欧米を中心に議論されている移民問題。移民を多く受け入れているドイツやスウェーデンでは中東から移民・難民が大量に押し寄せ、社会保障の支出も増加しています。ドイツでは50万人以上の難民が社会保障制度を利用している状態であるとも報じられました。
移民の受け入れは人口増加や労働力の確保につながる一方、治安悪化や自国民の雇用を奪うのではないかといった懸念も絶えません。アメリカではトランプ大統領がイスラム教を入国禁止とする大統領令を発令し、これに反発したデモ隊と警察が激しく衝突しました。
移民排斥の動きはヨーロッパでも見られ、移民受け入れの全面停止を主張する「国民戦線」元党首のルペンはフランス大統領選でマクロン候補(現仏大統領)に敗れたものの、3割以上の支持を得ました。
さらに、増加の一途を辿る移民に対して不満を募らせる人が増えているという事実を裏付けるデータが、9月、英調査会社のイプソスモリより発表されました。同社が行った移民に関する最新の調査結果によると、世界の75%の人が「移民が増えている」と感じており、さらに約半数が「移民が多すぎる」と感じていることが明らかとなりました。
本記事ではイプソスモリの調査結果をもとに、移民に対する一般市民の意見を詳細に見ていきます。
1 4人に3人が「移民が増えている」と感じている
イプソスモリは世界25ヵ国※の65歳未満の成人を対象に、オンライン上で移民に関するアンケート調査を行いました。
1-1 調査結果概要
調査結果によると、過去5年間で「自国に入国する移民の数が増加している」と考えている割合は、全体平均で75%(前年比3ポイント減少)となりました。一方、「変わらない」は20%、「減っている」は6%でした。
・ 過去5年間で移民が増えたか
増えた | 75% |
変わらない | 20% |
減った | 6% |
(イプソスモリ発表資料より作成)
次に、「移民がポジティブな影響を与えているか、もしくはネガティブな影響を与えているか」との質問では、「ネガティブである」とする回答が42%で最も多く、次いで「変わらない」34%、「ポジティブである」21%、「分からない」3%となります。
・ 移民はポジティブもしくはネガティブどちらの影響を与えているか
ポジティブ | 21% |
変わらない | 34% |
ネガティブ | 42% |
分からない | 3% |
また、「移民が自国に好ましくない変化を引き起こしていると思うか」では、「そう思う」が44%で最も多く、次いで「どちらでもない」28%、「そう思わない」24%、「分からない」4%と続きました。
・ 移民は望まない変化を与えているか
そう思う | 44% |
どちらでもない | 28% |
そう思わない | 24% |
分からない | 4% |
(イプソスモリ発表資料より作成)
「移民が多すぎると思うか」の質問では、「そう思う」が48%で最も多く、次いで「どちらでもない」27%、「そう思わない」21%、「分からない」5%と続きました。
・ 移民は多すぎるか
そう思う | 48% |
どちらでもない | 27% |
そう思わない | 21% |
分からない | 5% |
1-2 最も増えたのはドイツとスウェーデン
過去5年間で移民が増えたと回答する割合を国別にみると、最も多かったのはペルーで91%でした。次いで、スウェーデンおよびトルコ90%、イタリア88%、ブラジル86%、南アフリカ・ベルギー・フランス・セルビア・ドイツ85%と続きました。
一方、最も少なかった上位3カ国は韓国(49%)、日本(50%)、サウジアラビア(54%)となりました。
国名 | とても増えた | 少し増えた | 合計 |
---|---|---|---|
ペルー | 58% | 33% | 91% |
スウェーデン | 66% | 25% | 90% |
トルコ | 78% | 12% | 90% |
イタリア | 74% | 14% | 88% |
ブラジル | 51% | 35% | 86% |
南アフリカ | 61% | 24% | 85% |
ベルギー | 58% | 28% | 85% |
フランス | 58% | 27% | 85% |
セルビア | 58% | 27% | 85% |
ドイツ | 65% | 20% | 85% |
ロシア | 52% | 28% | 81% |
カナダ | 51% | 30% | 80% |
メキシコ | 48% | 31% | 79% |
アルゼンチン | 43% | 31% | 74% |
インド | 29% | 43% | 72% |
イギリス | 40% | 31% | 71% |
ハンガリー | 28% | 41% | 69% |
オーストラリア | 38% | 30% | 68% |
アメリカ | 37% | 28% | 64% |
スペイン | 35% | 27% | 61% |
ポーランド | 21% | 40% | 61% |
サウジアラビア | 27% | 26% | 54% |
日本 | 9% | 41% | 50% |
韓国 | 10% | 38% | 49% |
平均 | 45% | 30% | 75% |
(イプソスモリ発表資料より作成)
なかでもドイツは63%(2011年)から93%(2017年)で、過去5年間で30ポイントの最大の増加を見せました。次いでスウェーデン(66%から94%)で28ポイント増加しました。
※ 調査対象国はペルー、スウェーデン、トルコ、イタリア、ブラジル、南アフリカ、ベルギー、フランス、セルビア、ドイツ、ロシア、カナダ、メキシコ、アルゼンチン、インド、イギリス、ハンガリー、オーストラリア、アメリカ、スペイン、ポーランド、サウジアラビア、日本、韓国の25ヵ国です。
2 「移民は良い影響を与えている」わずか2割
「移民はポジティブな影響を与えている」と回答する割合は、わずか21%にとどまっており、最も回答率が低かったのはハンガリーで5%となりました。次いでセルビア6%、トルコ・ロシア9%、イタリア・アルゼンチン・メキシコ10%、日本・ベルギー11%、フランス14%となりました。
2-1 サウジアラビアは移民を高く評価
一方、最も回答率が高かったのは、サウジアラビアで45%でした。次いで、インド44%、イギリス40%、カナダ・オーストラリア38%、アメリカ35%、スウェーデン25%、ブラジル22%、スペイン20%、韓国20%と続きました。
・ ポジティブと回答した国の割合
国名 | 2017年 | 2011年 |
---|---|---|
サウジアラビア | 45% | 38% |
インド | 44% | 43% |
イギリス | 40% | 19% |
カナダ | 38% | 39% |
オーストラリア | 38% | 31% |
アメリカ | 35% | 18% |
スウェーデン | 25% | 37% |
ブラジル | 22% | 30% |
スペイン | 20% | 19% |
韓国 | 18% | 27% |
南アフリカ | 18% | 10% |
ドイツ | 18% | 16% |
ペルー | 17% | – ※ |
ポーランド | 15% | 22% |
フランス | 14% | 14% |
ベルギー | 11% | 9% |
日本 | 11% | 17% |
メキシコ | 10% | 17% |
アルゼンチン | 10% | 15% |
イタリア | 10% | 14% |
ロシア | 9% | 10% |
トルコ | 9% | 6% |
セルビア | 6% | – ※ |
ハンガリー | 5% | 8% |
平均 | 21% | 21% |
※ 該当データなし
(イプソスモリ発表資料より作成)
2-2 ポジティブと回答する割合が最も減ったのはスウェーデン
2011年との比較で、「移民はポジティブな影響を与える」と回答する割合が最も少なくなったのはスウェーデンで、5年間で12ポイント減少しました。
一方、アメリカは18%(2011年)から35%(2017年)と、17ポイントの上昇を見せました。トランプ大統領の政策により自国第一主義が高まりつつあるアメリカでは、移民排斥を訴える市民が一定数いるものの、歴史的に移民で成り立った国家であるだけに抗議する人権団体も多く、両者による衝突は激しさを増しています。
また、イギリスは11%(2011年)から40%(2017年)と、21ポイントの上昇となりました。
3 「移民がもたらす変化は不快」、4割超
移民が来ることによって自国に変化が起こることに対して不快だとする割合は平均で44%となりました。
3-1 トルコでは8割近くに
国別では、最も多かったのがトルコで77%に達します。
次いでイタリア63%、ロシア57%、ベルギー56%、ハンガリー54%、南アフリカ52%、フランス・インド49%、スペイン・アメリカ・アルゼンチン46%と続きました。
・ 「移民がもたらす変化は不快だ」と回答した国の割合
国名 | 2017年 | 2011年 |
---|---|---|
トルコ | 77% | 74% |
イタリア | 63% | 63% |
ロシア | 57% | 60% |
ベルギー | 56% | 55% |
ハンガリー | 54% | 56% |
南アフリカ | 52% | 49% |
フランス | 49% | 54% |
インド | 49% | 52% |
スペイン | 46% | 41% |
アメリカ | 46% | 52% |
アルゼンチン | 46% | 43% |
ドイツ | 45% | 44% |
オーストラリア | 45% | 49% |
スウェーデン | 45% | 41% |
イギリス | 44% | 47% |
セルビア | 43% | – ※ |
ポーランド | 42% | 43% |
カナダ | 41% | 44% |
サウジアラビア | 40% | 38% |
ニュージーランド | 38% | – ※ |
ペルー | 38% | – ※ |
メキシコ | 34% | 30% |
日本 | 32% | 24% |
韓国 | 27% | 30% |
ブラジル | 24% | 30% |
平均 | 44% | 46% |
※ 該当データなし
(イプソスモリ発表資料より作成)
3-2 ブラジルではわずか2割
一方、「不快だ」と回答する割合が最も低かったのはブラジルで23%でした。次いで韓国24%、日本27%、メキシコ32%、ペルー34%、ニュージーランド・サウジアラビア38%、カナダ40%、ポーランド41%、セルビア42%となりました。