではないかと思いますので、この記事では税務調査に来られないためにどうしたらよいのかをまとめました。
2-1 前期と比較して、大幅な黒字(赤字)にならないようにする
前期と比較して、大幅な黒字が出ている場合は、当然、その大幅な黒字が出ている要因となっている取引があるはずです。その取引が税務的に間違っていれば、税務署としては追加の税金がたくさんとれるチャンスです。そのため、税務調査が来る可能性が高まります。
また、逆に大幅な赤字になることもよくありません。意図的に赤字にしているのではと税務署が考え、やはり税務調査が来る可能性が高まります。
2-2 前期と比較して、売上・仕入・外注が急激に増加(減少)しないようにする
前期と比較して、売上が急激に増加している場合、税務署は直前期の前の期の所得を抑えるために、売上の計上時期を遅らせているのではないかという疑念を持ちます。逆に売上が急激に減少している場合、直前期の所得を抑えるために、売上の計上時期を遅らせているのではないかという疑念を持ちます。こういった場合、税務調査が来る可能性が高まります。
仕入や外注についても、急激に増加、減少していれば、同様です。税務署は計上時期を通常よりも早めているのではないか、遅らせているのではないかという疑念を持ちます。
2-3 前期と比較して、在庫が急激に増加(減少)しないようにする
前期と比較して、在庫が急激に増加している場合、税務署は仕入として計上すべきものを仕入にしていないのではないという疑念を税務署は持ちます。逆に在庫が急激に減少している場合、税務署は在庫として実際は残っているものを、仕入にあがっているのではないかという疑念を持ちます。
こういった場合、税務調査が来る可能性が高まります。
2-4 税理士に法人税申告書等を作成・署名してもらう
後に続く2-5,2-6のような手続をしなくとも、自ら法人税申告書等を作成している法人は、
税理士に法人税申告書等の作成依頼をして、作成してもらうだけで税務調査が来る確率は減ります。というのは、法人税申告書等は、その作成に税理士が関与しているだけで、していない場合と比べて信頼性が格段に高まります。税務署職員は、税理士会の研修・納税者の申告状況の問い合わせ・税務調査等で税理士とコミュニケーションを取っており、税理士をある程度信頼しているためです。
2-5 税務に関するコーポレートガバナンスを充実させる
国税局調査部の特別国税調査官が所掌する「特官所掌法人(資本金40億円以上の一定の法人)」への税務調査の際に、法人に税務に関するコーポレートガバナンス(以下、税務CG)充実への状況に関する「確認表」を記入してもらい、その法人の社長と面談します。税務CGの状況が「良好」と判定等されれば、一定の取引等を国税当局に開示し、その適正処理の確認を受けることを条件に、次回実施調査までの間隔が延長されます。
税務CGの状況が有効かどうかは以下にある文書に基づいて評価されますが、代表的なものをここに抜粋して記載します。
http://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/160614/index.htm
確認項目 | 評価ポイント |
---|---|
税務コンプライアンスの維持・向上に関する事項の社訓、コンプライアンス指針等への掲載 | 税務コンプライアンスに特化した指針等がある又はコンプライアンスに関する社訓や指針等に税務コンプライアンスに関する項目を明示的に掲載しているか |
経理上の処理(解釈)に関して、事業部門や国内外の事業所から経理担当部署への情報の連絡・相談体制の整備(例:一定の取引については経理担当部署へ決裁文書が回付されるなど) |
|
個々の業務における経理処理のチェック体制及び税務処理誤りの防止策 |
|
2-6 税理士法第33条の2に規定する書面添付制度を利用する
書面添付制度とは、税理士が、ある項目を作成するのに、どういった資料をどの程度確認して、どのように検討・判断したのかを書いた書面を添付する制度のことです。また、税理士が納税者から相談を受けた事項等も記載します。この書面添付は税理士の権利により提出するもので、その責任は税理士にあります。その書面を添付した申告書を税務署に提出することになります。
書面には以下のような事項を記載します。
勘定科目等 | 事項 | 備考 |
---|---|---|
製品売上高 | 収益計上基準は、出荷基準であることを確認し、売上が出荷基準により、適正に計上されているかを確認した。 | 請求書控、送り状、売上帳 |
棚卸資産 | 製品・原材料・貯蔵品については、棚卸表と棚卸立会結果が整合していることを確かめた。また仕掛品については、原価を構成する材料費・労務費・経費について、期ずれ等はないことを確かめた。 | 棚卸表 棚卸立会結果 仕入・経費 請求書」 |
顕著な増減事項 | 増減理由 |
---|---|
売上高の増加と粗利率の増加 | 年間を通じて大口取引先A社の設備投資意欲が高かったことから、前期より売上高が1億円増加した。また、原材料の調達コストの削減、機械化に伴う人件費の減少により粗利益率も上昇した。 |
役員借入金 | 買掛出金、売掛入金のタイミングの関係で、資金繰りが苦しくなったため、代表者個人の定期預金を取り崩して対処したものである。 |
この書面添付制度を利用した納税者に予告調査(あらかじめ日時、場所を通知して税務調査を行う)を行う場合は、その通知前に書面を添付した税理士に対し、添付した書面に記載された事項に関して意見を述べる機会を与えなければなりません。この意見聴取段階で税務当局の疑問点が解消された場合には、税務調査にならない場合もあります。また、意見聴取における質疑等のみに起因して提出した修正申告書については、加算税が賦課されることもありません。
このように、書面添付制度を利用すれば、利用しない場合に比べて税務調査は確実に減ることが期待されます。しかし、通常の申告書等に加えて、追加の書類を税理士に作ってもらうことになります。またこういった文書を出すことは税理士が追加のリスクを負うことになるので、税理士に払う報酬は高くなることを心に留めましょう。
3 税理士に決算書作成を依頼するメリット
決算書作成には大まかに言うと、以下のステップを踏むことが必要です。
3-1 お金と時間の有効活用ができる
- 日々の取引の記帳
- 決算修正仕訳を切る。
- 消費税申告書の作成をする。
- 法人税申告書の作成をする。
- 申告書への付随書類を作成する。
これらを自社内で行うためには、自社内で専門的な知識を持つ人を雇うか、事業主が自分でやるしかありません。ある程度規模の大きな会社であれば、自社内で専門的な知識を持つ人を雇うのもいいと思いますが、売上や利益を大きく伸ばしていかなければならない局面では、お金や時間を使うべきはそれらに直接貢献してくれる人材です。
税理士に決算書作成等を依頼することにすれば、そういった人材にお金と時間を集中させることができます。
3-2 外部取引先から信頼性を得やすい
ここで言う外部取引先は様々ですが、税理士関与の有無により対応が大きく変わるのは金融機関からの借入です。事業主が事業を拡大しようとした場合に、事業主の個人資金や事業から得た留保金では足りないことが多々あります。そのために金融機関から借入をして資金を得るのですが、金融機関は事業主が返済スケジュール通りにお金を返してくれるのかを気にします。
昨今では事業主の今後の事業計画を重視して融資するように金融庁が指導しているといった話等も聞こえてきますが、当然、金融機関は過去の決算書の数字を確認します。ここで、金融機関は税理士が関与していない事業主の決算書は誤りがあるのではないかという目で見てきます。一方、税理士が関与している事業主の決算書には信頼を置きます。
また融資をしてもらう時点だけではなく、融資中も金融機関は決算時点だけではなく、期中もどのような業績を挙げているかをチェックします。そういった場合も税理士の場合は対応が早く内容もしっかりしているという認識が金融機関にあります。
3-3 節税の提案が受けられる
税理士に決算書作成を依頼するならば、依頼する決算期到来の3か月くらい前までに依頼するようにしましょう。それくらい前であれば、例えば、利益が出すぎてしまって困っているという事業主の悩みに税理士は答えてくれるはずです。この例であれば、例えば、中小企業倒産防止共済へ掛金を拠出するのはどうでしょうかという提案をもらえます。中小企業倒産防止共済は年間で240万円まで拠出でき、それを税務上の費用とすることができます。利息がついたりするわけではありませんが、いつでも必要な時に引き出すことができますので、節税等にはよく使われます。
これまでの話は法人税の決算書にフォーカスしたものですが、税理士はそれ以外の節税策も提案できます。事業主は自分の法人の申告以外に、個人の所得税の申告もしなければなりません。事業主は法人から役員報酬をもらうわけですが、その役員報酬の金額は法人税、事業主の所得税のバランスを考えて決定する必要があります。役員報酬をたくさん取ると、法人税は低くなりますが、事業主個人の所得は高くなります。役員報酬を抑えると逆の傾向になります。
そんなに難しい話ではないのではと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、法人税は所得に対してほぼ定率でかかるのに対して、所得税は所得が高くなるについて、階段上に税率が上がります。また、法人税と所得税の税率も違います。こういったことを加味して、法人税、所得税の合計がなるべく低くなるように役員報酬を決めるといったことも税理士なら対応してくれます。
3-4 税務調査の立会が円滑に行われる
税務署から事業主への税務調査の連絡から、税理士関与の有無で変わってきます。税理士が関与していない場合、税務署から事業主に連絡があってそれで終わりです。税理士が関与している場合、税務署から事業主に連絡があるとともに、税務署から直接関与税理士にも連絡があります。すぐに関与税理士から事業主に連絡があり、大まかな今後の流れや打ち合わせをしたい事項等を教えてもらえるでしょう。
また、税務調査当日に用意しなければならない資料についても指示があるはずです。税務調査時には税務調査官が事業主本人や従業員に直接ヒアリングする場面があります。事業主本人や従業員のしゃべり方が端緒になり、修正申告になり、追加納税になるということがよくあります。そのため、会社の税務リスクを認識している税理士が、税務署に当日に質問されて突っ込まれると考えられる事項について、どのように話すのかをレクチャーしてくれるはずです。
当然、税務調査当日は、税理士は税務調査官からの質問に答えてくれます。また、税務調査が終盤になると、税務調査官は会社にいくつか修正申告する論点を持ちながら、調整に入ります。最終的な落としどころの調整の交渉も税理士が対応してくれます。税務調査で指摘される事項というのは、100%税務調査官の指摘が正しいということはあまりなく、税理士や事業主次第というところがあります。対応で場合によっては数百万、数千万変わってきますので、これは大変重要です。
税務調査に狙われないためには、決算書が前期と比較して大きな増減が出ないようにすること、税理士に決算書作成を依頼して、税理士に税務調査対策をしてもらうことが大切です。
4 アウトソーシングを取り巻く背景
経理は企業における機能として非常に重要です。より正確で効率的な経理の体制を築くため、アウトソーシングの導入を考えている企業も多いのではないでしょうか。
アウトソーシングの中でも総務・経理・人事業務においてノンコア業務のプロセスを外部にアウトソーシングすることを、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)といいます。BPOサービスは欧米企業を中心に積極的に取り入れられていますが、今後は日本でも広がっていくと考えられています。今回はBPOのうち、経理業務におけるBPOの活用について紹介したいと思います。
企業成長の原動力の1つとして業務のアウトソーシングが注目されつつあります。なぜ、アウトソーシングに期待されているのか、アウトソーシングを取り巻く背景も含めて紹介いたします。
4-1 アメリカ復興のきっかけはアウトソーシング
1980年代において、日本の製造業は黄金期を迎え「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称されるほどまで成長しました。アメリカ国内においても、アメリカ企業が日本企業に圧倒され厳しい状況となっていましたが、そんな中で1990年代に入りアメリカの製造業が復活した原動力の1つと言われているのがアウトソーシングです。
アウトソーシングという業態において有名なのがEDS社(現ヒューレット・パッカード)です。EDS社はコンピュータを購入した企業が、そのコンピュータを効率的に使いこなせていない点に注目しました。単にコンピュータを売るだけでなく、企業のシステム部門が行っていた情報システム全般の業務を引き受けるサービスを始めたのです。
EDS社にシステム業務をアウトソーシングした企業は、運用をプロに任せることでコンピュータが持つ本来の力を発揮することができるようになりました。専門分野を専門家にアウトソーシングすることで、委託元の業務効率が上がり、企業の成長へとつながっていったのです。
アメリカでは経理の分野でもアウトソーシングの導入が進んでいます。シリコンバレーではソフトウェアの開発をアウトソーシングする流れは以前からありましたが、最近では経理業務もアウトソーシングするのが主流になりつつあります。また、アメリカではサラリーマンも確定申告する必要があるのですが、その確定申告もかなりの割合でアウトソーシングされています。
経理分野におけるアウトソーシングは、日本ではまだまだ成長過程にありますが、アメリカでは20~30年前から社会に浸透してきているのです。
4-2 コア・コンピタンス経営とアウトソーシング
企業がコアな業務に特化し、ノンコアな業務を外部に委託するというコア・コンピタンス経営とアウトソーシングは密接な関係にあります。
コア業務とはいわゆる本業をいい、競合他社に対する優位性を獲得するため社内の人間にしかできない業務、または、社内の人間がやるべき業務になります。これに対して、ノンコア業務とは社内の人間が管理さえすれば実際の業務は外部の人間がやっても問題のない業務になります。
自社の本業にとって重要ではないノンコア業務をアウトソーシングし、コア業務に特化することで経営効率を高めていきます。また、ノンコア業務を専門性の高い外部の業者にアウトソーシングすることで、結果としてより質の高いものが提供され、スピーディーに対応が可能になります。
iPhoneやiPadなどでスマートフォンの世界シェアを獲得しているアップル社を例にとってみましょう。アップル社では自社製品の企画、開発、マーケティング等を中心にコア業務として自社で行っています。一方で、部品の製造や組み立て等といった業務はノンコア業務として、より専門性の高い企業にアウトソーシングしています。このようにアップル社はアウトソーシングを上手に活用することで、高い経営効率を確保しているのです。
このコア・コンピタンス経営は、経理業務にも当てはめることができます。多くの企業にとって伝票の入力や月次試算表の作成、決算処理といった経理業務は、必ずしも社内の人間がやらなくてもよいノンコア業務に当たります。この経理業務を外部の専門会社にアウトソーシングすることで、経営効率を高めることが可能であると考えられるのです。
4-3 日本におけるアウトソーシング事情
IT専門調査会社であるIDC Japanが発表した「国内ビジネスプロセスアウトソーシングサービス市場予測、2018年~2022年」によると、2017年の国内BPOサービス市場規模は前年比4.7%増の7,346億円となっています。また、2017年~2022年の年間平均成長率は3.6%、2022年の市場規模は8,769億円と予測されています。
世界と比較すると成長速度は遅いものの、この低成長の時代において確実に成長していることが分かります。
日本の企業の場合、業務の標準化が進んでおらず属人的になっている、BPO導入後の余剰人員の有効活用ができないなどの課題があり、BPOを進めることが難しい環境にあることも多いです。しかしながら、これらの課題を積極的に解決して、BPOを導入している企業が増えていることも事実です。
ソフトバンクの孫正義社長がよく使う言葉に「タイムマシン経営」というものがあります。アメリカで成功したビジネスモデルは日本でも必ず成功するという意味で使われているのですが、BPOの活用についても同じことが言えるかもしれません。世界の流れに乗り遅れず市場で生き残るため、日本の企業でもBPOの導入を検討すべき段階に入ってきています。
5 経理業務をアウトソーシングする目的とメリット
経理業務をアウトソーシングする場合において、その目的を明確にすることが重要になります。
経理業務のアウトソーシングの目的として考えられるものとして、コア業務への集中、コスト削減、専門性の向上などが考えられます。ただ、すべての目的を達成することができれば問題はないのですが、「専門性の向上」を目的とした場合にはそれ相応のコストがかかることが考えられるため、「コスト削減」という目的とは相反することになってしまいます。そのため、アウトソーシングを導入する際には目的を明確にするとともに、その優先順位を決めることもまた重要であるということができます。
5-1 コア・コンピタンス経営の経理への導入
アウトソーシングを導入する企業の多くが重要視していることは、自社でやらなくてもよいノンコア業務を他社にアウトソーシングすることで、人材等の経営資源をコア業務に集中させることです。ただ、経理業務のアウトソーシングを導入する場合において、そのすべての業務をアウトソーシングしてもいいというわけではありません。経理業務もコア業務とノンコア業務に分けて考える必要があります。
経理におけるコア業務とは、企業の未来の数字にかかわる業務になります。企業の成長を目的とした将来の投資や、適切な経営判断を行うための管理体制の設計など、企業の将来設計に影響を及ぼす業務についてはアウトソーシングすべきではなく、自社で行い、これらのノウハウを社内に蓄積し、将来の成長へとつなげていくものになります。
具体的には予算管理、投資計画、買収戦略、管理会計、原価計算などが挙げられます。
一方で、経理におけるノンコア業務とは、企業の過去の数字にかかわる業務になります。経理では会計・税務といった一定のルールにしたがって後付けで処理を行うものも多いです。ある一定の経験や知識は必要になりますが、基本的には誰がやっても同じ結果となるものであるため、アウトソーシングすることで効率化が図れる業務であるということができます。
具体的には伝票入力、月次試算表作成、年次決算業務、税務処理、請求書発行業務、支払業務、社員の経費精算などが挙げられます。
5-2 コスト削減
経理業務のアウトソーシングする目的の1つにコスト削減があります。
経理の業務内容をレベル別に分けると「単純な入力作業」「簿記や会計の知識を必要とする作業」「税務等の専門知識を必要とする高度な作業」の3つ分けることができます。事業規模にもよりますが、これらのすべての作業を行うには、それぞれのレベルにあった人員が必要になります。事業規模が小さい会社であれば「高度な作業」ができる人が1人いればいいのかもしれませんが、そういった人材は人件費が高く、またその「高度な作業」ができる人に「単純な入力作業」もしてもらうことはコスト面で非効率になってしまいます。
アウトソーシングを導入した場合、これらの作業をすべて専門業者に委託し、それを管理できる人が1人いれば大丈夫ということになります。
また、企業によっては繁忙期と閑散期で経理業務の量にも時期によってバラつきがある場合があります。繁忙期に合わせて人員を確保した場合、閑散期には人員が余ることになり人件費が高くついてしまいます。逆に閑散期に合わせて人員を確保した場合には、繁忙期には経理業務が追い付かず回らなくなってしまいます。
そのようなケースでもアウトソーシングを利用することで、全体のコストを一定水準に抑えることができます。また、人件費は会社の業績に関係なく一定にかかるという意味で通常は固定費として計上されますが、アウトソーシングを利用した場合には作業量によって費用は増減しますので変動費として計上できることもメリットの1つと言えます。
5-3 業務プロセスの改善・標準化
前項においてコスト削減について触れましたが、コスト削減できるのは人件費に限ったことではありません。通常の業務を振り返ってみると、昔からの書式を踏襲しているため同じような書類がいくつも作成されている、部門間の連携が悪く同じような作業を複数の部門で行っている、システムが十分に活用できておらず別途エクセルで管理しているなど、業務プロセスにムダな部分があることがよくあります。
このように業務効率が悪い中で作業をしていると業務にかかる時間が長くなり、その分コストがかかります。また、業務が複雑化しているため間違えが起こりやすくなってしまいます。これらの問題を社内で改善できればいいのですが、当事者では気付かなかったり、気付いていても以前からやっていることだからと、そのまま手付かずになってしまっていたりすることもあります。
アウトソーシングを導入する場合は、現状の業務プロセスをそのまま移管するのではなく、現状分析を行ったうえでアウトソーシングできる業務を抽出するのが一般的です。その際に、アウトソーシング業者という他者の目が入ることにより業務プロセスを見直し、改善・標準化を図ることが可能になります。
5-4 専門的な知識・経験の活用
税法は国際的な流れを受けて毎年かなりの改正が入ります。また、中小企業においても金融機関から金利の優遇を受けるために、一定の会計基準による処理が要求されています。このように、税務・会計の改正の多さや複雑化を背景として、経理業務には専門性の向上が求められてきています。
税務・会計に関する情報はいろいろな媒体を通じて常に発信されていますが、それらすべてを網羅することは困難です。そこで、専門的なことは専門業者へアウトソーシングすることが効率的であるといえます。
アウトソーシング業者はその道のプロですから専門的な知識を常に学んでいることはもちろんなのですが、それ以上に経験値の高さが魅力です。アウトソーシング業者は多数のお客様にサービスを提供することによってさまざまな課題にぶつかり、それらを解決することで多くのノウハウを蓄積しています。1社の経理業務を担当しているだけでは経験しないようなことも、100社の経理業務を担当することで経験することもあります。そうして蓄積されたノウハウを他のお客様にも提供することができるのです。
企業は経理業務をアウトソーシングすることで、それらのノウハウを享受することができます。アウトソーシングを導入することで委託した業務に関する品質を気にかけることなく、コア業務に集中することができます。結果として、専門性の向上を目的としてアウトソーシングを導入することがコア・コンピタンス経営へとつながることになります。
5-5 社員の欠員によるリスク回避
経理業務に限ったことではありませんが、採用した社員が1人で一通りの業務をこなせるようになるにはかなりの時間を要します。そして、その社員が安定して働いていてくれればいいのですが、退職してしまったり、また事故や病気などにより長期休暇を取らざるを得ない状況になることも考えられます。
経理部門の人員が多い大企業でしたら問題はないと思いますが、経理部員が少ない中小企業や経理部員が育成段階にあるベンチャー企業などでは、立て直しにかなりの時間を要します。引継ぎに十分な時間があり、また、マニュアルが完備されていればいいのですが、そうではない場合も多いことでしょう。
さらに、社員が退職した場合、新たに人員を採用しなければなりません。その場合、人員を採用するための募集や採用後に育成するための教育にもコストと時間がかかります。社員が欠員してしまうというリスクに対する備えとしても、経理業務のアウトソーシングは有用な手段であるといえます。
5-6 不正防止
経理部門での社員による横領事件は企業に大きな被害をもたらします。特に中手企業の経理部門で、1人の人間だけで業務を行える環境になっていたり、同じ人間が長期間に渡って業務に携わっておりチェック機能が働いていない場合には不正が起こりやすい状態であるといえます。
支払業務を例にとってみると、経理部門に届いた請求書をもとに銀行の支払データを作成し、その内容を仕訳に起こして帳簿を作成するという業務が発生します。この作業を1人の社員だけに任せてしまうと、不正に送金し帳簿をごまかすことで簡単に横領することが可能となってしまいます。これを防ぐためには、それぞれの作業を確認・承認する上席の社員がもう1人に必要になります。人員に余裕がある企業であればよいのですが、すべての企業がそういう環境にあるわけではありません。
そこで、アウトソーシングを活用して外部の目を入れることで牽制を図るケースもあります。支払処理と帳簿作成の業務をアウトソーシングし、それを管理する人間を1人配置することで、人件費のコストを抑え、業務の効率化を図るとともに、不正が起こるのを防止する効果を同に得ることができます。
6 アウトソーシングの導入によるデメリット
これまで経理業務をアウトソーシングする目的・メリットについてご紹介してきましたが、アウトソーシングを導入する際にはそのデメリットについても認識しておく必要があります。アウトソーシングの導入についてはメリット・デメリットを踏まえたうえで、慎重に検討すべきです。
6-1 業務のノウハウが社内に蓄積されない
経理業務を外部のアウトソーシング会社に委託するということは、同時に社内において経理の業務プロセスや経験・知識といったノウハウが蓄積されないことを意味します。単純な入力作業のようなルーティンワークのみをアウトソーシングしているようなケースであれば問題はないと思いますが、高度な知識や経験にもとづく判断を要するような業務をアウトソーシングしているケースでは相応のリスクが伴います。
アウトソーシングをやめて経理業務を再び自社でやろうとした場合、社内でノウハウが培われていない分、業務の効率は大幅に低下することになります。また、アウトソーシング業者が事業撤退したり倒産してしまった場合には、経理の機能が一時的にマヒしてしまう可能性もあります。
対応策としては、アウトソーシング会社と定期的にミーティングを開き業務内容やフローを確認する、アウトソーシング会社に作業手順書を作成してもらうなど、委託した業務を任せきりにするのではなく、的確にマネジメントしていくことが重要になります。
6-2 タイムリーな対応が難しい
アウトソーシング業者は、基本的に契約時に取り決めた業務プロセスやスケジュールにもとづいて業務を行います。イレギュラーな事象が起きた場合の緊急的な対応が難しくなります。
また、社内に経理部門がある場合と違い、オンタイムでの数字が分かりません。経理部門では経営者等から、途中段階で暫定的な業績数値を求められることがしばしばあります。しかしながら、アウトソーシング業者は契約で取り決めたスケジュールにもとづいて作業するため、委託者側では納期に作業が完了するまで数字を把握することができないのです。
経理業務のアウトソーシングを導入する際には、社内で緊急対応ができる方法や無理のないスケジューリングを事前に検討しておく必要があります。
6-3 情報漏えい・セキュリティ問題
アウトソーシングはその特性上、個人情報や顧客情報といった社内の重要なデータを外部のアウトソーシング業者に提供することになります。また、クラウド型のシステムを利用する場合には、IDとパスワードさえあれば、あらゆるデバイスからアクセすることが可能な状況が作られることになります。
2005年に個人情報保護法が施行され、企業には情報管理の徹底が求められていますが、それでも情報漏えいのリスクがまったくないというわけではありません。また、近年ではサイバー攻撃といわれる組織単位、国家単位でのクラッキング行為がニュースで話題にのぼることも多く、その脅威は日に日に増しています。
アウトソーシング業者を選定する際には、委託先のセキュリティ体制について必ず確認するようにしましょう。
7 アウトソーシング導入のステップと留意点
経理業務のアウトソーシングを導入することが決定したからといって、アウトソーシング業者を適当に選び、業務プロセスをそのまま丸投げすればよいということではありません。アウトソーシングを効率的に活用するためには事前に必要な準備をしたうえで、企業の規模や状況に合った業者を選定することが重要です。
7-1 アウトソーシングの方向性の決定
先に述べたように、経理業務のアウトソーシングを導入する際には、その目的と優先順位を決めておく必要があります。目的と優先順位が決まったら、次に考えることは、経理業務のうちどのプロセスをどのような形でアウトソーシングするかということになります。そのためには、まず自社の状況を分析し、弱み・強み・人員体制などの状況を把握しましょう。
自社の状況を分析した結果、人員が不足しているなどの理由から弱い部分があるのであれば、その部分をアウトソーシングすることはとても有効な手段といえます。人員体制は整っているが業務効率に問題がある場合には、「業務プロセスの改善・標準化」を目的として一度アウトソーシングし、業務プロセスを整備したうえで、再び自社に戻すという方法も考えられます。また、業務プロセスに問題がなく「コア業務への集中」を目的とするのであれば、すでに確立されたルーティンワークをアウトソーシングすることで効率化が図れるでしょう。
このように、企業の状況によって、アウトソーシングする業務プロセスやアウトソーシングの方法は変わってきます。まずは自社に合ったアウトソーシングの方向性を決めることが重要になります。
7-2 導入前の業務プロセス見直し
アウトソーシングを導入する前に、もう一度、業務プロセスを見直しましょう。業務プロセスを効率化するためにアウトソーシングするのではないのかと疑問に思うかもしれませんが、アウトソーシング導入の失敗例の多くは、導入前の現状の分析・把握ができていないことによる企業とアウトソーシング業者の間の認識のズレが原因となっています。
また、アウトソーシングにかかるコストは業務時間や作業量によって決まります。非効率な業務を非効率なまま委託してしまうと、その分だけ多額の報酬を支払うことになり、アウトソーシング導入の目的の1つであるコスト削減が達成できない結果となってしまいます。
上記のような理由から、アウトソーシング導入時の業務プロセスの見直しが成功のカギとなります。アウトソーシング導入をきっかけに、専門家であるアウトソーシング業者の視点も活用して効率的な業務プロセスの再構築を検討するとよいでしょう。
7-3 アウトソーシング業者の選定
アウトソーシングを導入する際には、数ある業者の中から自社の状況と目的に合った業者を選定しなければなりません。選定にあたっては、まず以下の項目を確認しましょう。
- 会社情報
- サービス内容
- 料金
- 受託実績
- 専門スタッフ・有資格者の有無
- 情報セキュリティの管理体制
- 個人情報保護方針
また、複数の部署でアウトソーシングを検討している場合には、部署間の連携も含めて検討する必要があります。特に、経理と人事は業務を行う上で密接な関係にあります。経理業務と同時に給与計算のアウトソーシングも検討しているのであれば、それぞれ別の業者に委託するよりも、その両方の業務をカバーできるような業者を選ぶことでより一層の効率化が図れるでしょう。
8 目的別おすすめアウトソーシング業者
アウトソーシングを有効に活用するためには、アウトソーシング導入の目的に合った業者を選定する必要があります。ここでは、目的別におすすめのアウトソーシング業者をご紹介したいと思います。
8-1 コスト削減に適したアウトソーシング業者
Q-TAX経理代行センター(http://keiribu.com/)
記帳代行、請求・支払業務といった経理業務全般から給与計算・年末調整といった人事業務まで幅広い業務への対応が可能。セキュリティにも定評があり、安心して業務を任せることができます。
記帳・経理・給与計算代行センター(http://keiri-omakase.jp/)
記帳代行のみ890円~という低コストプランから資金繰り表作成や経営指標レポート作成といったオプションまで豊富なメニューがそろっています。また、スポットでの法人税・消費税申告書の作成にも対応しており、最短5営業日で作成するというサービスも提供しています。
メリービズ(https://merrybiz.jp/)
経理書類を独自のルールに沿って仕訳入力するロボット経理を導入しているのが特徴。また、ロボット経理では対応が難しい業務を代行するバーチャル経理アシスタントというプランも用意しており、企業に合わせた様々な要望に応えることが可能です。
8-2 業務プロセス改善に適したアウトソーシング業者
グローウィン・パートナーズ・アカウンティング(http://www.growin-ac.jp/)
会計コンサルティング会社をグループ企業に持つアウトソーシング業者。経理業務のアウトソーシングだけでなく、業務プロセスの改善や決算の早期化、管理会計制度の構築などのコンサルティング業務も行っています。
NOCアウトソーシング&コンサルティング(https://www.noc-net.co.jp/)
経理業務・人事業務だけでなくカスタマーサポートやキャンペーン事務局などのバックオフィス業務についてもサービスを提供している総合アウトソーシング会社。導入前に業務ヒアリング、現場調査を実施し、その後の業務プロセス改善や最適なアウトソーシング導入方法など企業の実態に合ったサービスを提供しています。
8-3 専門性の高いアウトソーシング業者
経理・記帳代行サポートオフィス(https://www.keiri-tokyo.com/)
税理士法人YFPクレアが母体となっている経理代行サービス。記帳代行、請求・支払業務、給与計算といった業務はもちろん、決算申告や税務調査立会い、銀行での融資サポートまで幅広いサポート業務を行っています。
CSアカウンティング(https://www.cs-acctg.com/)
約200名の公認会計士、税理士、社会保険労務士などのプロフェッショナルなスタッフがそろっており、経理業務・人事業務のすべてをワンストップで提供しています。BPO業界で20年以上の実績があり、上場企業をはじめとして2,000社以上のクライアントを抱える大手です。
サンライズ・アカウンティング・インターナショナル(http://www.sun-inter.jp/)
公認会計士、税理士、USCPA(米国公認会計士)といった会計のプロフェッショナルに加え、高い英語力を有したスタッフが多数在籍しているのが特徴。外国法人の日本支社設立や英文財務レポートの作成など会計分野においてグローバルな対応が可能となっています。
9 まとめ
経理業務のアウトソーシングについてご紹介させていただきました。アウトソーシングを導入するには、まずはその目的と優先順位を決めることが先決です。そして、導入目的が決まったら自社の業務プロセスを分析・把握し、方向性を定め、適切な準備をした上で、自社にとってもっともふさわしい業者を選定するというステップを踏むことが、アウトソーシング導入成功への道となります。アウトソーシングを上手に活用して、業務の効率化・企業の成長につなげていきましょう。